第18話

「くぅっ!」

 ルイレは剣を払いながら距離をとる。動揺しそうな心を静め、槍を少年へ構えた。

(剣を抜くのが見えなかった)

 槍を突く前に少年の手に剣は無かった。腰の鞘に入ったままだったのをルイレは確認している。

(私の槍が届く前に剣を抜き、槍を防いだのか! しかし、そうだとするとかなりの技量ということになる……)

 明らかに二十歳にもなっていない小柄な少年が、ルイレの槍を防ぐほどの技量を持っているというのは信じられない。しかし実際にそれが起こっている。

(相手はただの子供ではないっ! 全力でいく!)

 無言でルイレは槍を突くが、まるで風に揺れる布のように少年は回避する。かすりもしなかった。

 それを気にせず連続で突く。全て剣でそらされ、わずかな移動で回避される。

(落ち着け。槍の距離で戦えば絶対に勝てる)

 槍と剣の長さの違いもあるが、体格の大きさも違う。ルイレより一歩も二歩も近づかなければ、少年は剣を届かせることができない。

 槍と剣が当たる音、移動し位置を変える足音が続く。

(なんということだ)

 ルイレが攻撃し続け、少年は一度も攻撃できていない。しかし消耗しているのはルイレのほうだった。

(剣を持った姿に脅威を感じない。これより強い剣士は騎士団に何人もいる。それなのに、なぜ私の攻撃は届かない?)

 ルイレほどの実力者ならば、相手の構えを見るだけでどれほどの実力を持っているのか感じることができる。明らかに自分のほうが強いはずだった。それなのに攻撃を全て防がれている。

 一瞬ルイレの動きが止まった瞬間、少年が前へ動いた。三歩の距離を一歩で詰めたように見えた。

 振るわれた剣を槍で防ぐ。距離が近すぎて突くには難しい。

 数回剣を防ぎ一歩下がると見せかけ、高速の突きを放ったが簡単に防がれてしまった。

 そこからは一方的に少年が攻めることになった。そしてついには少年の剣がルイレの腹に触れる寸前で止まり、決着となった。

「俺の勝ちです」

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