第9話
「汝、闘う意思はあるか」
開始の合図のあと、ゼッジは言葉を発した。
「……?」
不可解な言葉にシーヤは、正面に構えた剣の握りをなおすだけしかできなかった。
「汝、闘う意思はあるか」
ゼッジは右手の剣先を地面へ向けた自然体のまま、静かにもう一度語りかけてくる。
「も、もちろん」
「汝、剣を握る覚悟はあるか」
「あるよ!」
意味のわからない問いかけ。しかしゼッジの瞳と声には言い知れぬ圧力があった。それに対抗するため、シーヤは声を出す。
「汝、運命を手放さぬと誓うか」
運命という言葉に思い浮かんだのは、ミラの顔だった。
「誓う!」
ゼッジは剣を両手で握ると、剣を垂直に正面で構えた。刃を横に向けて剣の側面を見せた姿は、闘うためではなく何かの儀式に見えた。
異様な構えに、観客たちがざわめく。
「裁定者の名において、剣神に誓約する。この者、剣に認められたし」
光が吹き上がった。あまりの眩しさに、シーヤだけでなく観客全員が目を閉じたり腕で顔を覆った。光はすぐに消え、目を開けると見知らぬ男が立っていた。
「何年ぶりだろうなーこっちへ来るのは。百年? もっとか?」
髪の毛が長いかなりの大男だ。袖のない上着からのぞいた腕は、筋肉が盛り上がり普通の人の腿よりも太そうだ。その腰には鞘があるが、なぜか剣はない。
大男はシーヤへ目を向ける。びくりと肩が動いた。一瞬で自分の全てを見抜かれたような気持ちになった。
「なるほど。いいじゃねえか」
犬歯を見せてニヤリと笑う。
「剣神が裁定を許す! 剣授開始!」
大男の声と同時、ゼッジが動いた。
「ぐううっ」
いつ動いたのかは見えなかった。それでもシーヤはゼッジの剣を受けることができた。師範との稽古とは、いつもそうだからだ。動きの起こりが見えない師範の剣を防ぎ、攻撃を返す。何千、何万と繰り返した動きは、考える前に体が動く。
ゼッジは師範と同等かそれ以上の速さで攻めてくる。シーヤは五回防いで一回なんとか攻撃を返すといった程度。防いでるとはいえ、いつ破られてもおかしくない。
「りやああっ!」
実力差は明らかだ。シーヤは師範に一度も勝ったことがないのに、ゼッジは彼よりも強いかもしれない。それでもミラのために負けるわけにはいかないのだ。
耳障りな金属音が両者の眼前で鳴り響く。雷にも等しい音。それだけ剣撃が激しいことがわかる。
「なるほどな。護剣か、面白れえ」
腕を組んだ剣神は笑った。
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