第14話

「ただいま戻りました」

 ルイレは巡回を終えた夕方、屋敷へ戻ると帰宅の挨拶のため自分の主であるダブケリスの自室へ向かった。彼はひとりでチェスをしていた。

「おかえりルイレ。巡回はどうだった」

「はい。魔物が数体でましたが、全て倒しました」

「どんな魔物だった」

「狼に似たものです」

 ダブケリスは一度頷くと、無言でチェスを続ける。

「……失礼します」

 ルイレはドアを閉めた。


 ルイレがダブケリスを初めて見たのは、王都で開催された武術大会でのことだ。春に開催されるそれは、国一番のお祭りだった。

 ダブケリスは武術大会のトーナメントには参加しておらず、演舞として舞台の上に立っていた。

 演舞とは言っても、内容は真剣勝負。しかもダブケリス一人に対して、相手は三人だった。その三人は若い本物の騎士なので実力は本物だ。

「はあああつ!」

 騎士の一人が背後から剣で斬りかかる。老いたとはいえ名高き猛将ダブケリスを倒したとなれば、十分な名誉を得られる。本気の攻撃だ。

 ダブケリスは見ることもせず背後からの攻撃を回避する。体を回しながら槍でその腕を払うと、さらに槍を縦に回しその勢いで肩を強烈に叩きつけた。

「ギャア!」

 鎧を着ていても悲鳴が出る威力だった。たまらず崩れ落ちる体。

 残った二人が同時にダブケリスに襲いかかった。表情を変えることもなくその攻撃を槍でいなす。

 その後も二人の騎士は何度も攻撃をしかけるが、全て防がれて反撃を受ける。最初に倒れた騎士も立ち上がり攻撃に参加したが、一度もダブケリスに攻撃が当たることはなかった。

「すごい……!」

 三人の騎士を倒し一人立つダブケリスに、少年のルイレは顔を赤くさせて興奮する。

 王都に住む貴族の息子だったルイレは父親に頼みこみ、地方領地のダブケリスの従者となった。

 それから十年、ルイレは青年となり、ダブケリスは髪が白くなった。

 初めて見たときには猛将と呼ばれたほどの激しさは無かったが、それでも演舞や稽古などでその強い姿は見れた。しかし今となれば、まさに隠居した老人にしか見えず、槍を振ることも少なくなってしまった。

 そのことがルイレは歯がゆい。

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