戦士の槍

第13話

「ハッ!」

 一人の青年が槍を突き出す。大きく開いた両足はしっかりと地面を踏みしめ、両腕は細身ながらも筋肉の筋が盛り上がり、長い槍は地面と平行にいささかも揺るがない。それだけの技量があるということだ。

「朝から元気だなルイレ」

「ハッ! おはようございます、ダブケリス様!」

 青年ルイレは背筋を伸ばすとはっきりした声で挨拶する。

 声をかけたのは白髪の六十歳ほどの男だった。背筋はしっかり伸びていて、外見は老人らしいところが見えない。着ている服は上等なもので身分の高い人物だとわかる。

「若いというのはいいものだな」

「ダブケリス様もお若いでしょう。どうか私と一度手合わせを」

 ルイレの言葉にダブケリスは薄く笑い、首を横に振る。

「さすがに老人には無理だ。ではな」

 背中を向けて去る姿を、ルイレは唇を噛んで見つめていた。


「はあ……」

 今朝のことを思い出し、ついため息がでてしまうルイレ。それを見た隣を歩く男が話しかけた。

「どうしたんだルイレ」

「いや、朝にダブケリス様へ手合わせを頼んだけど断られたんだ」

「それはそうだろ。いくら猛将ダブケリス様とはいえ、朝っぱらからいきなりは無理だろう。年齢も年齢だし」

 ルイレはその言葉に腹が立った。お前はダブケリス様の何を知っているのかと。槍を振っている姿を見れば、今も変わらず私など足元にも及ばない実力だというのに。

「おい、そこの二人。任務中だというのに無駄口を叩くひまがあるのか」

「「申し訳ありません!」」

 小隊長の言葉に、瞬時に姿勢を正して謝罪する。

 現在ルイレたちは領地の巡回中だった。初夏となると、冬の間は身を潜めていた魔物たちが姿を多く見せ始める。魔物たちは人を襲うので、村人が被害にあうのを防ぐためルイレたち騎士が巡回していた。

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