第8話 必然の邂逅、「核の世紀」の産声
…迷ったわね。
ウキウキ気分で駅を飛び出したはいいが、普通に迷ってしまった。
…仕方ないでしょう…帝都、広すぎるわ。
冒険者協会の本部を探していたのについたのはなんか大きな噴水のある広場。
…なんか疲れてきた。
丁度、ベンチがあったのでそこに腰掛ける。
はぁ…ここからどうしよ、取り敢えず通行人に道を聞くしかないかな。
..あれ、でもなんかここ、全く人がいないわね…なんでだろ?
そんなこんなでしばらく、ベンチでぼうっとしていた。
「…ふむ、君、僕が考えるに道に迷ったといったところかな?」
なんか、突然声を掛けられた。
顔を上げると、そこには男性が立っていた
白衣を着て、メガネをかけた30代ごろと思われる男性。
…む…あれは。
そこであることに気が付く。
男性の白衣に何やら式が書いてある。そこには。
「E=mc^2…」
「…ほう、君、この数式に目をつけるとは中々に筋がいい、ハハハ、まあ意味は分からないだろうけどね」
男性が笑う。しかし私はそれどころではない。
「…質量とエネルギーの等価関係の式」
笑っていた男性が…固まる。
「…君、今、何と…?」
男性が表情を消しながら問うてくる。
「質量とエネルギーの等価関係の関係を表す…cは光速を表す記号ですね」
男性は驚愕の表情で黙り込む、そして。
「…ちなみに、君はなぜ太陽が常に燃え続けているかわかるかい…?」
唐突になぜか太陽について聞いてくる男性。
「…核融合反応、太陽中心の超高圧下でD‐D反応、つまり重水素同士の核融合反応によって発生するエネルギーによって太陽は輝いています」
「…我らが太陽の終わりはどうなると思う?」
…まだ聞いてくるか、でもこれではっきりした。
太陽の終焉など、太陽信仰が盛んなこの世界の発想ではない。つまり…異世界からの…。
「核融合反応は結局は安定した核種への変化が目的です、この世界でもっとも安定した、言い換えると質量欠損が大きく、核子間の結合エネルギーが大きい、質量数60付近、鉄に行きつきます、そしてやがて星の中心は鉄によって構成されるようになる…そして…」
「…もう、いいよ、君が何を知っているのか十分にわかった」
そう言いながら私の横に座る男性。
「…君のその知識…どこから?」
「ユニークスキルを手に入れた時、に」
「なるほど…それなら納得だ」
「あなたは、どこからですか?」
「…秘密さ、まあいずれ教えることになりそうだけどね、それより…」
男性がこちらを向く。
「…この国は慢性的なエネルギー不足だ、特に最近使われ始めた電気…このままでは急増する需要に耐えきれなくなる、そこでだ…僕は考えた、地上に太陽を作れないかなと」
「…無理ですね、できたとしても数世紀先でしょう」
「…やはりそうか」
「でも、核分裂を利用することで電気を作ることは案外、今の帝国の技術水準で可能かもしれません」
「…!?やはり、そうか!…でもなぜそう思う?」
…それは、決まっている。
「私のユニークスキルです」
「…ユニースキルが、どうしたんだい?」
「スキル名は「原子力発電」、原子力、端的に言うと核分裂反応によって減速材兼冷却材の軽水を沸かしてタービンを回し、電磁誘導により電気を作るプラントの事です」
「…原子力発電、そんなスキルが…実は我々は核融合反応の情報はそこそこあるが、核分裂反応の情報はあまり持ってなくてね」
「…なるほど」
「…この世界でウランは」
「ああ、存在は確認されているよ」
「…ウランの同位体、ウラン235は2から3個の中性子を放出して自発核分裂します、その中性子の数を、ホウ素やカドニウムなどの中性子捕獲断面積の大きな物質を使って制御することで、安定的に連続して核分裂反応を引き起こせます、そのあとは先ほど説明した流れで電気を作ります」
「…予想される電気出力は」
「恐らく、一基で現在の帝国の需要を補って余りあるほど」
「…それは、素晴らしい、素晴らしい!」
男性は立ち上がり、万歳する。
しかし、ふと、すると私に聞いてくる。
「なあ、君」
「なんですか?」
「…もし、核分裂反応を制御せずに…そのまま連鎖反応を継続させたら…どうなるんだい」
…来た、来てしまった、この問いが。
「…連鎖反応を制御しなければ、反応は一気に加速します…ところで」
「…ん?なんだい?」
「この先…聞きたいですか?」
「…は?」
「…あなたは…歴史に「悪魔」としてその名を刻みたいですか?」
思い出されるのは、火災旋風によって焼き尽くされる人々、ボタン一つで世界が滅亡する「核抑止」という狂気。
「…それは」
男性は考え込む。そして。
「…僕も薄々気がついていたよ、E=mc^2という式、これから導き出されるのは膨大なジュール量」
「…」
「…そういうことなんだろ、つまり」
「…ええ」
原子爆弾、人類史上、最強の威力を誇る兵器。
私はベンチから立つ。
「…では」
「そういえば君の名前をきいていなかったな、ニア」
それを聞いて私は男性に向き直る。
「…さすが帝国、私の正体を掴んでいましたか、なら…あなたは偶然私に会いに来たわけではないと」
「…ああ、君が大剣聖の息子との決闘で使った未知の技、あれは中性子線…だろ?」
私は肩をすくめる。
「…まあそれはいい、…僕はベルク、帝国科学部の主席研究員さ」
「そうですか」
「君は帝国に滞在するんだろ」
「ええ、永住するつもりすら、あります」
「…ならいい、最後に一つ、聞いていいかい」
「何です?」
「…なぜ、この情報を僕に教えた?」
「…核の技術が危険なもの、帝国に掌握、厳重に管理してもらいたかったからです」
「…なるほどな」
私は男性、ベルクに背を向けて歩きだす。
「…君とは同僚として働けることを祈っているよ」
私の背にそう声をかけるベルク。
…同僚になるかはわからない、しかしまあ、これからきっと深く関わることとなるだろう。
…種はまいた…ここからこの世界はどのような命運を辿るかはわからない。
…しかし、きっと訪れるだろう…「核の時代」が。
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