墓守の迷宮

第24話

「そっちいったぞ!」

「わかってる!」

「ちょっと、前前!」

 薄暗い洞窟のなかで、複数の必死な声が反響する。

「またきた!」

 悲鳴のような声とともに、暗がりから骸骨の姿が進み出る。肉と皮が失われた人間の骨だけが、不思議なことに直立して歩いている。右手には朽ちた剣らしきものを握っていた。頭蓋骨の目があった場所の空洞に、赤い光が灯っている。

 骸骨が足音をたてて、剣を繰り上げて迫る。

「くそっ」

 革の胸当てをした少年が、骸骨が振り下ろす剣を盾で防いだ。その隙にもうひとりの少年が胸を剣で切り裂くと、骸骨はバラバラになって崩れ落ちた。

「頭を狙えよ! 復活するんだぞ」

「わかってるっ!」

 崩れた骨が震えると、空中に浮かび上がってきた。骨が再び組みあがる前に、剣が頭蓋骨を叩き割ると眼窩の奥の赤い光が消えた。

「よっしゃあ!」

「バカ! まだ骨は残ってるだろーがっ」

 骨というのはこの動く骸骨の通称だ。命を持たず、故に生者の命を奪おうとする魔物。力も速さも人より劣っているが、頭蓋骨を砕かない限り何度でも甦る。

 炎の光で長く伸びる骸骨の影は、まだいくつもあった。

「こんなところで死ねるかー!」

「耐えろ! 耐えるんだ!」

 洞窟の通路は横に三人並べる程度の幅だった。ただし地面は起伏だらけで、自由に足を置ける場所は少ない。普通に歩くなら大丈夫だろうが、戦闘中に足元を確認している余裕はない。そうなると起伏に足をとられることになってしまう。

「うわっ」

 骨の攻撃を受けると、踵を地面が盛り上がった部分に引っかけてしまった。体を押され背中から倒れてしまう。

「ヒイイイ!」

 骨にのしかかられた少年が悲鳴をあげる。立って応戦していたときは勇気を振り絞っていたが、不利な状況になってしまうと恐怖に心を染められてしまった。

 骨が剣を振り上げるとつい目を閉じてしまったが、その剣が振り下ろされることはなかった。仲間が頭蓋骨を横殴りに砕いたからだ。

「おい早く立て! 骨はまだまだいるんだぞ!」

「わ、わかった」

 打ちつけた背中の痛みを気にしている暇もなく、慌てて立ち上がると武器を構える。動かなければ次こそ本当に死んでしまう。

 生者と死者たちの死闘はまだ続く。

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