第7話 鉄道と統一武闘大会

統一武闘大会。

帝国中の自分の強さに自信がある者たちが集まり、頂点を競う武闘大会。

4年に一度帝都で開催されるそれは、帝国の国力を考慮すると、世界最大の祭典と言っていいだろう。

まあ、私は知らなかったけどね。

「ぜひ!ニア様は出場すべきですわ」

「…そうですかね」

「そうだな、ニア殿ほどの腕があるならば、出るべきであろう」

そんな統一武闘大会に対面に座る貴族令嬢と騎士に出場を薦められている私。

それをてきとうにいなしながら窓の外の景色を見る。

外の景色は高速で移り変わる…そう高速で。

私たちが乗っているのは馬車ではない、覇権国家たる帝国の技術の結晶、鉄道だ。

蒸気機関と魔道具を動力源とする鉄道は、それはまあ馬車に乗るのが馬鹿らしくなるほど快適だ。

知識では知っていたけど、実際に乗ってみると、印象は全然違うね。

盗賊を殲滅した後、5日ほどかけて、最寄りの駅に到着した私たちはそのまま鉄道で帝都へ向かっているというわけだ。

…それにしても統一武闘大会ね。

案外地道に冒険者やるより統一武闘大会で活躍した方が人々を助けるという目標に近づくかもしれない。名声に勝る力なし、なんて言うしね。

よし…出てみようかな。

私が把握している限り、帝国にはユニークスキル持ちは二人、一人は皇子だから除外するとして、私が武闘大会で戦う可能性があるのは一人、噂の帝国最強の冒険者だ。

…まあ、でも私はまだ戦闘経験が圧倒的にない。ユニークスキルなしの相手に後れをとることもあり得るかな…。

「あ!ニア様!帝都が見えてきましたわ!」

と、考えていたらルイーゼが大声を上げ窓の外を指さす。

彼女の指さす先に広大な平原に突如出現する巨大な人工物。

それは巨大な城壁だろうか?高さは50メートルほど、だがそれよりも…。

「大きな…城?」

「ええ、あれが皇帝陛下と皇族の方々が住まう帝城です」

城壁の先に見えるのは巨大な城、その高さ優に200mに迫る。

また、その城に隠れがちだがその他にもちらほら城壁から頭を出す高層建築。

…それは、帝国の建築技術の水準の高さを示すとともに。

(帝国はその広い領土に対して、地震などの災害が少ない…か)

昔、本でそんな内容を読んだ記憶がある。

…思い出されるのは…ユニークスキルを手に入れた時に見た原子力プラントが巨大な波に襲われ、安全機能を喪失した光景

(…あの事故は帝国では起こりえないわね、きっと)

安定した陸塊にある帝国…それは…。

(まあ、今はさすがに気が早すぎる、かな)

進みかけていた思考を打ち消す。

…私は知っている、自分の力が人類にとって多大な利益と、滅亡をもたらす可能性を含んでいることを。

(原子力発電に…原子爆弾…か)








―シュ―。


列車が停止する。

「着きましたわ」

「ええ、そのようですね」

とうとう着いたアイアン帝国、帝都に。

「さ、ニア様、下りる準備を」

「わかりました」

私たちは席を立つと他の騎士と合流するとそのまま列車から降りる。

降り立った駅は、何両もの列車がとまり、天井がガラス張りになっている巨大な建造物。

…これだけ進んでいて、リアの見た世界に近い技術水準をもっているのに、未だ、主要兵器は剣と槍なんだよね…スキルの恩恵というのは銃器の発展を遅れさせたのであろうか。

…ユニークスキルを手に入れた時、「原子力」の知識の他にも様々な知識を私は手に入れた。

その中には、異世界の兵器の知識もある。

音速を越えた速度で飛行する戦闘機から、強固な装甲を持つ戦車。

…原子力の知識ほど詳しくではないけどね。

「…ニア殿、これが報酬です」

ルイーゼの騎士がお金を出す、護衛依頼の報酬だ。

「…ありがたく、受け取りますね」

路銀があるとは言え、お金は多い方がいいだろう。

「ニア様、ぜひ我が家の屋敷へ、おもてなしますわ!」

ルイーゼは層提案する。

「ルイーゼ様、ありがたい申し出ですが、私にはやることがありますからね」

まずは冒険者になって、統一武闘大会にエントリーして…やることは多い。

「それは、残念ですわね…でもニア様は統一武闘大会に出場するのでしょう?」

「ええ」

「あなたなら、上位間違いなしですわね、応援してますわ!」

「….ふむ、ニア殿、この数日は世話になった」

「こちらこそ…では」

私は駅の出口へと歩きだす。

「また、会いましょうね!」

ルイーゼがこちらに手を振りながら言う。

それに手を振り返しながら歩く。

さあ、初めての帝都。

私は恐らく、今、人生で最も興奮しているだろう。

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