第16話 乙女の憧れ
翌日。『戦乙女』一行と自称土地神の俺は、ゴブリン退治のために湖へと向かって歩いている。何処から敵が来ても良いように、先頭にエイリスさんとルーシーさんを配置し、俺を挟む形で後方にフレイさんとミリアさんが配置された。
昨日は、ルノー村に帰って作戦会議を終えたあと、彼女達と共にルノー村を見て回っていた。その時にエイリスさんが俺の作った野菜達を見つけたのだが、俺がスキルで作ったことを伝えると彼女は怒ったように頬を膨らませていた。
「自分のスキルを人のために使っている事は賞賛します!ですがやはり、自分の事を神と呼ばせるのは理解できません!」
昨日から俺の顔を見る度にこうして文句を呟くエイリスさん。俺が作った野菜を美味しそうに食べていた癖に、それとこれとはどうやら別の話らしい。
「本当に神なんだから仕方がないでしょう?それに、俺が自分を神だと偽っていたとしても、村人達から何かを貰っているわけじゃないんだから、良いじゃないですか!」
「私達に隠れて蔭で貰っているかもしれないでしょう!?この依頼が終わったら、やっぱり貴方の事を街の教会に報告しますからね!」
俺が強気に出たことでさらにエイリスさんは気を悪くしたのか、昨日は報告しないと言っていたのに、俺を脅すつもりらしい。
神様を自称している人間がいると報告が行けば、教会の人間がここにやってくるのか。もしそこで俺が神様だと理解して貰えなければ、俺は一体どうなってしまうんだ?
「あの、もし協会に俺が神様だと認めて貰えなければどうなってしまうんでしょうか?」
恐る恐るエイリスさんに訊ねてみると、彼女はこちらを向いて立ち止まった。そして俺の目を見つめること数秒後、ニヤリと笑みを浮かべて嬉しそうに喋り始めた。
「そんなの決まってます!不敬罪で火炙りの刑でしょう!協会の信仰対象である神を自称しているのですから、そのくらいの罪は当然です!!」
「ひ、火炙り!?嘘だろ!?」
「本当です!!まぁでも?貴方は本当に神様だそうですし、教会の審判にあったとしても、裁かれることは無いでしょうね!いやー良かったですねー!!」
エイリスさんの言葉を聞いて、全身から汗がぶわっと噴き出した。火炙りだと?もし彼女が教会に俺の事を報告したら、間違いなく教会の人達は俺の元へやってくる。移動制限が解除されてない俺にとって、その状況は『死』を宣告されたに等しい状況だ。
自分が生きていくために、神様だという事を利用してきた罰なのだろうか。
いやまぁ実際神様だから教会の審判で裁かれない可能性もゼロでは無いんだけど。でも、その証明をする物もない。というか、教会はどうやって神様かそうで無いか見分けているのだろうか。神様発見器でもあるのか?もしそうなら勝機はまだある。
「あれれー、どうしました!?さっきまで『本当の神なんだからしょうがないでしょう!』とかなんとか、言っていたじゃないですか!もしかして、自信が無いんですかー?」
不安と恐怖に駆られる俺の様子を見てほくそ笑むエイリスさん。出会った時は本当に素敵な女性に見えたのに。もはや彼女のイメージは砂城のように脆く崩れ落ちていってしまった。
「ありますよ!ただ、証明する方法が無いんです!神様が身分証明書を持ってるとでも!?」
「なるほどー!でもご安心下さい!教会の方々は『真実の目』という特殊な魔法を使うことが出来ます!貴方の話す内容が本当かどうか、魔法で見極めて貰えますから!それなら文句のつけようも無いでしょう!」
エイリスさんはそう言って鼻歌交じりで再び歩き始める。彼女はきっと俺が絶望の淵に立たされていると思ったのだろうが、その反対だ。彼女が語った内容のお蔭で、希望の光が見えたのである。
バハマの街へ行くのは避けることが出来ない。将来的に教会に行かなくてはならない日も来るはず。そこで俺が神だと証明することが出来れば、あとはとんとん拍子で土地レベルも上がっていくだろう。
