第4話 中性子照射

決闘が始まった。


しかし、ダルクは動かない。


「ほら、来いよ?」


…どこまでも私をなめ腐ってるわね。


私はそのまま、スキルを発動せずダルクに切りかかる。


ダルクと私の剣が交差し…私の剣が弾き飛ばされる。


「トロすぎるんだよ」


これがユニークスキル持ちとの差だ、「剣聖」であるダルクに単純な剣の上ではかなわないのは当たり前だ。


「もう終わりか、なら」


「発電」


「あ?」


弾き飛ばされたのは今までの私、そして…


体が軽くなる、一瞬でダルクの懐に潜り込む。


「…え、消え」


今から叩き込む拳がこれからの私!




―グシャ




拳がダルクの腹に食い込み、人体からしてはいけない異音が鳴る。


「あ、がっ」


吹き飛ぶダルク、それに追いつき、今度はかかと蹴りを叩きこむ。




―グシャ




地面に激突するダルク、私は少し距離を取る。


もう…力の差は分かったでしょ?さっさと負けを認めなさい。








俺はラルフと並んで、バカ息子とニアの決闘を見ていた。


「ふむ、ダルクは余裕そうだな」


「…皮肉か?あの野郎、常に油断がするなと言っているのに」


そして


「では、始め!」


始まるとバカ息子は初撃を譲るとのたまい、ニアはバカ息子に切りかかる


「綺麗な太刀筋だな…だが」


「ふむ、剣聖にはとどかんな」


切り結ぶまもなく剣を弾き飛ばされるニア


「決まりか」


やはり、すべてを諦めるための決闘だったのだろうか。


そう思った時。


「発電」


ニアは…そう呟いた。


発電?確かニアが授かったていう所謂外れスキルの。


そう、思った瞬間、ニアが…消えた。


「…あっ?」


「…うむ?」


そうして、気が付いたらバカ息子は腹に拳を叩き込まれており…。


気が付いたらバカ息子は地面に臥せっていた。


いや、わかるぜ、ニアがバカ息子を殴り、そのまま蹴り落したのだ。


解らねぇのは、それ以外の全部だ。


「何が、起きた?」


「ニア嬢ちゃんが高速で?」


なんだ、どういうことだ!?


あのニアが、なんだ、あの身体能力は!?


「…まさかスキルが…進化した…のか?」


「進化?」


つまりは…そういうことか?


ニアは、覚醒した…のか。


なんだ、ユニークスキル「勇者」に進化したのか?コモンスキル「発電」が?馬鹿な…。


ニアはさらに追撃を加えると思ったら、少し距離を取りその場で静止した。これは…。


「勝負あり、ということだな」


「…ああ」


ニアはバカ息子に、負けを認めるよう促しているのだろう。


しばらく、すると蹲っていたバカ息子がプルプルと生まれたての小鹿のように立ち上がる。


「な、なあニア」


「…」


「お、お前、なにか、邪法に手を染めたんだろう…?」


…おいおい


「な、なぁそうなんだろ?…俺は許すよ…だ、だから」


あの、バカ息子、それは


「負けを認めろ…な?」


「…ダルク」


「な、なんだ、や」


「…死んじゃえ」


夜より黒い黒髪に碧眼の少女の碧眼がより碧く、青く、輝きを増す。


ああ、バカ息子、それは最悪の選択肢だよ…ニアにとって一番の地雷だろうに。












邪法?それが…今までいろんなことに耐えてき私への答え?


馬鹿にされ、侮蔑され、無駄と言われても努力をつ続けて至った、みんなと同じユニークスキル…それを邪法?


今まで溜まっていた私の鬱憤がすべてダルクへの殺意に変換される。


ダルクに向け。


「ニュートロンビーム」


本来原子炉の中で遮蔽されるべきそれを、「中性子線」をダルクに向けて放つ。


「0.1グレイ」


「え?」


「0.5グレイ」


被ばくによる一時的な白血球の減少。


「1グレイ」


吐き気、嘔吐、全身倦怠。


「あ?う、なんか気分が」


「3グレイ」


脱毛、皮膚の紅斑


ダルクが膝をつく。


「ま、待って、うぐぇ!」


そして嘔吐する。


「5グレイ」


放射性宿酔。


「10グレイ」


骨髄障害、および、骨髄…。


「待て、ニア嬢ちゃん!そこまでだ」


「ニア!」


突如、ラルフさんが私とダルクの間に割り込んできた、と同時にこちらに何かが物凄い速度で向かってくる。


即座に中性子放射を中断し、片腕で防御する。




―ガキンッ!




「…おいおい、冗談がキツイぜ…これを防ぐか」


クルトさんに振り下ろした剣の腹と私の腕が衝突し金属音が響く。


「…クルトさん、決闘中ですよ」


「ニア…周りを見てみろ」


周り?


そうして私はあたりを見回す、そこには


「なんだ…あれ」


「おいおい」


「ダルクが、突然吐いて倒れた…ど、毒か」


「あの距離で毒はないだろう…な、なにかの呪いとか?」


「僕、魔眼で見ていたけど毒も魔力の痕跡も一切なかったよ…」


「毒でもねぇ、魔力の反応がないなら、スキルでも、魔法でも、邪法でもない…じゃあ、あれは…な、なんだ?」


「わかない、わからないが…恐ろしい…」


「ねぇ、あのまま続いていたら、ダルクは」


「ああ、恐らく…」


…未知への恐怖。


こちらを見つめる観客たちの目は恐怖に揺れていた。誰もが未知への恐怖を私に感じていた。




―落ちこぼれが、突然未知なる強大な力を得たら周りは…どんな反応をすると思う?




ふいに昨日のミケの問いが浮かぶ。


答えは…未知への恐怖。


「エクストラヒール、おい、ダルト、返事を!」


「ラルフさん」


「な、なんだね」


私に声を掛けられて明らかに身構える。


「おそらく、エリクサーが必要かと」


あれなら、染色体や遺伝子が破壊されようが…治せる。


「…そうか、わかった」


ラフルさんはそのままダルクを担ぎ上げ何処かへ連れていく。


「…誠に遺憾ながら、乱入により、決闘は不成立とする!乱入者への処分も後日発表する」


審判が宣言する。


「…ニア、決闘は乱入者により中断ということになる」


「…ダルクの様子を見に行かなくていいんですか」


「エリクサーで治るんだろう、ならいい、それよりニア、とりあえず俺についてこい」


「…クルトさん、私」


「お前は別に法を犯したわけじゃねぇ…だが、お前のその能力、強力な身体強化に何かはわからねぇが…、魔力を使わず、わずかな時間で、エリクサーが必要なほど相手の身体を損壊する攻撃…危険すぎる」


「…」


中性子照射、おそらく、既存のあらゆる魔法障壁を貫通するだろう。


…頭に血が上っていたとはいえ、これを使用したのは早まったかな。


「なに、安心しろ、ここには居られなくなるのかもしれないが…罪人にはならねぇよ」


「…そうですか」


ここに居られなくなる、つまり、辺境への追放、ということだろうか。


強大で未知すぎる力を持つ私を王都に居させるにはリスクが高すぎる、だが、魔王軍の脅威が未だある中で、処分するのは惜しい、国のお偉いさんはおそらくそう考えて、ということだろう。


「…行くぞ」


「…はい」


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