第6話

「殺せ! 殺せー!」

「負けんじゃねーぞクソがー!」

 殺意そのものといった言葉を、大勢の男たちが叫んでいた。百人程度ではすまない数の男が、一心にその光景を見つめている。

「フッ!」

「ああっ! クソぉ……」

 男たちが円となって囲む中心で、二人の男が武器を持ち戦っていた。一人は剣を持ち革鎧を装着し、もう一人も剣を持っているが鎧はない。

 見るからに劣勢なのは鎧を装着した男で、顔から流れるほど汗をかき息をするたび肩が大きく上下している。

 反対にもう一人は汗ひとつ浮かんでおらず、体は凍っているかのように静止していた。緑の瞳が静かに相手を見据えている。

「ぜりゃあああ!」

 上から力任せに振り下ろされた剣をかすることもなく避けると、緑瞳の剣士は首に向けて剣を振り、肌に触れる寸前で停止させた。

「……負けだ」

 男の降参とともに、周囲の男たちから喜びと悲しみの叫びが巻き起こる。

「ちくしょおー! 全財産賭けたのに!」

「大穴をねらいすぎだバカ」

「強すぎるだろあの剣士。どこかの騎士か?」

「もう十連勝だぞ」

 なんとか人混みをかき分けてきたシーヤは、あまりの熱気に驚く。村の年に一度の祭りでも、ここまで騒がしくはなかった。

「さーあ本日の剣試合、十連勝した剣士に立ち向かう者はいるか!」

 賭けの胴元である男の声で、ここが剣試合の場所だとシーヤは知った。

「次は俺だ!」

「新たな挑戦者の登場です!」

 緑瞳の剣士は、次々と挑戦者を退け続けた。表情ひとつ変えることなく剣を防ぎ回避し、傷ひとつなく勝利する。

「次はついに二十連勝だー! 挑戦者はいないかー!」

 ここまでくると自分との実力が違いすぎると気付き、誰も挑戦者がいなくなった。胴元の表情が暗くなる。すると一人の人間が前に進み出た。

 それを見た周囲の人間は呆れるか、眉をしかめた。なぜなら挑戦者は小柄な少年だったからだ。

「えっ?」

 シーヤは驚く。挑戦者がこの街まで一緒に来た麦色の髪の少年、ゼッジだったからだ。

 胴元の男がゼッジへ慌てて近寄る。

「キミ、本当に挑戦する気なのか?」

「ええ。もちろん」

 涼しい顔で言うゼッジに一瞬呆れた表情となったが、胴元としては賭けが成立するのは嬉しいので別に少年がどうなろうと気にならない。

「では次の挑戦者はこの少年だ! さあ、どちらへ賭ける?」

 ギャンブラー達が賭けを始める喧騒のなか、ゼッジと緑瞳の剣士は視線を交わし合っている。前者はまるで感情の見えない透明な瞳、後者は氷のように冷たい瞳で。

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