題:16
「キュウ先輩、見て!あそこ、蜘蛛が人を襲ってる!」
慌てて起き上がった俺はシーナちゃんが指す先でラクネーちゃんと思われる蜘蛛が警備兵を蹂躙しているのを目撃した。最後に見た時より明らかにサイズが大きくなっている。このままじゃ
駆け出そうとした俺をケイちゃんが手を掴んで引き留めた。
「こ、これ、多分役に立つはずです!」
ケイちゃんは輪の形に巻かれたロープを俺の手に握らせます。何か静かだなぁと思っていたらロープを引き上げてわざわざ輪の形に戻していたんだ。律儀としか言えない。
「ありがとうケイちゃん!よし、行ってくるッス!」
煙の上がる真反対の方向へと走り出した俺はある仮説を思いつく。
「馬!」
ヒヒン!と隣で鳴く声がした。へへ、仮説立証!さっきより強い風を全身で感じながら、俺は壁の上をひたすらに駆ける。
一、二、三、四つと塔の下を潜り抜けた俺は城に張り付く巨大蜘蛛の姿を捉えた。王子である俺の頭には既に次に取る行動が浮かんでいる。到底出来る気はしないけど、ここは物語の中。それに、男にはやるべき時があるって母さんも言ってた。
思い切り助走を付けて、壁から蜘蛛の背中に向けて大ジャンプ!!!
「うおおおおおおっ!」
歴史的大ジャンプを披露した俺は馬の背から跳んで、蜘蛛の背に居るラクネーちゃんに掴まった。下を見ると馬もちゃんと城の廊下に着地している。とんだご都合主義だ……。
ラクネーちゃんは俺の登場に驚いたのか、バランスを崩す。
「ここまで追ってきたの⁉驚いたわ、これが本当の……いえ、貴方はここで死ぬのよ!」
ラクネーちゃんは足の一本を壁に突き刺してコンパスのように体を回す。振り落とされるかと思いきや俺の身体は城の上に飛ばされていた。驚いた、確かにケイちゃんの言う通り、ロープが活躍する事態になった。
すれ違いざまに尖った屋根にロープを引っ掛け、城の窓から中にお邪魔させてもらう。人の居なくなった城内で俺は一番上を目指した。目的はもちろん玉座。居なかったら居なかったでちゃんと逃げれたってことだから問題ナシ。
「失礼するッス!」
「あ、貴方は隣国の王子!?何故ここに!?」
豪華な扉を勢いよく開けると、中に居た鎧の人達が飛び上がった。突然の王子様の来訪。それも襲われてる最中に、だから驚いて当然。
「姫様を助けに来ました!金城救です!」
ざわめく兵隊たちの波を割って肝心のお姫様が飛び出してきた。と、思ったはいいけど。
「嗚呼、貴方が私の王子様?素敵なお召し物をお持ちなのね」
金髪、蒼眼。眼鏡を掛けてはいるけど、絶対にヤジルシさんじゃない。思い返せばラクネーちゃんもヤジルシさんとは言ってなかった。でも、ここまで来た以上は放ってはおけない。
「ありがとうございますお姫様。さぁ、共に怪物から逃げましょう!」
お姫様の手を取って走り出そうとした矢先、壁の破片が目の前を横切る。
「私の爪に引き裂かれる覚悟はよろしいかしら!お姉さま!」
崩れた壁から巨大ラクネーちゃんが顔を覗かせた。お姉さまってことはやっぱり何かしら因縁があるらしい。俺は姫様を後ろに下げさせて腰に手を当てた。王子様ならこういう時、怪物に立ち向かうためのすごい武器を手にする。
「出でよー!」
颯爽と引き抜いた俺の手に握られていたのは……ピコピコハンマー⁉これでどうやって戦えって……。
「何?その玩具。それで私を倒すつもり?」
ピコッ。
訳は分かんなかったけど、とりあえず目の前にあった太い脚を叩いてみた。その瞬間、蜘蛛の毛が一斉に逆立ってラクネーちゃんは後ろに下がった。そっか、蜘蛛って音に敏感なのか。高い音を間近で聞かされるのは誰だって嫌なはず。
「止めて、頭が……頭が痛いの」
申し訳無いけど、止めるわけにはいかない。ラクネーちゃんの懇願する声が聞こえてくる中、下がっていく脚を追いかけて叩いていると、ラクネーちゃんの動きが鈍りつつあるのが分かった。あと一息って感じ。体育の授業でやった剣道を思い出して隙あらば腕を振る。
「やめて、やめて……!あっ……」
突然の強風にバランスを崩したラクネーちゃんは追撃しようとした俺もろとも城から落ちていった。落下していく中で俺が頭上に掲げたピコピコハンマーは再び作り替えられていく。主人公補正、ここに極まれり!
俺はピコピコハンマーから書き換えられた剣をそのままラクネーちゃんの身体に突き刺した。刺されたラクネーちゃんは呻き声を上げながら地面に衝突する。俺もラクネーちゃんの身体をクッションにして着地した。
「悪いッスね。これで、物語は終わりッス!」
もう一度剣を振り上げたところで、ザザッと頭にノイズのような靄がかかる。
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