第2章 筆頭土地神は大変です
第20話 訪問者
新しい村の名前はリンゴの木と少女の名前から取って、『リンメル村』となった。安直だが、個人的にはとってもいい名前だと思っている。
村の名前も決まると、ミモイ村とルノー村の皆で、新しい村の創立祝いを行った。そのあとは皆で協力して家を建てたり畑も作ったり、一生懸命働いた。
その結果、1週間もしないうちにリンメル村の環境整備は完了し、移住者たちは晴れて林メル村での生活を始めることが出来たのであった。
これで土地レベルが3になるかと思えたが上昇はせず。しかし、信仰レベルの方が4に上昇していた。その結果、俺は新しい情報を手に入れることが出来たのだ。
◇
「『土地神ナオキを、トルネア領における筆頭土地神とします』か。どう意味なんだろう?」
目の前に浮かび上がった文字を読みながら首をかしげる。『筆頭』という言葉はあまり使ったことが無いが、よくテレビのニュースとかで『筆頭株主』などと言っていた気がする。
ということはつまり、トルネア領には俺以外にも土地神が居るという事なのだろうか?
「まぁ考えてみても分からんし、今は出来ることからやるとしよう!」
そう決めたのが三日前くらいだったか。新しい壁の場所を調査するために準備を行っていた時、そいつは突然やって来た。
「たのもぉぉー!!ここにハシモトナオキはおるかー!!」
突然、少女の声がリンメル村中に響き渡った。その声が俺のフルネームを呼んでいたことに驚愕し、俺は作業を中断させて、慌てて村の入り口へと向かって走る。
村の入り口に着くと、門番を務めていた村人の前に、巫女のような服装に身を包んだ黒髪の可愛らしい少女が立っていた。恐らく彼女が俺の名を呼んだ張本人なのだろうが、俺は彼女の顔に見覚えが無かった。
俺が到着したことに気が付いた村人──ルックが俺の元へとやってきた。
「ナオキ様!この少女が突然やって来て、ナオキ様は居るかと尋ねてきたのですが、お知り合いでしょうか?」
「いや、知らないな……えっと、俺がナオキだけど、俺に何か用事かな?」
そう尋ねると、少女の表情が怒りと憎しみに溢れたモノへと一変した。俺が『ハシモトナオキ』だと知った途端、ルックが制する暇も無く、俺に飛び掛かってきた。
「用事があるに決まっておろうがぁ!!勝手に『筆頭土地神』になどなりおってー!!ワシの生活をどうしてくれるつもりじゃー!!」
怒りをあらわにして俺の胸倉を掴む少女。その口から出た言葉に、俺は直ぐに彼女の存在が何なのかに気付いた。
「え!?もしかして、君も土地神なの!?」
「なーにが、『君も土地神なの!?』じゃぁ!!ワシの名はシズク!!トルネアの地をずーっと管理してきた、土地神シズクじゃ!!」
シズクと名乗った少女は俺の胸倉から手を離すと、自慢げに胸をはって見せる。トルネアの管理をしてきた土地神ってことは、村人達もその存在を知っていていい筈なのに、ルックは怪訝そうな顔でシズクの事を見つめていた。
「えっと、俺はここら辺の土地神をやってる、土地神ナオキだ!宜しく!」
「うむ!」
俺は一応挨拶をしておこうと、シズクの目線くらいに腰を落として右手を差し出す。シズクは高圧的な態度を崩しはしないものの、俺との握手には応じてくれた。
その態度が頑張って偉ぶっている様にしか見えず、俺はシズクの姿にメルちゃんを重ねていた。
「それで、シズクちゃんは俺に何の用があって来たのかな?」
「シ、シズクちゃんだと!?ま、まぁいい……お主がトルネア領の筆頭株主になったせいで、ワシが使っていた神殿が使えなくなったのじゃ!!すぐに筆頭土地神の座を返上するのじゃ!!」
シズクちゃんはそう言って俺の目の前に右の手のひらを突き出してくる。どうやら、俺が筆頭土地神になる前は彼女がその座についていたようだ。その座を返して欲しいがために、俺の元へやって来たということだろう。
「筆頭土地神の座を返上って、どうやって返上すればいいんだ?俺、気づいたらその座に着いてたから、やり方とか分からないぞ?」
