第21話

「ルイレ、下がれ」

 ダブケリスの言葉に、ルイレは肩を落としてうつむきながら戻ってくる。何も言葉はかけない。それをされた方が辛いと知っているからだ。

「見ておけ」

 ダブケリスは数回槍を回しながらゼッジへと歩いていく。

「さて……私と立ち合いたいということらしいが、目的は何だろうか?」

「立ち合いこそが目的です」

 ゼッジは足を揃え、剣を両手で垂直に構え、剣身の腹を見せる。

「古風な……」

 ダブケリスは苦笑を浮かべる。これは彼が幼い頃にはもう廃れていた、古い立ち合いの作法だった。同じように槍を体の前で立てる。

「汝、闘う意思はあるか」

 知らない宣誓の言葉。時代や地域でいくつもあるので、ダブケリスが知らなくて当然だ。

 ダブケリスは無言で瞳に意思を見せる。

「汝、剣を握る覚悟はあるか」

 幼き頃に、人生で初めて握ったときからある。槍を強く握った。

「汝、運命を手放さぬと誓うか」

 運命というならそうなのだろう。槍を手放すのは死ぬときなのだ。

「裁定者の名において剣神に誓約する。この者、剣に認められたし」

 月光よりも眩しい光が弾け、周囲を真昼のように照らす。ルイレはつい腕で目を覆ってしまったが、ダブケリスは目を細めただけだった。

 光が消えると、見知らぬ大男が立っていた。長い髪と彫りの深い顔。太い腕を組み野性味のある笑みで歯を見せていた。腰には鞘だけを下げていて剣はそこに無かった。

「まさか……その剣が無い鞘は、本当に……剣神オルロム……」

「懐かしいな! その名前で呼ばれるはいつぶりだ?」

 年月とともに薄れ、変節し忘れられた神話に残る【剣神】の名前を、ダブケリスは幼きころに老齢の元騎士から聞いた覚えがあった。

 その元騎士から聞いたのは、千の剣を持ちながら腰には鞘しかなかったという逸話だった。それが印象的でダブケリスは覚えていた。

 信じられない出来事に硬直するダブケリスを、剣神オルロムは上から下までジロジロと見やる。

「よしよし。ゼッジ! 俺がやるぞ!」

 剣神とゼッジが立ち位置を交換する。剣神とダブケリスが向き合い、ゼッジが二人から同じ距離となる位置に。三人を結ぶと、ゼッジを頂点とする三角形となる。

「槍を構えろ」

 剣神が何もない鞘に右手をのばすと、その手に異形の大剣がいつの間にか握られていた。

 普通の剣の二倍以上はありそうな幅と、高い身長と同じほどの長さを持つ片刃の曲剣。常人に扱える代物ではない。片手でそれを軽く数度振るえば、風を切る恐ろしい音がうなりを上げた。

「……ッ!」

 ダブケリスは槍を構えた。心臓の鼓動がわずかに速い。心を鎮め、自分と槍を馴染ませる。見るだけで相手が強いと理解できた。恐怖はない。

(これは、私は喜んでいるのか?)

「剣神が裁定を許す! 剣授開始!」

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