俺が背中を丸めて歩いていると、フレイが隣にやって来て肩をとんと叩いてくれた。ちょっと考え事をしていただけなのだが、落ち込んでいると思ったようだ。
「フレイはナオキが神だと認めても良いです!あんなに美味しいお野菜を食べたのは初めてですから!あのトウモロコシという物は本当に絶品でした!」
「本当かフレイ!!依頼が終わったら、今度はトウモロコシを焼いてやるからな!まじで美味いから!」
ニシシと歯を見せて笑うフレイ。年齢も同じという事で、一番気を遣わずに話すことが出来ている。依頼が終わったら、バハマの街についてフレイに聞くことにしよう。あと、エイリスさんが教会に俺の事をチクらないよう、見張って貰うのも忘れないようにしないとな。
フレイの発言に続けて、ルーシーさんとミリアさんが俺を擁護する側に回ってくれた。
「ナオキが神だろうと何だろうと、村で悪さしてるわけじゃねぇんだから、別に良いんじゃねぇの?村の奴等だって、本当に感謝してるみたいだったしよ」
「そうですねぇー。ナオキさんが本当に神なのかは一旦置いておいて、村の人達からすれば、神様みたいな存在であることは間違いありませんし。私も神様ってことで良いと思いますよ?」
「ルーシーさん、ミリアさんまで!!有難うございます!」
三人の女性に味方になって貰えたことで、俺の目から涙が零れそうになる。この三人には後で特別な野菜をプレゼントしなくては。
「エイリスもいい加減納得してやれよ。それともお前、自分の目で神様みたことでもあんのか?」
ルーシーさんはそう言ってエイリスさんを小突いて見せる。その瞬間、彼女は俺の方へと振り返り、鬼のような形相で俺の事を睨みつけた。そして俺の顔に指を向け、ルーシーさんに食ってかかるような勢いで喋り始めた。
「ないわよ!でも皆だって、教会に有る神様の像を見たことあるでしょ!?もっと威厳があって格好良かったじゃない!!アイツを見てみなさいよ!!髭も生えてないし、渋い顔じゃない!!こんなの……全然神様じゃないわよ!」
はぁはぁと息を荒げ、俺の顔を睨み続けるエイリスさん。まさか彼女は、神様の事が好きだったのか?だとしたら、なんというか……申し訳ない気がする。
「あの……なんか、すみません。期待を裏切ってしまって。でもほら、俺はあくまでこの辺の『土地神』であって、エイリスさんが敬愛する神様は、他の神様なんじゃないでしょうか?俺なんかよりきっと素晴らしい神様ですよ」
エイリスさんが見ていた像が何という神様の像かは知らないが、教会に建てられているくらいだ。きっと有名な神様に違いない。
「そうですね。……私の方こそ、申し訳ございませんでした。失言をお詫びします」
エイリスさんもようやく納得したのか、渋々と言った様子で頭を5㎜程下げてくれた。これなら教会にチクることもしないだろう。あとは無事に依頼を達成するだけだ。
「めんどくせぇ話は終わりだ。そろそろ気を引き締めてかねぇとやべぇぞ」
ルーシーさんがエイリスさんの進行を妨げるように右手を横に広げる。それにつられて俺達も止まり、その場にしゃがみ込んだ。僅かに水の匂いが感じられる。
「この先がゴブリンを目撃した場所だ。暫くしたら戦闘に入るぞ」
「そうね。ミリア、ナオキさんに防御魔法をかけて下さい」
「分かったわ。『プロテクト』!」
ミリアさんの魔法が発動されると白い粉のようなモノが頭の上からかかっていく。自覚は無いのだが、これで俺の防御力を上げてくれたらしい。
「準備は良いですね?それでは……いきます!」
エイリスさんの掛け声を合図に、ルーシーさんと二人で飛び出していく。俺達は二人と一定の距離を保ちつつ、ゴブリンの根城に向けて走っていった。
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