第12話

 突然観客たちが叫び、シーヤは驚く。オロオロしていると、胴元の男が走って近寄る。

「何ていうことだ! 勝利しただけじゃなく、剣神から剣をもらうだなんて! 私は奇跡を見たよ」

 そこでシーヤは自分が何のために街へ来たのか思い出す。

「あっ、あの、勝ったらお金がもらえるんですよね?」

「ああ、もちろんだ。君が勝つとは誰も思っていなかったから、取り分はかなり多いよ」

「それって銀貨十枚ありますか」

「十分あるよ。もしかしたら五十枚はあるかもね」

「すぐにもらえませんか。セキア病の薬が必要でっ!」

 その時、シーヤは観客のなかに知っている人物がいるのを見つけた。薬を買えなかった店の店主だ。

「おじさん! セキア病の薬を売ってください! 銀貨十枚ちゃんとあります!」

 シーヤは走り寄り、太った男の服を掴んで懇願する。

 すると周囲にいた人々が話し出す。

「セキア病の薬って銀貨十枚もしたか?」

「たしか、爺さんかひい爺さんのころに流行った病気だったな」

「それで大勢死んだから、薬が多く作られるようになったって」

「思い出した。何年か前に知り合いの父親がセキア病になったんだ。でも薬ですぐ治ったって。値段は銅貨で十五枚って聞いたような」

 周りの男たちの冷たい視線が、太った男に突き刺さる。

「そ、そんなことはないですよ」

 太った店主の頭に冷や汗がにじむ。

「セキア病の薬はうちの店のでは銅貨十五枚ですよ。ムカファさん、同じ商人として恥ずかしい」

 髭をたくわえた中年男性がそう言うと、視線がさらに冷たくなる。

「剣神さまから剣をもらったヤツを騙すとは、なんてヤロウだ!」

「おいムカファ! お前のところで買った水虫の薬、ぜんぜん効かねえのは、まさか俺も騙してたってことかぁ?」

「ヒィッ! ちょ、ちょっと水で薄めていただけで……」

「なんだとこの詐欺師が!」

 男たちが一斉に襲いかかった。ムカファの悲鳴がきこえる。

「あの、本当にセキア病の薬は銅貨十五枚で買えるんですか?」

「ええ、そうですよ」

 髭の商人の言葉に、シーヤは満面の笑顔を見せた。

「売ってください! お金はあります!」

「もちろんです。ところで……その剣ですが、鞘がありませんね」

「あ、はい」

 剣神から渡された【折れず】は鞘に入っておらず、刃がむき出しだった。

「よければ私の知り合いに作ってもらいませんか。ああ、お代は結構です。薬を買ってもらうサービスだと思ってください」

 薬の値段より鞘のほうが高いので、もちろんサービスなどではない。剣神から授かった剣の鞘を作ったとなれば、必ず大きな話題になる。できる商人は、商機を必ず逃さないものだ。

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