第19話 土地神宣誓
壁の先が何処まで広がったのか確認したい気持ちは山々だったが、俺にはまずやらなければならないことが有った。それは、移住者たちのために新しい村を作ること。怪我の治療も済んだし、後は彼等が住むための家と、畑を作るだけ。
「それでは皆さん良いですかー!ここが皆さんの住む場所になります!自分達がここで暮らしていくイメージを、頭の中で思い浮かべてください!」
「はい!!」
移住者たちは俺の言葉を聞き、目をつぶり祈りを捧げるように両手を合わせていく。その様子を見て、俺は隣に立つエイリスさんへと目を向けた。彼女は俺と目が合うと、静かに頷いて見せる。やる気に満ち溢れた彼女とは裏腹に、俺は小さくため息を零した。
「……本当にやるんですか?滅茶苦茶恥ずかしいんですけど」
「何を言っているんですか!この地の管理者とやらになりたいのでしょう!?それなら、ダルフェニア王国建国記になぞらえて、正しい宣誓をすべきです!!」
エイリスさんに詰め寄られ、俺は覚悟を決める。移住者達に向かって両手を広げ、深く息を吸い込む。彼等が目を瞑ってくれているのが不幸中の幸いだろう。こんなセリフ、誰かに見られながらなんて言えるはずもないからな。
「我は土地神ナオキ!そなた達がここまで辿り着いたのも何かの縁!我の土地で暮らすがよい!森と共に、大地と共に、空と共に暮らし、命を育んでいくのだ!」
そう言い終わると、移住者達が顔を上げて次々に涙を流し始めた。
「ナオキ様!!本当に、本当にありがとうございます!!」
「我々一同、このご恩は一生忘れません!!未来永劫この村で語り継いでいきます!!」
「それはちょっとやめてください!せめて名前は伏せて貰えないと困ります!!」
将来的に元の世界に戻るとはいえ、俺の知らぬところでこんな痴態が語り継がれていくなんて。何としても防がないといけない。しかし、移住者たちは俺の制止を聞かず「ナオキ様、バンザーイ!」と盛り上がりを見せていく。
「良かったですね!これで貴方の目的も果たせられたんじゃないですか?」
エイリスさんがどや顔でそう言ってくるので、俺はため息をつきながら頷いた。ここまで盛り上がられてしまうと、もう変に水を差すのも良くない気がするし。俺は諦めて次の行動に移ることにした。本当に俺がこの土地の管理者になれているのか確認しなくては。
移住者達を放置して、『土地改善』のスキルを発動してみる。イメージは野菜を植えるのに適した土質だ。
「『土地改善』発動!」
発動と共に俺の周りの地面が光りだす。お次は『種生成』で種を創らないとな。今回は俺が管理者になれたことを確認するだけだから、何でも良いだろう。
「さて、何にしようかな。どうせなら、まだ植えてない種を植えて、この村の特産に出来れば良いんだけど……」
俺が何の野菜を植えようか思案していると、暇を持て余したフレイとミリアさんがやってきた。
「ナオキ、どうでしたか!無事に土地の管理者になれましたか!?」
そう言ってフレイはニコニコと笑いながら俺の顔を覗き込んできた。フレイは距離感というモノが分からないのか、今にも俺とキスしてしまいそうな程近くにまで詰め寄ってくる。
フレイの綺麗な顔に見とれそうになるのを何とか我慢し、俺は三歩後ろへ下がって自分の股間に全エネルギーを集中させる。ここで静まらせねば、俺の威厳はお空に飛んで行ってしまう。
「あははははは!今丁度その確認をしようとしてたところさ!ここに俺が作った種を植えて野菜が育てば、この土地の管理者になったってことになる!凄いだろぉー!!」
「その話は昨日聞きましたよ?だからここに来たんじゃないですか!」
キョトンとするフレイの傍で、俺が『土地改善』を行った地面へと目を向けるミリアさん。あーなるほど。この二人はおこぼれを貰いにやって来たという訳か。
「そういうことか。で?何の種を植えて欲しいんだ?」
俺がそう言うと二人は顔を見合わせてニヤリと笑う。昨日の祝勝会ですっかり俺の野菜達にはまってしまったのか、二人共我先にと手を上げる。
「フレイはやっぱりトウモロコシが良いです!!野菜の中で一番好きですから!昨日みたいに焼いて食べるんです!」
「私はミニトマトが良いです!あのプチっとした感覚が癖にたまらないんですよ!」
トウモロコシにミニトマトか。どちらもミモイ村で育てた経験があるから、この村で育てるときはミモイ村の人達に指導して貰えばいいだろう。
「エイリスさんはどうします?希望があれば聞きますけど」
「そうですねぇ。そう言えば、野菜じゃないとダメなのですか?種を創れるのであれば、他の植物も何かできそうな気がしますけど」
エイリスさんが首をかしげながら俺に問いかける。そう言われればその通りだ。彼女の言う通り、スキルの詳細には野菜じゃないとダメなんて文字は書かれていなかった。もし野菜以外もいけるとなれば、ご飯やおやつのレパートリーが一気に増える。
