第28話 無敵の男の殺害方法

 ミモイ村へ帰ると、ミィミィとチルチルの姿を見た村人達がパニックを起こしてしまった。何とか俺とシズクちゃんの使い魔であることを説明して、その場を静める。


 それからすぐに村の中を確認するも、まだ誰かが訪ねてきている様子はなかった。でももしかしたら、俺達が居ない間に訊ねてきたかもしれない。俺は確認のためにフランクさんの元へと向かった。


「ナオキ様、どうなされたのですか!?昨日出発したばかりではありませんか!」


 昨日出発したばかりの俺が慌てた様子で帰ってきた事で、フランクさんはとても驚いた様子で目を丸くしていた。


「ちょっと事情が変わってさ!俺が居ない間に、トルネア領主の使いみたいな人が訪ねてきたりしなかったか!?」

「領主様の使いですか?そのような方は来ていないと思いますが……いったいどうなされたのです?」


 そう問いかけてきたフランクさんの顔は少し不安そうに見えた。領主の使いと聞いて、俺が村から出て行ってしまうと思ったのかもしれない。相手側はそうしようと企てているみたいだが、美人のお姉さんならいざ知らず、禿オヤジの元へなんて行ってたまるものか。


「何処で聞いたかは分からないが、領主が俺の能力を知ったみたいなんだ。そこで、俺の能力を利用して、『ルキアス村』が製造してる魔法薬の買取価格を下げようとしている」

「なんと!土地神であるナオキ様を、私利私欲のために使おうと言うのですか!!」


 話を聞いたフランクさんは怒りを露にして、掌を机に叩きつける。


「そうみたいだ。だからその内この村へやってくると思う。その時に俺が居なかったら、村の皆に何するか分からないだろ?不安だから急いで戻ってきたんだ」

「ナオキ様……私達の身を案じてくださるとは!!」


 俺の言葉を聞いて、感激の涙を流すフランクさん。ここへ来る道中、エイリスさんが俺にしてくれた話をそのままフランクさんに伝えただけなのだが、まぁ良いだろう。


エイリスさん曰く、村人達が正直に話したとしても、嘘をついているとか言って難癖付けられて、荒探しされる可能性もあるらしい。


 その結果、皆で大切に育ててきた野菜や果物を徴収されてしまうかもしれない。それだけ絶対に避けないといけない。


「使者はいつやって来るか分からないからな!出来るだけ三つの村で情報を共有しておいてくれ!対応は俺がするから、絶対に馬鹿な真似はしないでくれよ!」

「仰せのままに!!直ぐに話をしてまいります!」


 そう言ってフランクさんは俺に頭を下げると、家から飛び出していった。そしてフランクさんと入れ替わるように、エイリスさん達とシズクちゃんがやって来た。


「まだ訪ねて来ていないみたいで良かったですね。ですが、使者が来るのは時間の問題ですよ?貴方が対応すると仰っていましたが……一体どうするつもりですか?」

「流石に領主の使いに適当な対応は出来ねぇぞ?それなりの振舞いを見せてやらねぇと、あっちにも立場があるからな」


 普段強気なルーシーさんでも、流石に表情を曇らせている。フレイとミリアさんも同意見なのか、何度も頷いていた。


「ではワシが話をつけるというのはどうじゃ!?トルネアの領主であれば、ワシの名を知らぬはずが無いであろう?」


 ワシの出番じゃと張り切って身を乗り出すシズクちゃん。だがお忘れだろうか。彼女は百年以上も姿を現してはいないのだ。


「それが一番無難だと思うんだけど。向こうはシズクちゃんが本物の土地神シズクだって知ってるのか?百年以上も姿を見せてなかったんだろ?」

「そ、そうじゃった!!ワシがあった領主は前の前の奴じゃった!!どうするのじゃ、ナオキ!!」


 案の定、あたふたしだすシズクちゃん。他の4人もどうするか頭を抱えていたが、俺は村に着くまでの道中で、一つだけ作戦を考えついていた。


「領主は俺の能力を利用して、魔法薬の買取価格を下げようとしてるんだろ?だったら領主が利用しようとしてる俺の能力が、期待してるほど凄くなかったら良いんじゃないか?」

「あぁん?何言ってんだ、ナオキ」


 俺の説明が下手だったのか、ルーシーさんは怒り気味にそう呟く。その隣で、エイリスさんがハッとした表情を浮かべてくれた。


「なるほど!自分の能力を偽り、回復薬よりも価値が低いように見せかけるというのですね?」

「そうです!そうすれば領主側も俺に騙されたと言い訳がつきますし、魔法薬の買取価格を正常に戻してくれると思いませんか!?」

「良い考えではありませんか!!領主側の面目も保てますし、その案で行きましょう!」


 初めて意見があった俺達は固い握手を交わす。この作戦が上手くいけば、全て元通りに収まるはず。


 何とかなりそうな空気が漂い始める中、ミリアさんが話づらそうな表情をして手を上げた。


「ミリアさん、どうしました?」

「あのぉ、凄く良い案だとは思うんですけど……神を詐称したとして、ナオキさんが処罰されませんかね?ほら、お爺さんの話では、土地神を自称する男を利用するとか言ってたじゃないですか!」


 ミリアさんの言葉により、明るくなっていた場の空気が、氷のように冷たくなっていく。


「どどどどうしよう!!最高の案を思い付いたと思ったのに、これじゃあ俺殺されちゃう!!」

「落ち着いてください!!貴方は何をされても死なないじゃないですか!!」

「そうだった!!はぁービックリした!脅かさないでくださいよ、ミリアさん!」


 そう、俺は無敵の男。処罰されようとも、俺は傷つかないのだから死にはしない。教会がやって来たところで、俺を罰せられる手段なんて無いんだ。


 そう強気になる俺隣で、フレイが不思議そうに首をかしげて見せる。


「いやでも、犯罪者として投獄される可能性はありますよ?武器では傷がつかなくても、餓死する可能性はあるんじゃないです?」

「ちょおっとフレイ!!なんて酷いこと言いやがる!!俺をビビらせて楽しんでるのか!!」

「わあわあ!揺らさないでくださいよぉ!!フレイはあくまでも、可能性を示唆しただけです!!」


 涙を流しながら、鬼畜野郎フレイをぐわんぐわん揺すり続ける。彼女に傷つけられた俺のブロークンハートは、そんじゃそこらの癒しでは治らないだろう。結局翌日の朝まで作戦会議は続いたのだった。

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