第6話 帝国辺境での出会い
中央大陸の覇権国家であるアイアン帝国、豊富な資源、最先端の技術、圧倒的な軍事力、国家として持ちうるすべて持つといわれる超大国。
この国がなければ、勇者が現れる前に人類は滅びていただろう。
そんな国でも、どうやら辺境は辺境らしい。
スキルで飛ぶ私の眼下には雄大な自然と、大きな街道。
帝都の近くになると鉄道すらあるらしいが、ここは王国とそう変わりはない。
…そろそろ休憩しようかな。
そんな訳で、どこかよさげな場所を探していた私はあるものを見つける。
転倒した豪奢な馬車、その周りを囲む鎧を着た騎士。
そしてさらにそれを取り囲むのは、数十人はいるだろう。小汚い皮鎧を着て各々が様々な武器を持つ集団。
これは…どういう事態だろうか?
「おらぁ!さっさと降伏しろよ!」
盗賊団の頭と思われる大男が叫ぶ。
「多勢に無勢、か」
我々は栄えあるドーレ伯爵の騎士団。
帝都までご令嬢を護衛している最中だった。
「これだから辺境は…今の時代に盗賊など」
まさか盗賊団の襲撃を受けるとは。
ご令嬢、ルイーゼ様が訳あって向かった国境の都市からの帰り道であった。
「どうする、ギュンター」
「…死守するしかあるまい」
どうにか、ルイーゼ様だけは逃がせないか。
そう考えていた時。
―タンッ
後ろの馬車に何かが降り立つ音がした。
「!?」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはなぜか一人の少女が馬車の上に立っていた。
齢はルイーゼ様と同じくらいか、何処かの学院の制服を纏った、黒髪碧眼の見た目麗しい少女。
「…どういう状況で?」
謎の少女はそう問いかけてくる。
「…いやいや…そもそも君は誰だ!?」
突然現れた謎の少女、意味が解らない、もしかしたら化けた魔物かもしれない。
「私は…通りすがりの正義の味方です」
「…何を言っている?」
…訳が、分からん。
「…取り敢えず、ピンチなら助けますが…どうします?」
味方、なのか?…この状況を覆せると?
…色々と非常識すぎて、だんだんと馬鹿らしくなってきた。
「はっ、やれるものなら…」
ついそう呟いてしまう。すると
「じゃあ、やっちゃいますね…発電」
発電、彼女がそう呟くと。
なぜか、背筋に…突如震えが走った。
謎の少女の雰囲気が変わる、心なしかその碧眼がより碧く輝いているような気さえする。
「なにを」
「ニュークリアソウル」
そう謎の少女が唱える、彼女の掌の上に火球が生成される。
その火球は…ただの火球ではない…蠢く火球の表面から、膨大なエネルギーを感じる。
「なんだ…それは!」
「よし…ニュークリアビームスプリッター」
―ズバンッ!
火球から突如、複数の枝分かれした閃光が放たれる、まるで巨大な稲妻のような。
「くっ!」
慌てて伏せる。
「「「ぎゃあああああああ」」」
と同時に聞こえてくる、男たちの叫び声。
慌てて立ち上がり、周囲を見ると。
「おい、ギュンター」
「ああ、これは…」
盗賊たちが一人残らず、四肢を何かに貫かれ、這いつくばっていた。阿鼻叫喚の地獄だ。
「これで、一件落着、ですね…原子力発電の熱効率は3割ほど、つまり排熱のエネルギーのみでこんな芸当ができてしまうわけです」
…そうだ、この状況を創り出した張本人が後ろ…さらに何か意味不明なことを…言って言る
「君は…一体」
「私は、ニアという名のものです」
「…その力は?」
「…私のユニークスキルです、ね」
ユニークスキル…だと?
あの…四勇者と、帝国最強の冒険者と…
「…魔皇子が持つ伝説の…いや、あ、ありえん」
「別に信じなくてもいいです…て、え」
む、なんだどうした?て、あ。
…ニアと名乗る少女の足を細い腕がいつの間にか掴んでいた。
その腕の持ち主は
「ルイーゼ様…」
馬車の窓から身を乗り出したルイーゼ様だ。
「あなた、すごいわね!」
さっきまで盗賊に襲われたとは、思えないほど、上機嫌に言うルイーゼ様。
「…騎士様、どうすれば?」
「ルイーゼ様、取り敢えず彼女を放してください」
成り行きで盗賊を殲滅し、馬車を救った私。
どうやら馬車の主は帝国の貴族だったらしい。
「あなた、すごいわね」
「…それはさっき聞きましたね」
それで、今はその貴族の令嬢の相手をさせられていた。
さっき話していた騎士は他の騎士とともに、どうにか転倒した馬車を元に戻せないか奮闘している。
「あなた、私と同い年くらいでしょ…その年でどうしたらそこまで強くなれますの?」
「…ユニークスキルのおかげですね」
「まあ、ユニークスキル、あの魔皇子殿下が持っているというスキルですわね!」
魔皇子…私も話に聞いたことがある。
現在、一般に知られているユニークスキル持ちは勇者たちとその子孫、帝国最強の冒険者、そして魔皇子。
魔皇子というのは二つ名で、彼の本名はプライム・アイアン、帝国の第五王子だ。
なんで魔皇子なんて呼ばれているかというと…ズバリ、勇者たちに打倒された魔王アルケーと同じ、ユニークスキル「絶対者」を持っているから。
一部では魔王アルケーの転生体、なんて噂されていたりした。
「お嬢様と…ニア殿、だったか」
と、先ほど話していた騎士が戻ってきた。
「どうされましたの?」
「…馬車は放棄します。それで、ニア殿」
「なんです?」
「君の目的地はどこだ」
「帝都です」
「…ふむ、なら丁度いい…ニア殿、よかったら護衛に加わってくれないか、勿論、報酬は支払う」
「護衛…ですか?自分で言うのもあれですが、こんな怪しい私を?」
「…背に腹は代えられん、からな…お嬢様はどうですか?」
「ニア様の護衛ですか、たのもしいですわね!是非に」
…どうせ帝都に向かうのだ、まあ丁度いいかな。
「…うん、引き受けます」
「よし、決まりだな…ではお嬢様、俺は荷物の整理をしてまいります…次の町まで徒歩での移動ですのでご準備を」
「わかりましたわ」
騎士が再び馬車へと戻っていく、多分持ちだせる荷物を吟味するのだろう。
「…そういえばニア様、今の時期に帝都に向かわれるということは統一武闘大会に出場なさるのですか」
「…何です、それ」
統一武闘…大会?
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