しかし、懸念点が無いわけではない。野菜以外育てたことが無い俺が、他の植物を育てられるだろうか?万が一俺のスキルで育てることが出来たとしても、再現性が無ければ意味は無い。村に残された人達だけで、収穫できる物にしておかないと。
「となると……あれが一番安定して収穫出来るかな」
「あれって何ですか!?教えてくださいよ!!」
俺の隣で騒ぎたてているエイリスさんを無視して、頭の中で『あれ』のイメージを膨らませていく。シャリっとした感覚で、甘みがある果物。上手く加工すれば、ジュースやジャムにも出来る、そんな果物だ。
「『種生成』発動!」
スキルを発動すると俺の手の平に5つの種が現れた。その種を一つだけ手に取り、地面の中へと埋めていく。適当な間隔で全部を埋めてしまっては、『成長促進』の効果で木が伸びてきた時にぶつかってしまうかもしれないからな。
「これをここに埋めてっと……よし!『成長促進』発動!」
種を埋めた場所にスキルを発動させると、1秒も経たずに芽が出てきた。そのままぐんぐんと芽は成長していき、程なくすると立派な赤いリンゴを実らせた大きな果樹へと成長した。
「これは一体なんですか?真っ赤じゃないですか!!」
「大きいですね!!フレイの拳くらいありますよ!!」
エイリスさん達の視線が立派に実ったリンゴに釘付けになる。周りで騒いでいた移住者達も、突如として現れたリンゴの木に驚愕しているようだ。
ひとまず、スキルの発動が出来たという事は、この土地は無事に俺の管理地になったみたいで安心した。後はこのリンゴが美味しいかどうか確認しないと。
俺は真っ赤に実ったリンゴを丁寧に摘み取り、そのままかぶりつく。シャリシャリとした歯ごたえと共に、口の中で甘い蜜の味が充満していく。
「うん!滅茶苦茶美味い!!」
久しぶりに味わったリンゴの味に浸りながらもう一口行こうとすると、エイリスさんがそうはさせまいと俺の腕を掴んだ。よく見ると、周りにいた全員が涎をたらして俺の手に握られているリンゴに釘付けになっている。
「ナオキ!いったいこれは何なのよ!!何て言う食べ物なの!?」
「これはリンゴって言って、甘くておいしい果物です!どうぞ食べてみてください!」
鼻息を荒くして詰め寄ってくるエイリスさんを華麗にリンゴの元へ誘導しつつ、周りの人達も誘導していく。移住者の分が足りなくなってしまいそうだったため、俺は慌ててもう一つ、リンゴの木を創った。
その間にあちこちから悲鳴に似た歓声が上がる。特に一番大きな声を上げたのは、移住者達の中にいた女の子だった。俺の元へ歩み寄り、ズボンのすそを掴んで話しかけてきた。
「メル、こんな美味しい食べ物食べたこと無い!!もっと食べたいなぁー!!」
「こ、こら!すいませんナオキ様!!」
青年が慌てて俺の足元から女の子を引きはがし、頭を下げる。それを見て他の人達も申し訳なさそうに頭を下げて、リンゴを食べるのを止めてしまう。
「いや、気にしないでください!!どんどん食べて貰って構いませんから!」
「ですが……」
俺が何と言っても村の人達は食べようとしない。どうしたものかと思っていると、もう片方のリンゴの木で騒ぎたてている三人の姿が見えた。
「本当に美味しいわ!!シャリっとしてて、みずみずしくて本当に甘い!」
「エイリスずるいです!!フレイにも取ってください!!それでもう三個目じゃないですか!!」
「美味しわねぇ!これはルーシーにも持って行ってあげなくちゃ!」
フレイの身長ではリンゴに手が届かなかったのか、エイリスさんに取ってくれとせがんでいる。しかし当のエイリスさんは両手に噛り付いた跡が残ったリンゴを手に持ち、フレイを完全に無視していた。ミリアさんも、ルーシ―さんに持って行くとか理由をつけて4,5個程布袋に詰め込んでいる。
俺は三人組のお猿さん達を指さしてこう言った。
「あの人達は既に三個以上食べてるそうですから、皆さんもたくさん食べて大丈夫ですよ!」
そう言うと移住者たちはようやくリンゴを食べるのを再開してくれた。俺は一つリンゴを摘み取り、メルと名乗った少女に渡してやる。嬉しそうにリンゴを頬張る少女に癒されながら、いい歳こいてリンゴごときで喧嘩するお猿さん達に呆れるばかりであった。
そんなこんなで俺が残りの種でリンゴの木を創り出している頃。これからの俺の人生……いや、土地神生を揺るがす大きな出来事が起きていた。
『信仰レベルが4に上がりました。これより、土地神ナオキをトルネア領内における筆頭土地神とします』
あとがき
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
第1章がこれにて終わりになります。
壁が広がったことを知ったナオキは、この先どうするのか。『戦乙女』との関係はどうなって行くのか。引き続きよろしくお願い致します。
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