題:13

 沢山の椅子が廊下いっぱいを隠している怪物に張り付いていく。おじさんは魔法って言ってたけど、漫画の中に出てくる魔法とは何か違う。まるで怪物の身体が電磁石になったみたいに椅子が吸い寄せられていく。

 怪物も邪魔な障害物を引きはがそうとするけど、そこに新しい椅子がくっつくからとっても動きづらそうだった。でも椅子にも限りがある。それに、私達を守っている背中にはもう……。


まどかさん!ここは俺が食い留めるんで、あいちゃん連れて体育館の方に逃げてください!」


 おじさんが振り向かずに叫んだ。ホントは応援したかったけど、邪魔になったら逆にダメ。マドカさんに手を引っ張られた拍子に掛けていたサングラスが飛んでいく。


「あっ……」


 私の目はおじさんを見た。見てしまった。慌ててサングラスを掛けたけど、もう遅い。一度見ちゃったものはもう、忘れられない。


「おじさん……ありがとう!」


 私はおじさんにお礼を言って、マドカさんと一緒に渡り廊下へ走り出した。おじさんが見つけてくれた体育館の鍵を左手に握りしめて。


「タケシさん、大丈夫かしら……」


 体育館のある館に着いた時、マドカさんが心配そうに言った。私はそっと振り返っておじさんが残った本館を見る。廊下の先で闘ってるおじさんの背中が小さく見えた。


「おじさんは大丈夫だよ、マドカさん。だって強いから」


 マドカさんには安心してほしい。そう思った私は自然と勝手なことを言っていた。


「そうだね。アイちゃんは本当に強い子。さぁ、行きましょう。体育館で待っていればタケシさんも来てくれるから」


 うん、と私は笑顔で頷いて階段を登っていく。マドカさんの背中を追いながら、掛け直したサングラスの柄に人差し指でそっと触れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る