第15話 蒼黒令嬢?

シルバー王国、王都が壊滅…か。

私は宿の部屋の机に王都壊滅を伝える号外を広げ読む。

王や国の上層部、勇者パーティーやその子孫は行方不明…ね。

詳細は不明だが魔王軍の大幹部単独の仕業らしい。

なるほど、ミケの予言通りってわけね。

…はぁ。

完全に縁を切った国だ、だが。

「…もし、私が残っていれば」

…この事態を防げたかもしれない。

「…知ったこっちゃないわね」

かなり冷血だろう、しかし、私を拒絶した国のことなど、私にとって害にしかならなかった人間関係など…なくなったところで、どうでもいいのだ。

「そう、あなたにはもう関係ないね」

「…」

部屋に一人でいるはず私への返答。しかもこの声。

「…ミケ、何故ここに…」

大賢者の娘、ミケ。

「…あなた父親、ラルフさんは行方不明で…」

「お父様なら死んだ」

「…あなた、一体何なの」

平気な顔、というか無表情で興味なさげに自分の父親の死を告げるミケ。

さすがに不審な点が多すぎる、何故帝国にいる?いつこの部屋に入ってきた?

「…私が何者かは…いずれわかるよ…それより忠告があるわ」

「…忠告?」

「…王都を滅ぼした魔王軍大幹部「暴食」、今、帝都に向かっている」

…帝都に?

仮にも人類随一の国力を誇る国の首都に単身で殴りこむ…随分と自信があるのね。

それに「暴食」という名前…さてどんな能力を持っているのやら。

「…む」

なんて考え事をしていたら、ミケはいつの間にかいなくなっていた。

窓も扉も開いた形跡はない。

ミケは…きっとただの人間ではないのだろう。

そう、人間ではなく…もっと上位の。

…正体も謎だが、目的も謎だ。

まあ、今はミケの事はいい。それより重要なのは帝都に向かっているっていう魔王軍の大幹部「暴食」についてだ。

帝国に伝えるべきか?いや、どうやって?

…まあ、隣国の王都が壊滅したのだ、帝国が警戒していないはずがない…か。

なら私がすべきことはただ一つ、常に余裕を持つこと。

…私の能力の大まかな部分を把握していると思われる帝国すら知らない私の…奥の手。

できれば使いたくないけど…。








数日後。


「勝者…ニア!」


―ウオオオオオオオオオオオオオオォ!


よし勝ちだね。…というか初戦では沈黙だったのに今ではこの歓声だ。ちょっとうれしい。

対戦相手のAランク冒険者のなんとかさんはまあ悲惨な状態。

人間と巨大科学の産物が正面からやりあったらまあ、そうなるよね(諦観)。

『まさに今大会のダークホース!ニア選手、ここまで圧勝を重ね、ついに決勝進出です!』

「まさか…彼女が決勝まで進むとはね」

「ま、まあ俺は最初見たときから、強者だとわかっていたよ」

「…嘘つけ、お前、最初はただのガキとか言っていただろうに」

「ニア様~!こっち向いて~!」

「さてさて彼女はオレグに勝てるかね?」

「さあ?でも前回までのオレグの圧勝劇ではないことは確かだな」

「…さすが『蒼黒令嬢』凄まじいな」

そう、これ、まさかの準決勝である。

…え、それ以前の試合はどうしたって?

あの、実力者らしい冒険者たちをただただパワーに任せてボコす構図に需要がある?…いや、ない。多分。

あ、蒼黒令嬢ってのは私の二つ名らしい…別に私、令嬢じゃないけどね。

と、お腹がすいてきた、さっさと外に出て屋台でなんか買おう。

舞台から降りて、選手控室へ、そこで荷物をもって、外へ行く。

闘技場の周りは相変わらず屋台だらけ…。

さて今日はなにを食そうかな。

「おい、あれ」

「ああ、蒼黒令嬢だな」

「…ち、ちょっと話しかけて」

「やめとけ!蒼黒令嬢は子供以外だと、相手にしないからな」

「…どうにかしてサインを」

「無理だ、諦めろ」

「…マジかー」

…話し声がいちいち大きいのよ、帝都民。

というかその言い方はやめれ、私がまるで子供を好む変態みたいじゃない。

「そんなことより、知ってるか?蒼黒令嬢って…あの大勇者の娘だとか!」

…む?

「マジかよ!?…ならあの実力も納得だな」

「…でもなんで帝都に?」

「さあ?…しかも数日前にシルバー王国の王都が壊滅したんだよな」

「なにか…関係があるのかね?」

…とうとう私の正体がばれているようね、まあ、案外遅かったというか。

というか…こんな注目された状態でご飯は…ちょっとね。

サンドイッチでも買って宿で食べよう…。

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