「ワシにも分からんのじゃ!ずっと筆頭土地神だったからのう!」
「いや、自慢気に言われても……やり方が分からないとどうすることも出来ないんだけど」
なぜか誇らしげに鼻を鳴らすシズクちゃんに対し、真面目な顔で言葉を返す。俺の対応にシズクちゃんも自分の置かれている状況が不味い事に気付いたのか、ようやく真剣な顔つきで話し始めた。
「う、うむそうじゃな!確か土地神の序列は信仰レベルによって決まるのじゃ!お主のレベルをワシが超えれば良いだけの事!」
「そうなのか?俺の信仰レベルは4だから、シズクの信仰レベルがそれを超えれば良いって事だな!」
それなら話は早いと思ったのも束の間、俺の信仰レベルを聞いたシズクちゃんの顔が見る見るうちに青く染まっていく。
「レベル4じゃと!?ど、どうやってそんなレベルに上げたのじゃ!!」
「え?普通に人集めて、一緒に暮らしてただけだけど?シズクちゃんは今レベル幾つなんだ?」
俺が問いかけると、シズクちゃんは気まずそうにうつむいてしまった。ぼそぼそと聞こえないくらいの小さな声で何かつぶやいている。
「──じゃ」
「え?なんだって?」
「2じゃぁ!!なんでワシの方が2つも少ないのじゃぁ!!」
両目から涙を流して泣きじゃくるシズクちゃん。何故か俺が泣かせたみたいな顔で、ルックが俺の事を見ている。このままだと騒ぎを聞きつけた村人達が集まってきて、少女を泣かせる土地神だと思われてしまう。
俺は慌ててシズクちゃんに話しかけた。長年トルネアの地を管理してきたはずなのに、信仰レベルが俺よりも低いなんて、何か理由があるはずだ。
「シズクちゃんて、ずっとトルネア領の筆頭土地神だったんだろ?どうしてそんなにレベルが低いんだ?普通に土地神として生活してれば、俺なんかよりずっと高いはずだろ?」
「そ、それはじゃな……」
俺の質問に対し、歯切れの悪い言葉で濁すシズクちゃん。明らかに何か後ろめたい事実があるのに、それを隠しているように見える。
コイツ、確か神殿を使っていたとか言ってたな。もしかしてニート土地神、略してニート地神だったんじゃないだろうな?
「悪いんだけど、ルック。ザイルさんを呼んできてくれるか?ちょっと確認したいことが有るんだ」
「承知しました!今すぐ呼んでまいります!」
ルックがミモイ村へと走っていき、ザイルさんを呼びに行く。その間もシズクちゃんは俺から目を逸らして、話しかけられないようにそっぽを向いていた。
少ししてザイルさんを連れたルックが戻ってきた。ザイルさんは俺の隣に立つシズクちゃんを一瞬見た後、直ぐに俺の方へ顔を向ける。
「ナオキ様、いかがされましたか?」
「ザイルさん、土地神シズクって知ってる?トルネア領を管理してる土地神らしいんだけど」
ザイルさんの様子から分かってはいたが、俺は念のためと思い尋ねてみた。しかし、ザイルさんから返ってきたのは予想通りの返事だった。
「土地神シズクですか?そう言えば、そんな名の土地神がいたと、言い伝えで耳にしたことが有ります。最後に姿を現したのは、百年も前のことだそうですが」
予想通りの返答を聞いた俺は、シズクちゃんを無言で見つめる。信仰レベルが俺よりも低かった原因が自分だと知り、恥ずかしそうに笑いながら頭を掻き始めた。
「ワシ、神殿で寝てばっかじゃったから、皆に忘れられてしまったのかもしれぬ!なはははは!!」
「はーい、解散でーす!皆仕事にもどってくださーい!この子の事は放置で大丈夫でーす!」
「ま、待ってくれぇ!!お主が何とかしてくれぬと、ワシは神殿に帰れぬのじゃぁ!!」
涙と鼻水を垂れ流しながら俺の背中にしがみ付くシズクちゃんを無視し、俺は壁の調査に向けた準備へ戻る。なるべく早めに準備をしないと、作業を手伝ってくれている村人達に悪いからな。
それから夕飯の時間になるまで泣きじゃくるシズクちゃんを無視し、作業を続けたのだった。
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