第17話

「ルイレ、頭を冷やせ」

 騎士たちと乱闘したルイレは、三日間の謹慎を言い渡された。

 屋敷へ戻ると、ダブケリスに激しい言葉ではないが厳しく叱責された。それでもルイレは後悔していない。次も必ず同じことをするつもりだった。

「ふっ、ふっ、ふっ!」

 ルイレは翌日、屋敷の裏にある訓練用の空間で槍を振っていた。周囲は敷地内に植えられた木々で見通しはよくない。誰の目もない場所は、今の彼にはちょうどいい場所だった。

 腹立ちをそのまま槍へ乗せて突き出す。普段と比べると荒い動き。これは鍛練ではなくただのストレス解消だった。

「ハア、ハア……」

 槍を杖のようにして荒い息を吐く。ボタボタと汗が地面へ落ちる。全く心は晴れない。

 今のダブケリスは若いころの悪行が、嘘かと思えるほど落ち着いている。領地へ戻って来てからも、指導は厳しくも怒鳴ったり手をあげることは無かった。数年前からは指導することもなくなり、そのため若い騎士たちから舐められてしまっている。

 その事がルイレは悔しくてたまらない。老いてなお王国で最強の槍使いだと思っている。たまに振るう槍の鋭さを見れば、全く衰えていないのだから。

「一度、ダブケリス様と立ち合ってみればいいのだ。そうすれば、その凄さがわかる」

「では、そうさせてください」

「誰だ!」

 突然背後からかけられた声に、槍を構えながら振り向く。

 十歩ほど離れた場所に麦色の髪の少年が立っていた。この距離ならばルイスは背後であっても誰か立てばわかるはずなのに、先ほどまで全く気配を感じなかった。最大限の警戒をしながら、槍を握る手に力をこめる。

「そう警戒しないで。俺はダブケリス様と立ち合いたいだけです」

 少年はルイレに槍を向けられているのに、全く気にしていない様子で話しかける。

「どこの誰かもわからない奴に、ダブケリス様を会わせられるか!」

 ルイスは摺り足で距離を詰める。少年はただ立ったまま。

「どうすれば会わせてもらえますか?」

「一歩も近づけさせはしない!」

 十分に距離を詰めたルイレは、一歩で少年へ向けて槍を突く。肩を狙ったのは殺すのではなく捕縛するためだった。

「なにっ」

 ただ立っている相手への、自信に満ちた一撃だったが防がれてしまい、驚愕の声が出る。

「あなたを倒せばダブケリス様に会わせてもらえますか」

 いつの間にか少年は剣を抜いていた。ルイレの槍と剣が擦れる音がする。


 

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