第15話 年下の乙女

 ルノー村に戻ってくると、そのまま俺の家でゴブリン退治の作戦会議をすることになった。


「それでは、作戦会議を始めます!今回は一時的に外部の方がメンバーに加わっていますので、簡単な自己紹介を行っておきましょう。連携を取るうえで必要な事ですから!」


 エイリスさんの言葉に、メンバーの皆も頷いている。確かに、彼女達がどんな性格をしていて、どんな戦い方をするのか知っておくのは重要かもしれない。逆もしかり、俺がどんな人物なのか彼女たちに教えておくことで、コミュニケーションも取りやすくなるだろう。


 俺もエイリスさんの提案に賛同したことで、エイリスさんは先陣を切って自己紹介を始めてくれた。


「私は『戦乙女』のリーダー、エイリスです!戦闘ではこの剣を使って戦います!恐らく、怪我をすることが一番多いと思いますので、その都度回復をお願いします!」

「分かりました!宜しくお願いします!」


 エイリスさんの自己紹介が終わると彼女はルーシさんを指さして自己紹介を始めるよう促した。ルーシさんは綺麗な赤髪をかきあげ、ニヤリと笑ってみせる。


「うちはルーシー・ルルだ!『身体強化』を使って素手で相手をぶん殴るのがうちの戦い方だ!明日はうちの拳の威力を見せてやるから、ぜってぇ見逃すなよな!」

「は、はい!」


 ルーシーさんは見た目通りというか、腕っぷしが自慢らしい。エイリスさんは鎧で全身を守っているのに対し、ルーシーさんはおへそ丸出しの薄着だ。こんな装備で接近戦を挑むなんて、頭おかしいんじゃないかと思ってしまったが、それは心の中にしまっておくとしよう。


 お次に手を上げたのは、透き通るような青色長髪のフレイさん。右手に握られた杖を高らかに上げると、彼女の自己紹介が始まった。


「フレイはフレイです!後ろから攻撃魔法を撃つのが得意です!フレイは沢山魔法が撃てますが、制御の方がイマイチなので、お兄さんに当たらないように気を付けます!」

「……え?今なんていいました?」

「聞こえませんでしたか?フレイは魔法が得意ですが、偶にどっかに飛んで行ってしまうのです!それがお兄さんの所に飛ばないよう、フレイは気を付けると言ったのです!」


 自信満々に胸を張りながら語るフレイさんの言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。

他の3人は彼女の自己紹介に対し拍手を送っている。ということはつまり、三人は彼女の発言に何ら疑問を抱かなかったということになる。


 一気に不安と恐怖が押し寄せてきたが、ここで俺が何を言っても状況が好転することは無い。ここはフレイさんの魔法が暴発しないよう、神に祈りを捧げるとしよう。まぁ、俺が神だから意味は無いんだけどな。


「ミリアといいます!支援魔法を使って、前衛二人の戦闘を補助する役を担当しています!一応短剣は装備していますが、戦闘力は殆どないので、そこは期待しないでください!」

「分かりました!ミリアさんに負担をかけないよう、頑張ります!」


 てへっと舌を出して笑うミリアさん。フレイさんの後で聞くと、どうってことない話に感じてしまう。実際、俺なんて人を殴ったことすらないのだから、ミリアさんは何も気にする必要ないと思うのだが、この世界ではそうも言っていられないのかもしれないな。


 こうして『戦乙女』の自己紹介が終わり、俺の番がやって来た。彼女達の誤解を解いて俺が土地神だと言うことを認めて貰う絶好のチャンスだ。


「橋本尚樹、18歳です!一応ここら辺の土地神をやっていて、水を出したり畑を作ったり野菜を作ることが出来ます!後は結界も張れますが、自分の管理してる土地にしか使えないので、今回は『治療』係として皆さんのお役に立てるよう、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


 完璧だ。自分で言うのもなんだが、ココまで色んなことが出来る奴が人間であるわけが無いだろう。これで皆俺が土地神だと分かってもらえる。


しかし、彼女達が食いついてきたのは俺が土地神であるという事よりも年齢の方であった。


「えええー!!?フレイと同い年だったんですか!??てっきり20歳前半だと思ってました!フレイは驚きです!!」

「うちとミリアより一個年下だったのか!年上だと思って気使っちまってたぜ!宜しくな、ナオキ!」


 俺が年下だと分かってテンションがあがったのか、俺の肩に手を回してはしゃぐルーシーさん。ルーシーさんとミリアさんは年上だと思っていたが、まさかフレイさんが同い年だったとは。身長が低いせいで、年下にしか見えなかったぜ。


「よ、よろしくお願いします!」


 俺は顔を真っ赤に染めながらルーシーさんに返事をする。彼女が体を揺するたび、ほのかに太陽のような匂いがする。そのお陰で心は安心しているのだが、体は正直に反応してしまうのだ。


 一刻も早くこの場を抜けなければならないのに、今度はフレイさんが興奮気味に俺に握手を求めてきた。


「フレイも今からナオキと呼びます!ナオキもフレイの事はどうぞフレイと呼んでください!」

「あ、ああ。宜しくフレイ!」


 フレイが差し出してきた手を握り返すと、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見て、俺の体の反応がゆっくり収まっていく。別にフレイの体が魅力的じゃないとか、そう言う下世話な理由ではない。


 フレイやルーシーさんが俺に求めている関係性が、そう言うものではないとフレイの笑顔を見て分かっただけだ。


「ミリアさんも、宜しくお願いします!」

「はい!一緒にゴブリン退治頑張りましょうね!」


 ミリアさんもフレイ達も笑ってくれているのだが、唯一エイリスさんだけ眉間にシワを寄せてむすっとした顔で黙り込んでいた。俺が18歳なのが気に食わなかったのだろうか?


 すると、ルーシーさんがニヤニヤと笑いながらエイリスさんの元へと歩いていき、彼女の肩に手をまわして挑発するような口調で話し始めた。


「ほーらエイリスちゃん!ナオキと握手してやれよー!お前が一番年下なんだぞー!」

「え!?エイリスさんて、俺より年下だったんですか!?」


 ルーシーさんの言葉に俺は思わず驚きの声を上げてしまう。エイリスさんの佇まいや雰囲気から、どう考えても20歳を超えていると思っていたのに。


 驚きを隠せないでいる俺の隣で、フレイがケロッとした態度で喋りだした。


「エイリスは今年で17歳になったばかりなんです!リーダーなのに一番年下なのを気にしてるんですよ!フレイ達はそんな事気にして無いんですけどね!ナオキも気にせず、エイリスと呼んであげてください!」

「ええっと……」


 フレイはそう言うが、エイリスさんの顔はそれを許してくれるような表情ではない。完全に俺の事睨みつけてるんだもん。親の仇でも見るような目つきだよアレは。


 案の定、エイリスさんはルーシーさんの腕を払いのけると、キレ気味に俺の元へと詰め寄ってきた。


「悪かったですね!!私が一番年下で!だからって、それがどうしたんですか!?フレイはああ言ってますが、私は貴方に呼び捨てで呼ばれたくなんてありません!今日初めて会ったばかりの人に、気安く呼ばれるほど私の名前は軽くありませんから!」

「わ、分かってます!よろしくお願いします、エイリスさん!」


 俺がそう言うと、渋々と言った様子で右手を差し出してくるエイリスさん。俺は恐る恐る彼女の手を握り返し、1秒だけの握手を達成した。


 こうして俺達の自己紹介は終わり、ようやく作戦会議が始まったのである。

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