第2話 悲劇

-永正15年-

 尼子軍は勢力を急拡大する尼子家に反旗を翻した桜井宗的の磨石城へ進軍していた。経久は討伐軍の総大将に嫡男・政久を据え、万全の体制を整えた。


 尼子政久という武士は、父・経久に劣らず智勇に優れた武将であった。同時に、笛を嗜む珍しい教養人であり、その智勇は父からも認められ、経久の出雲統一に於いても政久の役割は大きかった。そんな政久は自分の嫡男と妻を置いて、出陣した。


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 一方、桜井宗的は同時期に尼子軍の侵攻を受けていた隣国・伯耆国羽衣石城主南条宗勝と通じ、来たる決戦のために軍備を整えた。城内には、大量の兵糧や武器が連日持ち込まれた。


「殿、尼子軍が迫っております!」

「もう、来たか!数は如何程だ。」

「尼子政久を大将とし、3000近くの兵で塩田辺りにて休息を取っているようです。」

「経久は来ておらぬのだな。」

「斥候の知らせでは。」

「うむ。城内の者に支度を急ぐように伝えよ。」

「はっ。」


宗的の面持ちは変わり、勝ち誇った顔となった。


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 2日後、ゆっくりと進軍をした尼子軍は城の南東にある池を押さえ包囲した。一気に制圧しようと意気込む尼子軍は磨石城に攻勢を掛けた。しかし、堅城である磨石城は中々落ちず、敵の兵糧も切れなかった。日に日に増えるのは自軍の犠牲だけだと落ち込み、厭戦気分が漂い始めていた。


「政久様、我が軍の士気が下がっており、戦の際に指示を聞かぬ者がおります。」

「そうか。軍の士気が下がると、戦どころではなくなる。して、何か策はあるのか。」

「某には。。。」

「よし、儂が考えておこう。そなたは明日のためにも休め。」

「はっ。」


武将が政久の本陣を後にすると、政久はしばらく座っていた。その後、外に出て風に当たって思考を巡らしたが、何も思い浮かぶことはなかった。ただ、明日にも城を落とすということしか思いつかなかった。


 どうすれば良いのだ。。。須佐神社で神事祭が行われておったな。。。そうか!儂が笛を吹き、兵を鼓舞すればよいのではないか!


 翌日の磨石城攻めの際に、政久は昨夜思いついたとおりに笛を吹き始めた。尼子軍は突然鳴り出した笛の音に気を取られたが、しばらくして音の主が政久だと分かると、要望に応えようと今までにないほど籠城軍を激しく攻め立てた。


「宗的様!尼子軍の攻勢が激しく門が突破される寸前にございます!」

「なせじゃ!経久でも来たのか。」

「いえ。そのようではありませんが、政久が笛を吹き、兵を鼓舞しているようです。」

「小癪なぁ!すぐに政久を殺せ!」

「はっ。」


宗的の命により、籠城軍は弓矢を笛の音のする方に放ち始めた。茂みにいたにも関わらず、放たれた矢が次々と政久の周りに刺さった。


「政久様、お引きください!」

「うむ。すぐに引くぞ。」


久政の目には空に一瞬、点が見えた。その瞬間、正確に放たれた矢は政久の喉を貫いた。矢じりにはドロドロとした血がこびりつき、血が地面へ滴り落ちていた。政久は口中に貯めた血を吐き、地面に頭から倒れ込んでしまった。


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「経久様!磨石城より伝令です!」

「攻め落としたか!」

「いえ!久政様、敵の矢を受け、御討死なされました!」

「な。。。何!真か!」


すぐに、尼子家居城・月山富田城内に噂は広がり、動揺が広がった。経久はその動揺を鎮めるためにも怒りを抑え、すぐに諸将を集め、軍議を開いた。


「これより、軍議を開く。磨石城攻めをしていた久政が討死をした。故に国久、お主を磨石城攻め総大将に任ずる。」

「はっ。」


経久の感情は徐々に高まっていった。


「宗的が和平を望んでも、根絶やしにせよ!」

「はっ。」


経久は珍しく、唾を飛ばしながら国久に命じた。


 5日後、国久は磨石城付近の蓮花寺にて残っていた尼子軍と合流し、二度目の包囲を開始した。この時、尼子軍は弔い合戦とばかりに気合が入っており、磨石城を僅か10日で攻め落とした。


「宗的様!こちらです!」

「あぁ。」


宗的は手下に導かれ城外へ落ちようとしたが、落ち延びるところを国久に発見された。


「桜井宗的!兄の敵じゃ!」

「ま、待て!」


国久は逃げ惑う宗的に追いつくと太刀を振り下ろし、背後から宗的の肩を切り落とした。宗的が蹲ったところで馬を降り短刀で宗的の胸を突き刺した。その後、力はなくなったが温かみのある身体から首を取った。この首は経久の元に送られ、『裏切り者』ということで晒された。


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 戦後、政久の血統が絶つことを悔やんだ経久は政久の遺児・三郎四郎を嫡男とした。当の三郎四郎は父がこの世に居ないことも自分の地位もまだ知っていない。

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出雲の三郎四郎 三十六計逃げるに如かず @sannjiyuurotukei

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