第10話 神の警告
「ここは?」
気が付いたら私はどこかの町の道路に立っていた。
周りを見渡して気が付く、そこは私の世界より随分進んだ世界の地方都市と言ったところか。
しかし、異常がある。なぜならその街には人の影がない。
家や商店のガラスは割れ、空き巣にでも入られたのか、室内が荒らされている家すらある。
ふと何やら文字の書いた大きな標識があった。
そこに書いてあったのは、明らかに私の住んでいる世界の共通文字ではない。
しかし、何故だか読むことができた。
「…一葉町…?」
そう、書いてあった…察するに地名だろうか。
しかしなぜこんなに荒れているのだろうか、この町は。
そこで、ふと気が付く。
「…普通より、放射線量が…高い?」
ここの放射線量は、すぐに影響が出るほどではない、が住むには困難な程度の線量だろう。
―あなたは…間違いを犯しました―
「…!?」
突如、声が聞こえてきた…その声は私の頭に直接語り変えているような…
―あなたの持つ能力と技術…それは我々の世界に破滅をもたらす可能性のあるものです―
「…」
謎の声は…なお続く。
―この町を見てください…この光景は、あなたの持つものを平和利用した結果…生み出された光景です…人々はある日突然、故郷を追われたのです―
「…」
―…今からでも遅くありません、あなたの能力を封印しなさい―
封印…ね。
「…それはできませんね」
だって、私にはこれしかない、のだから。
―…いずれ、あなたは後悔する時が来るでしょう、自分の行動の結果、齎されるものに
「…夢?」
気が付くとどこかの部屋のベッドの上にいた。
…そうだ、思い出した、冒険者協会で手続きを終わらせた後、宿を見つけて、部屋に入ったら眠気が襲ってきて、そのままベッドへ。
「…取り合えず、シャワーを浴びましょう」
シャワー、異世界の知識の中にあったもの。ここ帝都では広く普及している。
脱衣所へ行き服を脱ぎ、浴室へ入る。
そのまま取っ手をひねるとお湯が出てくる。
そのお湯を浴びたまま先ほどの夢を振り返る。
「…明晰夢…にしてはリアルすぎたわね」
…ただの夢ではないだろう、ならば。
「…上位者、恐らく、神々からの…」
異世界とは違い、この世界には明確に神々がいる。
帝国のある大陸の北の方にある島、そこには神都があり、太陽神を頂点とした数多の神々が住む。
これは余談だが、国によって信仰している神は違う。帝国の国教では機械神「デウスエクスマキナ」を信仰している。この神は帝国以外信仰している国がない割とマイナーな神で、神々の中では比較的若いとされている。
…話を戻そう、先ほどのは恐らくいずれかの神の私への「警告」だろう。
だが、従う気はない。
なぜなら、私が手を出さなくても、この世界の人類はいずれ手に入れるだろう、原子力の技術を。
ならば、比較的政情が安定していて圧倒的な国力を誇る帝国こそ、最初にその技術を手にするのにふさわしい。
あの神の言う通り、「原子力」は非常に危険な技術だ。
そして、その危険性を知っている人類は今現在、恐らく私だけ。
だから、帝国に情報を流した。私が原子力の技術開発に関われるように。
「…私は絶対に核兵器が人類に使われるのを阻止してみせる」
核兵器が人類に使用されないようにする方法は二つ、核技術を帝国が独占、管理するか…核抑止を構築するかだ。
…前者は恐らく不可能、なら後者しかない。
核抑止を完全に実現するなら…。
「…いや、帝国ですら役不足、か」
それには…核兵器を管理する超国家組織が必要か。
「…まって」
そこで私は思いつく…私たちの世界には、人間を超越する存在、「神々」がいるではないか。その神々に核兵器を管理してもらえば…。
だが…先ほどの、夢?の内容から神々は原子力には否定的な神が多いのだろう。しかし…。
「機械神デウスエクスマキナ」
機械神と名の付く神、帝国が信仰するその神ならば、もしかして…。
しかし、機械神は若い神、神都でのヒエラルキーはそこまで高くないだろう。
…だが、そもそも思う、神は複数いる必要があるのだろうか?
「…落ち着け、私」
ふと、我に返る。
自分は今、もしかしてとても恐ろしい結論を出そうとしていたのではないか?
シャワーを止め、脱衣所に戻る、そこで体を拭き、髪の毛を乾かし…。
「…これも塗っておいた方がいいかな?」
道中で買った「化粧水」というもの。私と同世代やその上の世代の女性が買っていたので気になって買ったものだ。
「…うん、ためしに塗ってみよう」
その後はこちらも道中で買った部屋服を着る。
部屋に戻る、まどの外は夕暮れ時か。
明日も予定がある、かなり早く、ほとんど二度寝に近いが、晩御飯を食べて歯を磨いて寝てしまおう。
そんなわけで、屋台で買ったサンドイッチなるものを食べる。
「…おいしい」
おいしいし、食べやすいね、これはいい。
そのまま歯を磨き、ベッドに入る。
さっきまで寝ていたはずだったがベッドに入るとすぐに眠気が襲ってくる。
その眠気に抗わず、そのまま私は眠りに落ちた。
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