第10話

 シーヤとゼッジの激しすぎる闘いに、緑瞳の剣士は言葉を発することができなかった。観客たちの声も大きくなる。

「おい。剣神だって言ってたよな」

「本物なのか?」

「そんなわけないだろ。神話時代のことだぞ」

「それより二人の闘いだ。こんなの見たことねえよ!」

 ひたすらゼッジが攻めてシーヤが受ける、一方的な闘いに見えるがそうではない。ゼッジは普通の人間には視認できない動きと速度の連撃を続ける。それを全て見事に受けるシーヤの防御も見事だった。

 緑瞳の剣士は無意識に震えていた手を強く握った。ゼッジの剣を受けれないことはないが、あの連撃を全て受けきれるとは思えない。

「ぐううう」

 シーヤ攻撃を防いでいるとはいえ、なんとか限界の手前で踏みとどまっているだけだった。一度でも崩れてしまうと、その時点でゼッジに敗北するのは決まっていた。

 力強い一撃に剣が弾かれ、上体が後ろへ崩れる。

(まずい!)

 隙だらけになった胴にゼッジの剣が迫る。何とか防いだが勢いを殺すことはできず、小柄な体は後ろへ吹き飛んだ。

「うわあっ」

 地面へ倒れることは防いだが、すでに満身創痍だ。腕は痺れかすかに震えて止まらず、足は今すぐにでも膝をつきたい。それでも戦意は消えずゼッジをにらむ。

「フー、フー」

 荒い息を整えるため、意識してゆっくり呼吸をする。剣を正面で構えなおすと、自分の剣がひどい状態になっていることに気づく。毎日手入れしていた刃はいたるところに刃こぼれができていた。それだけゼッジとの闘いが激しかったという証拠だ。

(師範に怒られるだろうな)

 そう思ったら、こんな時なのに笑みがでた。

 そのおかげなのか、体から緊張がほぐれた気がした。疲れてはいるが動きに支障はない。

「…………」

 ゼッジが構えを変えた。シーヤは剣の握りをなおす。動いたのはゼッジ。

「ッ!」 

 受けた瞬間、シーヤの剣が砕けた。それは動かない理由にならない。一歩前へ踏み出す。

「ハーッ、ハーッ……」

 ゼッジの剣は地面に触れる直前で静止している。そしてシーヤの砕けて短くなった剣は、ゼッジの首に触れる寸前で止まっていた。

 首の近くに剣があるのにゼッジは表情を変えることもなく、そのままの状態で顔を剣神へ向けた。

「裁定は終わった」

 剣神はそう言うと、胴元の男へ顔を向けた。

「け、剣試合おわりっ!」

 裏返った声で叫ぶと、観客たちも一斉に叫ぶ。今日一番の騒ぎが起こった。

「僕の、勝ち、なの?」

 アゴから汗をしたたらせながら、シーヤはあえぐように声を出す。

 ゼッジが身を引くと、シーヤは剣を首に向けたままだったことを思い出した。呆然とゼッジが剣を鞘におさめる様子を見ていると、剣神が近づいてきた。

「お前は剣を授かるにふさわしいと認めよう」

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