第12話 移住者と冒険者
四人がバハマの街へ出掛けてから、二つの村を管理する神として、多忙な日々を送りながら彼等の帰還を待っていた。そして出発から一カ月程が立った日、俺の耳に帰還の知らせが届いた。
「ナオキ様!街へ行っていた皆が帰ってきたよ!!」
見回りを兼ねて村を散歩していたところに、子供達が嬉しそうにそう告げてきた。子供達の明るい表情を見るに、どうやらみんな無事に帰ってきたみたいだ。
「本当か!?よし、すぐに行く!」
俺は急いで村の入口へと向かった。俺が四人にお願いした依頼の結果がどうなっているのか、期待で胸が膨らむ。流石にこんな短期間で人は集まらないだろうけど、それでも四、五人程度なら来てくれるんじゃないか?
そんな小さな俺の期待を、良い意味で裏切る結果が村の入り口には待っていた。
「ナオキ様!只今帰りました!!」
「おお、お帰り!無事に行って帰って来てくれて──」
四人に声をかけようとした俺だったが、皆の後ろにずらりと並んだ人の数を見て、固まってしまった。1,2,3……少なく見積もっても二十人以上は居るじゃないか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!もしかして後ろに居る人達は、全員移住希望者なのか!?」
予想外の出来事に困惑しつつも、マルクスに問いかける。するとマルクスは少し困った顔を浮かべながら頷いて見せた。
「私達もこんなに集まるとは思ってもみなかったのですが……他の村から出てきた者が多いようです。恐らく口減らしではないかと」
「そ、そうだったのか」
マルクスの言葉を聞いた俺は、失礼だと思いながらも集まってくれた人達を観察し始めた。移住希望者の九割は労働力にならなそうな老人や怪我人だ。皆酷くやつれており、健康そうな者は一人もいなそうに見える。
あまり言いたくないが、確かに口減らしと捉えられても仕方がないかもしれない。だが俺からしたら、この人達が村に来てくれたのは大変喜ばしい事だ。怪我や病気なんて直ぐに治せるし、何の問題も無い。
そんな中、腕に布を巻いた青年が恐る恐ると言った様子で集団の前に出てきて、俺に訊ねてきた。
「あ、あの!食事には困らないって本当ですか!?俺達にも仕事や家をくれるって本当なんですか!?」
「ああ、本当だよ!食事は野菜中心になるけど、お腹いっぱい食べられる!家は土で出来た簡単な家になっちゃうけど、それでも良ければ全員分作るよ!」
青年にそう答えると、彼の後ろに居た移住希望者たちは安心した様子で息を吐いた。
彼等の安堵した表情を見て俺のホッと胸を撫で下ろす。しかし問題はこれだけではない。ルノー村にとって欠かせない問題が、まだ一つ残っている。
「移住者の皆さんは後で移住者用に建てた家に案内すればいいとして……それよりも、冒険者に出してたゴブリン退治の依頼はどうなった?」
マルクスに訊ねると、彼は嬉しそうに笑ってみせた。そして移住希望者の更に後ろに居る馬車に向けて指をさす。そこには煌びやかな鎧に身を包んだ金髪の美しい女性が立っていた。
「あちらに居る冒険者の方々に依頼を受けて貰いました!ナオキ様が作ってくださった野菜のお蔭です!」
マルクスの声が聞こえたのか、鎧を着ている女性が此方の方へと歩いてくる。まるでフランス人形のような美しい顔立ちの女性を前に、緊張からか喉が急速に乾いていくのが分かった。
「『戦乙女』のリーダー、エイリスと申します。貴方が今回の依頼主でしょうか?」
「え、あのいや!依頼主では無いんですが、依頼を出した村の管理をしているナオキと言います!」
声を上ずらせながらもなんとか言葉を返す。だがエイリスと名乗った女性はそんなこと気にもとめず、にこやかにほほ笑んでくれた。
「そうですか。一応依頼を達成した場合、依頼主のサインが必要となりますので、出来れば後で依頼主に会わせて貰えると助かります」
「分かりました!依頼主はルノー村に居ますので、村の者に案内させます!マルクス!エイリスさん達をルノー村まで案内してやってくれ!俺も後から行くからさ!」
「畏まりました!」
俺はエイリスさんと仲間の方々に一礼し、一度別れを告げる。マルクスと『戦乙女』の方々の背中が見えなくなったところで、ようやく移住者達の案内が始まった。
「移住希望者の皆さん、大変お待たせしました!これから皆さんが暮らす場所へ移動しますので俺について来てください!」
そう言って俺はミモイ村を横切る形で歩き始めた。俺の背中を追うように、移住者達もゆっくりと歩き始める。そうしてミモイ村から1km程離れたところで、俺の足が止まった。
畑も家も無いただの平地に案内された移住者達は、皆困惑した様子で周囲に目を配る。あると言われていた物が、何一つ存在していないのだからそれも仕方ないだろう。
「あの……ここで暮らすんですか?ただの更地にしか見えないんですけど……」
たまらず先程の青年が俺に問いかけてくる。嘘をついていた訳ではないのだが、彼等を騙してしまったようで少し気分が悪くなってしまう。
「すいません!まだ俺が管理してる土地じゃないので、家が建てられないんですが、俺が管理者になったら直ぐにでも家を建てて畑を作ります!ですので、暫くの間は仮の住居をミモイ村に作りますので……」
俺は取り繕うこともせず、移住者の人達に向かって頭を下げた。すると、何を勘違いしたのか、今度は移住者の方が地面に膝をついて頭を下げてきた。
「も、申し訳ございません!まさか貴族様だったとは!ご無礼をお許しください!
「何言ってるんですか!俺は貴族なんかじゃないですよ!」
「え?で、ですがこの土地の管理者になると……」
「管理者ってのは文字通り、この土地を管理する者ってことです!俺はここら辺の土地神ですから!でもまだ皆さんが住む予定の土地の管理者にはなれてないんですよねー。どうやってなれば良いのかもまだ分からないですし……」
そう話す俺を見て、ポカーンと口を開ける移住者達。何だか既視感のある映像だ。ああ、これはまた実演しなければならないのか。
少し面倒だと思いつつも、俺は移住者達とともにミモイ村へと戻るのであった。
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