題:20

「うおおおおおお!」


 古びた鉄くずごときじゃ止められないのは分かってる。それでも俺はマドカさんとアイちゃんを逃がすための時間を稼ぐため、両手を前に突き出していた。だが、俺が魔法だと信じていた力は目の前のゴーレムには通じない。それを実感した直後、俺の両膝の力は抜け、俺は両腕をだらりと下げて床に膝を付いた。磁力の集中が解除され、鉈を持つ土の腕を止めていた鉄が床に落ちる。

 あの二人は無事に体育館に辿り着けただろうか。母娘おやこにも見える二人の付き添いを志願したのは彼女たちを守らないとという使命感が胸に込み上げたからだった。

 改めて自分自身の不甲斐なさを悔やむ。大きく振りかぶられた腕を目の前にして、俺はもう何も出来ない。


「くそ……」


 俺がすべてを諦めたその瞬間、ヒュンッ……!と風を切る音がしてゴーレムの身体に一筋の閃光が入った。何が起きたのか分からない俺の前で土の身体が欠片になって崩れ落ちる。土煙の向こう側に立っていたのは日本刀を引っ提げたライダースーツの女だった。


Who are you誰だお前?」


 不格好な姿の女は慣れた手つきで刀を鞘に仕舞うと、俺の手を掴んで強引に立たせた。嘘だろ?俺は七十キロあるんだぞ……⁉


「ありがとう、助かった……。俺は寅嶋剛士とらしま たけし、アンタは?」

「なんだ、日本人か。デケェからアメリカンかと思ったぜ。アタシは……青蘭せいらんだ。フェンスも斬れねぇし……出口はどっちだ?案内しろよ。何が起きてるのかは帽子野郎に聞いたからよ」


 セイランは長い髪を揺らしながら俺の横を通り抜けて行った。とんでもなく豪胆なこの女に振り回される気がしたが、あの二人のためを考えれば迷いは消えていた。

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