第11話 土地レベル上昇
それから俺のルノー村での生活が始まった。
最初はルノー村の人達に俺が土地神だという事を信じて貰うのにかなり苦労した。手から水をだしたり、治療してあげた実績があっても、その時村人達は全員意識を失っていたため、俺に助けて貰ったという認識が無かったのだ。
そこで改めて手から水を出して見せたら、凄腕の魔法使いだと勘違いされてしまった。お次は『土地改善』『種生成』『成長促進』の三つを使って、野菜を育てる所を実演しようとした結果、何故かスキルが一つも発動しなかった。
原因は恐らくルノー村の土地は俺が管理している土地じゃなかったから。彼等に土地神だと信じて貰い信仰の対象になるまで、俺は土地関連のスキルを使用出来なかったのだ。
仕方なく、俺はルノー村の村長と村人数人をミモイ村へと連れていき、ミモイ村の畑で実演してみせた。そこで収穫した野菜をルノー村へ持ち帰ることで、ようやく俺が土地神だと信じて貰えたのだった。
◇
それから一カ月が経ち、今日はいよいよバハマの街へ野菜を売りに行く日である。
当初はルノー村でとった野菜のみを売りに行く予定だったが、ミモイ村も貯蓄は十分に出来たため、余った分を売りに行くことになった。
「それじゃあ行ってまいります!ナオキ様の野菜、必ずお金に換えて来ますから!」
「宜しく頼んだぞー!新しく出す依頼の方も忘れずになー!」
野菜を大量に載せた荷車を引っ張っていく四人の背中に手を振る。
今回の出稼ぎへはルノー村から文字の読み書きが出来るレインと、数字の計算が辛うじて出来るオレット、何度かバハマの街へ行ったことのあるフランク、そして護衛としてマルクスが行くことになった。
少しぎこちない雰囲気はあるものの、村同士のわだかまりは解消されている。食と住の二つが改善されたことで、心にゆとりが出来たのだろう。皆が仲良くしている姿を見ると俺も嬉しく思う。
嬉しい事と言えばそれだけではない。
なんと土地レベルが2に上がったのだ。ついでに信仰レベルも3に上がっている。
日々の作業に追われて気づいたのはつい最近の事なのだが、二つのレベルが上昇したことにより、新たなスキルが使えるようになった。
一つ目は『管理地間移動』。自分が管理している土地の間であれば、一瞬で移動できるというスキルだ。このスキルのお蔭で村同士の移動に時間を使う必要が無くなったのは有り難い。一度の使用Ptも3Pt程度とお得だ。
二つ目は『土地結界』。自分が管理している土地に、悪意のある者の侵入を拒む結界を張るスキル。一度貼れば一週間は継続するため、毎週月曜日の朝に両方の村に張ることにしている。一度の使用Ptは20Ptとちょっと高め。
最後のスキルは『神託』。自分を信仰している人間を指定して、一方的に言葉を伝えることが出来るスキルだ。主に遠くに居る人を呼ぶ場合に使ったり、頼みごとをする場合に使っている。一度の使用Ptは1Ptとかなりお得だ。
こんな感じで土地レベル上昇の恩恵をスキルという形で得た俺だが、目標の土地レベル3まであと一つ土地レベルを上げる必要がある。
以前までの俺ならその事実に萎えてしまっていただろうが、今の俺はそうではない。
なぜなら、土地レベルの上昇に必要な「一定の条件」に目星がついているからだ。恐らく、俺が管理する土地の面積が増えることでレベルも上昇するはず。信仰レベルは単純に俺を信仰する人間の数だろう。
ここまで分かっていれば後は簡単だ。俺が管理する土地を増やしていけばいいだけの話。そこで俺はバハマの街へと向かった四人に、ゴブリン退治とは別に依頼を出してくるよう頼んだ。
出発の三日前。俺は二つの村の村長と、街へと向かう代表者四名に集まってもらい、そこでとある提案をした。
「移住者の募集ですか?」
「そうだ!怪我とかで仕事が出来なくなったり、今の生活に満足してない人とかいるかも知れないだろ?そういう人達を集めて、村を大きく出来ないかと思ってさ!」
俺の提案を聞いた六人は一瞬驚いた顔を浮かべた後、険しい表情になってしまった。
「以前お話ししたかと思うのですが……村の納税額は暮らしている人の数で決まります。大人一人金貨一枚、子供一人銀貨一枚を年に一度支払わねばなりません。私共の場合は、収穫した野菜を納めることが殆どですけれど」
「それなら野菜を沢山作ればいいじゃないか!そうすれば問題なく納税できるだろ!余った野菜は今回みたいに街へ売りに行っても良いしな!」
以前の環境であれば納税に不安要素があったが、今の村の状況を考えれば少し人数が増えたところで問題ないのではないか。そんな俺の甘い考えをザイルの言葉が否定する。
「収穫量が増えると、それに応じて来年の納税額が増えてしまいます」
「そ、そうだったのか!?それはまずいな」
「来年以降もナオキ様が村に居てくださるのであれば、それで良いのですが……」
ザイルの言葉に俺は思わず顔を背ける。俺の計画ではバハマの街へ行けるようになったら、それ以降はこの村へ戻ってくるつもりは無い。着々と管理する土地を増やして、土地レベルを上昇させるためには、そうするしかないのだ。
「来年以降、この村に俺が居ることは出来ないけど……それでも問題なく過ごせるように出来ることはするつもりでいるよ!!だから皆、どうか俺のお願いを聞いてほしい!」
重たい雰囲気に包まれる中、俺は皆に向かって頭を下げた。自分の目的のために、村の人口を増やすなんて身勝手な真似をするんだ。その代わり、彼等の人生を守っていく義務がある。
俺に出来ることはしてやりたい。いや、しなくちゃならないんだ。
「分かりました!ナオキ様の願いとあれば、私共は聞くしかありませんでしょう!」
「本当か!?ありがとう、ザイル!!」
「いえいせ!ですが、野菜を売りに行く方法を考えませんと。村の人口が増えればその分売りに行く野菜の量も増えますでしょうし……」
「俺に良い考えがある!上手くいけば、もう街に野菜を売りに行かなくても済むぞ!」
こうして、俺は四人に願いを託して彼らの帰りを待つことにしたのだった。
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