第21話 見えない恐怖

「…ふむ、その多量の蒸気を放出した状態、ワレは奥の手だと思っていたのだが…まだ使えたか」

「ええ…あと何回使えると思う?」

「さあな…ただワレは魔王軍大幹部の中でもっとも再生力と持久力に秀でた個体、長期戦は得意分野だ!」

そう言って、クルトさんの剣を構え向かってくる暴食。

でも…遅い、いくらユニークスキルを複数持っていようと、身体スペックがそれではね。

向かってくる暴食に対して私はただ単純な蹴りを放つ。


―ドコッ


奴の剣が私に届く前に、私の蹴りは暴食の胴体を撃ち抜き、風穴を開ける。

「…むっ!」

蹴りの衝撃で吹き飛ばされた暴食は空中で姿勢を整え着地する。

着地した暴食の胴体には…今さっき開けた風穴はすでに防がっていた。

「…想像以上の再生能力ね」

あの、大穴が一瞬で塞がるとか…一体全体どうなっているのだか?質量保存の法則どこいったし。

「ふははは、その強化状態、想像以上の出力だ!」

まあね、今の私の身体能力はホントにいかれているから。

「…だが、ワレを一撃で殺しきれない時点で威力不足だぞ?」

「それは…どうかしらね」

なら…次は丸焼きにしてみようかな。

「ニュークリアブラスト」

「ぬ!?」

私の構えた手のひらから放出される超高温蒸気。

なに、出力事故を起こしかけている原子炉なんて有り余るほどの熱エネルギーがある。それこそ数千トンの水をすぐにすべて蒸気にしてしまうくらいにはね。

「これしき暫く耐えれば…」

「それは悪手だわ」

いったでしょう暴走した原子炉なんて熱が有り余ってるって。

十秒

二十秒

三十秒

「く、その出力をこんなに長く維持するだと!流石の我でも再生能力がおいつかんか!?…ワハハ、イカレタ能力を持つものだ!」

「そのまま蒸し焼きになりなさい、甲虫擬き!」

「ふん、そういうわけにはいかぬ…ホーリーフィールド!」

…む?

暴食がそう唱えたとたん私の放つ超高温蒸気がなにかに阻まれる。

「ユニークスキル「大聖女」の技…」

「いかにも…我の再生能力と大聖女の力、今のワレはかつての魔王アルケー様を

もってしても簡単には滅ぼせぬ!」

大聖女のユニークスキル…勇者パーティーの力がすべてを捨てて帝国に来たはずの私の前に立ちふさがるなんて…なんの因果かしら?

でもまあ、排熱で殺しきれないのなら…直接攻撃すればいい。

私はニュークリアブラストの放出をやめ暴食に肉薄する。

「…ぬ!?」

「喰らいなさい!」

さて大聖女の障壁と私の数億キロワットパンチ…どちらが上かな?


―ガキッン


「…ちっ」

「フハハ、魔王アルケー様の攻撃さえほとんど封殺したというホーリーシールド、そう簡単には破れぬぞ?」

はぁ…全く厄介なものね、勇者パーティーの力というのは…。

…まあでもね?

「ねぇ、知って?」

「む?なんだ大勇者の娘よ?」

これはほかの世界の知識だけどね?

当時は戦略兵器とされた戦艦。

最盛期は一番硬いところで600mmほどの装甲が施され、数万トンの巨体を誇った兵器。

でもそんな怪物兵器は二度の世界大戦をもって完全に淘汰された。

…なぜかってそれは簡単…攻撃側のあらゆる能力がインフレしたから。

超弩級戦艦だろうと対艦ミサイル数発を撃ち込まれればたちまち大破するでしょう。

まあ防空システムの進化という側面も戦艦が消えた一例だろう。

所詮他の世界の情報を聞きかじった程度の知識だから現実はそこまで単純ではないでしょうけど。

…話が脱線したわね…とにかく何が言いたいのかというとね。

「防御というのはね、いつか攻撃に凌駕される運命なのよ、あらゆる手段をもってして…ね」

と、いうわけで

3号炉全制御棒引き抜き、出力上昇、臨界、出力100%、定格運転、安全装置解除、出力さらに上昇、臨界超過。

「む!さらに力が増した」

「ふふふ、大聖女様のシールドはどこまで耐えられるかしら?」

要は出力上げて攻撃すれば、どんな固いものだろうと破壊できるでしょう!

再び殴りつける私。

さて今度は…


―パリンッ


存外、軽い音とともにホーリーシールド割れる。案外先までもギリギリだったのかしらね?

そのまま「暴食」を殴りつける。

「ぐヴぁ!」

私のさらに出力を増した拳を受けて体が爆散する暴食。

え?応用物理学でも一番難解と謳われる原子力を扱ってる割に戦い方が脳筋すぎるって?まあ、私の知識量なんぞ知識元の世界の理学系の学部生にすら劣っているだろうしね。

それに…む。

「フハハハハハ…今のは効いた、だがホーリーシールドで軽減された貴様の拳ではワレの再生能力までは突破できん!」

ホント、異常な程な生命力ね…まあ、でも。

「大聖女のユニークスキルを突破できたから私は割と満足しているわ」

勇者パーティー最大の防御を突破できたってことだから。

「ふむ?満足?ワレの防御を突破できていないであろう?」

…なるほど、やはり気づいていないようね?過去に一度使った手なのに。

「…言ったでしょう?」

「…む?」

「攻撃はあらゆる手段をもってして防御を凌駕すると…そろそろ…フィナーレよ」

「何を言って…ぐっ!?ガはっ!」

突如膝をついて吐血する暴食。

「き、貴様なにを?」

「ふむ…あなたはそういう症状が出るのね」

「グッ、体が言うことを聞かぬ…何故だ!?」

「簡単よ…あなたは今までどれくらいの…中性子線…放射線を浴びたと思っているの?」

一体、奴は何Gy被ばくしたかな?

「ホウ、シャセン?」

別に私は奴の防御を破る必要はなかった…奴に中性子線を照射し続けて倒れるのを待てばよかった。だから…最初から奴に中性子線を浴びせ続けた。 

…どんな異常な再生力を持っていようと、生物である以上放射線の脅威からは…逃れられない。

私が得た別世界の知識によると…原子力というのは発電や医療に有効利用されようと今だ多くの人々から恐れられ…忌避される。

それは、何故か?莫大なエネルギーを発生させる故か?

違う…答えは、見えない恐怖故。

原子力というのは何か起きた時に多量の放射性物質をまき散らす。そしてそれらはその放射能をもってして放射線を出す。

よほど高い放射線量でなければ人はそれを感じ取れず、しかしそれは確実に細胞の機能を破壊する…生命維持とって不可欠な能力を。

見えない、感じ取れないのに、確実に体を蝕まれる恐怖。

それは人が最も恐れるものの一つ。

放射線に関する専門知識がなければなおさらだろう。

…まあ、効かない可能性も考慮していたけど…杞憂だったようね。

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外れスキル「発電」がユニークスキル「原子力発電」に進化した私、最強に至る ~追放された大勇者の娘は核の力を使い隣国で英雄になる~ @TOKAGE123

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