第18話 超臨界

帝国最強の冒険者の正体は…帝国の魔皇子。

…うん、つまり?

「えーと…プライム殿下?」

「そう畏まることはないよ…君の父、大勇者フリッツは皇帝陛下の弟…君も立派な皇族の血筋だよ」

…うん、色々とわけが訳が分からないや。

私が混乱していると。

『臣民よ、余である』

突然、帝国皇帝の声が闘技場に響き渡る。

ざわめいていた闘技場は一瞬で静かになる。

そうして皇帝は続ける。

『…プライムの言葉は…真実である、大勇者フリッツは余の弟にあたる』

…まじですか。

『よってニアは…皇族の血筋となるのだ…』

お父様…皇弟だったとは…

『しかし…皆の知っての通り、余の弟、大勇者フリッツは行方不明、してニアはまだ齢15と聞く…帝国での成人は知っての通り18歳だ』

…ん、なんか雲行きが。

『成人前の子供に保護者がいないのは由々しきことである…そこで…ニアを余の養子としてとる!』

…はい?

『臣民にこの場で宣下する!余の弟の娘、ニアは…これより第三皇女ニア・アイアンとなる!』

…そうきたか。

つまり帝国は完全に私を取り込みにきたと。

『…ニアよ、異論はないか』

異論は…

「ございません、皇帝陛下」

『ふむ、よろしい』

ない…なんせこれはとても都合がいい。

私の懸念点の一つだった私の弱い立場というのが解決するからだ。

これで…私は帝国の原子力政策に深く食い込める。

いや…コントロールすることすら可能かもしれない。

私の奥に秘めていた野望…原子力のあらゆる面を利用して争いのなき世界を創造するという夢を、完全なる核抑止を…実現できる可能性が高まった。

そうすれば、私の多くの人々を救うという目標も達成できる。

「つまり…蒼黒令嬢は蒼黒殿下になるってことか」

「蒼黒殿下って、それはただの皇族の方々じゃね」

「おいおい、つまり皇族にユニークスキル持ち、二人になるってことか?」

「そりゃすげぇな!帝国は安泰じゃねぇか!」

「ニア殿下…いい響きだ」

「おお!ニア殿下万歳!皇帝陛下万歳!帝国万歳!」

「ニア様が…ニア殿下になってしまわれましたわ!」

「お、落ち着いてくださいお嬢様」

観客たちが好き勝手に騒ぎ出しているわね…。

「君はこれから僕の妹になるんだ…よろしくねニア」

「…プライム殿下」

「皇女が皇子を殿下と呼ぶのはおかしいだろう?僕の事は兄さんかお兄様と呼びたまえ」

「…あ、えーと、お兄様?」

「うんうん、よしそれじゃあ…続きをやろうか」

…え!?

「この流れで…続き?」

「いやぁ、兄としてね、このまま終わるのはちょっとね…本気を出させてもらうよ」

本気って、さっきまでのは手加減だったの?

「じゃあ」

そう言ってプライムは目をつぶり。

「ユニークスキル『絶対者』起動…『インペリアル・プライム』発動」

彼はそう言った。

瞬間…彼の周囲から強烈な威圧感が放たれた。

それまで、騒がしかった観客席が再び沈黙し…息をのむ音が聞こえてくる。

この威圧感…なんだ…まるで軍勢を相手にしているような…

「じゃあ、いくよ」

プライムがそう呟いたときにはすでに…私の目の前に彼はいた。

いや、私の異常な反射神経で動きは見えた…だけど体が追い付かない速度…具体的には極超音速。

「…まずっ!?」

私は反射的に腕でクロスを作りガードする。

そこにプライムのジャブが飛んできた。

彼のジャブは…原子炉の多重防護をまとめてぶち抜き、私のクロスした腕に到達する。

直後、とんでもない衝撃が体全体を襲う、私はそれに抗はず吹き飛ばされることをえらぶ。

「…ぐっ!」

そのまま私は転がり、なんとか起き上がる。

…なんだ…この威力。異常だ。

両腕が…折れている、さらに肋骨にまでひびが入っている気がする。

「…なんですかそのバカげた力は」

原子力発電の出力すら上回る異常な力

「…うん、兄として妹の質問には答えてあげよう」

プライムは余裕そうにそう言う。

「時に帝国の人口がいかほどか…ニアは知っているかい?」

…なんだ、藪から棒に。

「…確か、5億人ほどでしたっけ」

「正解だよ…素晴らしい、僕が発動した『インペリアル・プライム』はね…その5億人分の力を僕に与えるんだよ、無論彼ら彼女らの持つスキルを含めてね」

「…はい?」

えーと、つまり…プライムは常人の平均の5億倍の力と5億個のスキルを今、持ってると?

…ずるくない!?色々規格外過ぎない!?

「だから…」

横から声がした。

動きが見えなかった、これは….転移!?

「こんなこともできるんだよ」

防御する隙も無くプライムの蹴りが多重防護をすり抜け…私の脇腹に食い込み。






「…あ、あれ」

気が付けば私は観客席の下の壁に突っ込んでいた。

「う…げほ」

ま、まずい、内蔵にまでダメージ。

障壁を…透過された?

「がはっ、うえ」

喉の奥からなにかがせりあがってきてそれを吐き出す…血の塊だった。

「…まあ、こんなもんかな、僕の本気の蹴りを喰らって死ななかっただけですごいよ」

…いや殺す気だったの?

しかし、5億人分の力。

…とんでもない力だ、スキルを含めると原子力発電の出力など軽く上回っているだろう。

「…僕もあまり妹をいたぶるのはあれだからね…さっさと」

…でも。

「…あの」

「何だい?」

5億人の力…だが所詮…人力。

人が知恵でなく…力で原子力を上回る?…そんなの…そんなの…。


あり得るはずがない。


私は原子力の化身…人類がその叡智をもって何とか制御できる巨大科学の産物そのもの。

それを人力で制する?…馬鹿馬鹿しい。

「…お兄様は…バカです」

「…は?」

見せてあげる、原子力が人類が扱う中で最も危険な技術と言われる所以を。

この…まだ何も知らない世界に刻み込んであげる。

…全安全装置解除、無限増倍率1.0を超過。

「『超臨界』…発動」

いかなる叡智で持っても制御不能な…暴走した核分裂の力を。

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