第19話 熱出力数億キロワットパンチ!
超臨界、または臨界超過と言われる現象。
定義は簡単だ。原子炉内での中性子のサイクルを表す4因子公式、その解である無限増倍率が1を上回った時である。
無限増倍率が1を上回る…ようは原子炉内で消費される中性子より新たに生まれてくる中性子の数の方が多いということ。
通常は原子炉を定格出力にするために行われる臨界超過。
高速増殖炉でもなんでもない、ただの軽水炉で定格運転時からこの現象を起こせば…中性子の数は発散するように増え続け…それに伴い核分裂反応の数も急増する。
1回の反応で約200MeVという普通の化学反応と比べると桁違いのエネルギーオーダーを誇る核分裂反応。それが制御されずに増え続ければ一体どうなるか。
即ち、出力事故である。
原子炉は「止める、冷やす、閉じ込める」の3つが安全管理上、非常に重要とされている。
この三つのどれに失敗しても原子炉は過酷事故、即ちシビアアクシデントに見舞われるが中でも重要なのが「止める」である。
これに失敗すると原子炉は暴走し、最悪の場合、原子炉本体が破損し環境中に大量の放射性物質がばらまかれることとなる。
これが上記の出力事故である。
この事故シナリオは電源喪失や大破断locaによる冷却材喪失などのシナリオと比べても危険度はより一層高く、一般的にわずか2時間ほどで環境へ放射性物質を放出する、深層防護においてレベル5に達する事態となる。
…結局何が言いたいのかというと、ようはこの超臨界という状態、非常に危険な状態なのである。
しかし、その代わりこの出力事故時の原子炉の出力は…数百倍にまで達する。
―シュー
この音は私の体全体から放出される蒸気の放出音である。
熱い…熱いなぁ…。
体が溶けてしまいそうなほどの高熱を体内から感じる。
体内では体組織が破壊されそばから修復されていく現象が発生している。
正直に言うと…めちゃくちゃに痛い。どうにかなってしまいそうだ。
だが…今までにない莫大な出力を…パワーを感じる。
「…ニア…何をしたんだい…なんだ、それは」
戸惑うプライムに掌を向け…放つ。
「ニュークリアブラスト」
そう唱えれば手のひらから超高温の熱波が放出される。
高温により空気をプラズマ化しながらそれは高速で迫る。
「くっ、グレーターウォーターウォール」
それに対して巨大な水の壁を張る彼…あ、それは。
水と熱波が衝突し、大量の水が一瞬で蒸発…つまり水蒸気爆発を起こす。
―ズガンッ!
舞台の中心で爆発が起こる。
その爆発は観客席に張られた障壁を揺らすほどの威力。
…審判…生きてるよね?
「…面白い、面白いよニア!」
爆発による煙が晴れた舞台で、プライムは仁王立ちしながらそう言う。
彼の姿はすでにボロボロであった。
「…この絶対者たる僕が、こうも」
「ご講釈垂れるのは勝手ですけど、今のは攻撃ではありませんよ、お兄様」
ニュークリアブラスト…単に有り余る熱を排熱しただけである。
しかも今さっきのに関しては半ばプライムの自爆だしね…。
「…ほう?」
「…そして今からが…攻撃です」
地面を踏みしめ、プライムの元へ高速で迫る。
踏みしめた地面が私のパワーに耐え切れず砕け散る。
「!?」
一瞬で、プライムに肉薄する。.
さあ、食らいなさい、お兄様、これが熱出力数億キロワットの拳!
彼は慌ててガードするが…私の拳はガードごと彼の体を…穿つ。
拳から人体を貫通する不快な感触が伝わってくる。
例え、どれだけ身体強化を施そうと、この拳は防げない。
「…ガハッ」
吹き飛んで転がりながら血を吐くプライム。
追撃は…まあ取り敢えず様子見かな。
観客たちがあまりの出来事に反応できないのか、闘技場は沈黙している。
…審判の姿が見えないんだけど…この戦い、どうすれば終わるのだろうか?
私がそんなことを考えていたら。
「…ふ、ふはは」
ふらふらと、プライムが立ち上がる、胴体に空いた穴は…すでに塞がっている。
「まさかこの僕が…力負けするとは!…はははっ!世界は広い!」
なんか知らないけど感動しているお兄様…マゾなのかな?
「…でもその力、時間制限があるのだろう?」
「…」
まあね、それは当たり前だ、私の今の状態は出力事故、そう長くは維持できない。
「…それはお兄様も同じではないですか」
…なんか段々とプライムをお兄様と呼ぶのに慣れてきた…まだ家族っていう感覚はないけど。
「まあ、そうだよ、だから…今からはどちらが先に限界を迎えるのか勝負だ」
今さっき彼の見た治癒能力確かに厄介だ。だが…
「体が爆散しても果たして治癒できるのか、見ものですね、お兄様」
一撃で仕留めればいい…あれこれ武闘大会じゃなかったけ?ガチの殺し合いになってない?
「それは…遠慮したいかな!」
そうして始まった私とプライムの戦い。
プライムはひたすら私から距離を取り、致命傷を負わないようにしながら様々なスキルを用いた遠距離攻撃で牽制してくる。
戦っていて思う、なるほど厄介だ。
でもこれ…なかなかいい。
矮小な人間がなんとか知恵を振り絞って、暴走する原子の力を制御しようとする、そんなふうに見えるからだ。
そう、これこそ人と原子力の関係を端的に示すもの。
…そんな感じで数分ほど戦っていたら。
「…ぐ」
突如、プライムが膝をつく。
私は振りかぶった拳を止める。
「…どうやら、僕の方が先に限界が来たようだ」
…やっとか。
…じゃあ、私の勝ってことでって…っ!
と思ったら突然、私の体から力が抜け私はその場にへたり込む。
…原子炉、大規模に破損、修復は困難。
「…あ」
「…どうやら君もみたいだね」
…いや、まさか原子炉を暴走させても仕留めきれなかったとは。
『…どうやらここまでのようだな』
拡声器から皇帝の声が響き渡る。
『ニアにプライム、我が子として素晴らしい戦いだったとほめておこう!しかるに…』
皇帝がさらに続けようとした瞬間。
「!?」
なにかが来る、しかし今、私は動けない。
「ニア!」
その時、プライムがこちらの方へ飛び込んできて私を抱え上げると、そのまま距離をとり…
―ズガーンッ!
丁度今さっき私がいた場所になにかが降り立った。
なにか…それは人型の甲虫のような外見をしたもの。
「ワレは…魔王軍大幹部が一人「暴食」である…」
それは…「暴食」はそう言った。
…
…一つ言えることは、タイミングが最悪すぎる!
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