第:2
天井のスピーカーから聞こえてきた義父さんの声に部屋の中がざわつく。僕とエイルの口論さえ意に介さなかった不良たちでさえも今やスピーカーに目を奪われている。
「私らなんで閉じ込められてんの!?家にお金なんてないって!!」
不良少女が叫び、仲間達がそれに賛同してそうだそうだと声を上げる。僕は愚かな奴らだな、と小さくため息を吐いた。これがただの身代金目的の誘拐ならこんなにも人数を集め、尚且つ自由にしておく必要は無いだろう。
[勘違いしているようだが、私が必要としているのは君たちの力だ。]
室内が静まり返る。不良たちは義父さんの言葉の意味を頭を捻って考え始めた。
「俺達、ずっとこのままッスか!?」
空を切った青年の言葉が狭い室内に反響し、混乱を生み出す。とは言っても騒いでるのは
……ともあれ、青年の心配は杞憂だ。今から始まるのは完璧な異端を作り出すためのデスゲーム。参加者となるのは選ばれた十五人の【異端者】に【裏切り者】である僕を入れた十六人だ。
[いいや、これはゲームだ。君達にはまずこの部屋の仕掛けを時間内に解き、もう一つの部屋に居る参加者達を助けてもらいたい。だが、もし隣人への愛が必要に値しないというのなら……その扉から出て行ってくれても構わない。生命は保証しよう。申し遅れた、私はこのゲームの運営者の一人、仲間達からはイデアと呼ばれている]
様子見に徹していたエイルがふむ、と顎に手を添えた。
「『
エイルの閉じ込める、という言葉に何か思うところがあったのか、不良達の一人が扉の取っ手に手を掛けた。散々試していたのがひと目で分かるような乱雑な手つきで引かれた扉は、彼が思っていたよりずっと軽やかに開き、屈強な身体をふらつかせた。
「おっ、開いてんじゃん。行こうぜ」
扉を開けた不良は早速中に飛び込む。
「その先大丈夫なのぉ?」
「分かんねーけど、行ってから考えりゃ良いっしょ」
不安げになりつつもギャルと日焼けした不良もその後に続いて扉の外へと消えていき、ガタンと再び部屋は途絶された。
[では、健闘を祈るよ]
スピーカーのノイズが消え去り、僕とエイルは同時に溜息を吐く。
「馬鹿は話を聞かない
口に出してから僕とエイルは顔を見合わせる。意見が合わないことよりも価値観が合うことの方が何故か気に食わなかった。見せつけるように嫌な顔をして扉の取っ手を掴んだ僕の右手をさらに細い手が掴む。相手が相手だと分かっているのに僕は驚いてノブから手を離した。
「待って、何処に行く気?」
「何処って、扉の先だが。向こうの部屋に居る奴らがどうなろうと僕の知ったことじゃない」
十六人が八人に減るのだからこれほど見え透いた好機はない。再び扉を開けようとした僕の前にエイルが体を割り込ませた。僕より頭一つ低いくせにこの女は煽るような視線で僕に絡みついていた。
「そう、逃げるんだ。君も彼らと同じか」
先に扉を抜けたバカどもの顔が脳裏にチラつき、僕は踵を返して部屋を見渡した。
「……危険だと判断したら先に行かせてもらうからな。それで、仕掛けか……」
視界の端で先程仲裁した茶髪の青年が俯いた少女へ懸命に話し掛けている。だが、少女は膝を抱えたまま一向に動き出す気配を見せない。完全に心を閉ざしてしまっているようだ。
心を閉ざした少女とそれに向き合う青年。その構図に誘発され、頭痛が僕を襲う。日常生活の中でも時折喰らっていた頭痛だが、今回は頭を割るような強さだ。
ふらついた僕を支えたのは意外にもエイルだった。頭を押さえた僕を心配そうな表情で壁へと導いた彼女は青年を退かせ、代わりに少女の前へと手を差し伸べる。激痛に歯を食いしばりながらも僕の目は自然とパーカーの背を追っていた。
「会いたい人、居るだろう?」
エイルの問いかけに少女は顔を上げる。余程の時間泣いていたのか、丸眼鏡の奥の目元は赤く腫れていた。
「俯いているだけじゃ二度と会うことは出来ない。協力してくれ、君の力がきっと必要になる」
申し出に頷き、エイルの手を取った彼女は制服のスカートを押さえてゆっくりと立ち上がる。そしてずれていた眼鏡を掛け直すとエイルへと縋り寄った。
「お願いします!友達を助けてください!向こうの部屋にいるはずなんです!」
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