第5話 未練はない、帝国へ

王国、とある場所にて。

「…いくら大勇者の娘とて、報告にある未知なる力…これを王都においておくわけにはいかぬな」

「では、陛下、どのような扱いに」

「暗黒騎士団に処分させるのも手だが…これが持つ強大な力も惜しい、ふむ、取り敢えず帝国との国境の町に幽閉しておこう」

「…追放、ということですな」

「…魔王軍や帝国が攻めてきた時に、敵をできるだけ消耗させ死んでくれるのが理想であるな…もともと無能な娘が国の役に立って名誉の戦死をしたとならば、大勇者も文句は言わないだろう」

「御意に、陛下」








ここは?

俺は目を覚ますとベッドに横になっていた。

俺は…さっきまで決闘していたはずだ、ニアと。

そこでボコボコにされて、最後には

―…死んじゃえ

明確な殺意を…向けられた。

そのあとは訳が分からず…。

「起きたか、バカ息子」

「!?…親父」

気が付くとベッドの脇にあった椅子に親父、大剣聖クルトが座っていた。

「ニアが治療法を言わなかったら、お前、多分死んでいたぞ?」

ニアが…治療法を…?

「そうだ、ニアは!?」

「帝国との国境都市への追放が決まった」

「つ、追放?な、なんで」

「お前のせいだよ、バカ息子!」

親父の拳が俺の顔面にめり込む。

「ガハッ」

「お前が、邪法だなんだと、騒いだから、それを真に受けた奴らが動いたんだよ」

「そ、そんな」

俺は、俺は、ただ。

「ニアを…」

無駄な努力をする彼女を見て居ても立っても居られなくなり、あの手この手で諦めさせようとした。だが結果は。

「お前のその気持ち悪い、上から目線の態度にニアは嫌気がさしていたんだと思うぜ?」

「…」

俺は、俺は

「ニ、ニアに合わせてくれ!親父!」

「駄目に決まっているだろ!」

「なぜ!?謝りたい!」

「お前にもうそんな資格ねぇよ」

「なっ」

間違えていたということか、今まで、このまま彼女を…失うのか?

「親父!俺!」

「もう寝てろ」

「ぐふッ」

首に手刀が叩き込まれ俺の意識は闇へと…沈んだ。







―ガラガラ


私の乗ったそこそこ豪奢な馬車が曇り空の下、進んでいく。

私はただぼんやりと外の様子を見ていた。

結局私はみんなに恐れられ、追放された。

能力を説明してもまるで理解されない、当たり前だ、この能力の根幹をなす技術は、明らかに数世紀未来の産物。

「はぁ」

これからどうするか、もう決まっている。国境の都市で大人しくしているわけがない。

私は…国を出る、隣国の帝国へ渡る。

そこで冒険者になって人々の助けになる。

私を拒絶したこの国に残る意味はないから。

「ついたら俺が鍛錬してやるよ、ほとぼりが冷めたら王都に戻って、お前はめでたく大勇者の後継者だ」

馬車の同乗者、クルトさんが話しかけてくる。

「…クルトさん、何故あなたが」

「お前の監視役だとよ、全く、陛下は…

クルトさんの言う未来も案外いいかもしれない…いや多分ないな、なんとなくだが、もう王都には戻れないような気がするから。

外を見る、曇天だ、それはそのまま私の心情を描写しているのかのよう。

馬車は…進む。











夜は宿がある村で一泊する。

明日には国境の都市に到着するだろう。

…そろそろ頃合いだろう。距離的にも丁度いい。

夜中、私はゆっくり宿を出て街道へ…

「よう、ニア、どこ行くんだ?」

「…クルトさん」

街道への入り口には、クルトさんが立っていた。

「ちょっと、散歩です」

「なわけねぇ、ニア、お前、国を出る気だろ?」

「…」

「お前を失うのはこの国にとって大きな損失だ」

…王都からこんな辺境に追放したくせに、よく言う。

「…どいてクルトさん」

「いや、どかねぇ」

これは、戦うしか…ないか。

そう思った瞬間。

「エルダーバインド」

「「!?」」

突如、上級魔法を唱える声、そして。

「ぐっ、くそ」

クルトさんが魔法のつたで体を拘束される。

「こんばんは」

そして木の陰から姿を現す少女、ミケだ。

「…ミケ、何の真似だ!」

「ニア、本当にこの国を出ていくの?」

騒ぐクルトさんを無視してミケが私に問いかけてくる。

「…ええ、そうよ」

「あなたがこの国から出ていくと、あなたの大切な人が命を落とすよ?」

「大切な人?」

…お母さまは故人。

…私を馬鹿にする元幼馴染。

…私を庇いながらも、諦めるように言う元幼馴染。

…私を放って国を出たお父様。

「そんな人…いないわよ?」

「…」

「…ニア、お前」

呆然とした様子のクルトさんには悪いけど、事実だし。

「そう、それがニアの選択なのね、いいわ、行くとい」

「ええ、何故かは知らないけど助けてくれたありがとう」

「おい、ニア!?」

騒ぐクルトさんに

「クルトさん」

「な、なんだ!」

「お世話になりました」

そのまま私はスキルを発動させ、地を蹴り宙に舞う、背中に翼を展開し、飛ぶ。

「ニアアア!」

クルトさんの叫びを無視して飛ぶ。

一瞬のうちに声が聞こえないほど離れる。

やはり飛ぶのはいい、馬車より快適で、一瞬だ。






翌朝、国境の都市についた私は手続きをして王国から出国し帝国へ入国する。王国と帝国の関係は、表面上は仲がいい、事になっているので手続きは簡単に済んだ。

…どうやらまだ私の脱走は伝わっていないようだった。よかった。

路銀は準備しておいた、しばらくは大丈夫だろう。

取り敢えず追手が来る前にさっさとこの都市を出よう。

目指すは帝都、冒険者本部のある、冒険者の聖地だ。

帝都の近くには私が異世界の映像でみた列車があるらしい。割と楽しみ。

都市から徒歩でしばらく行ったところから、私はスキルを発動し地面を蹴り空に舞う。

そのままいつもの手はずで翼で飛行する。

今更だけど、この翼、あの「原子爆弾」を投下した航空機の主翼にそっくりだ。

…なんか不吉だけど…まあいいや。

さて、帝都まで、どれくらいで着くかな?

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