第3話 証明の時

「…ふう」


黒き森から飛行して寮に帰ってきた。


幸い飛んでいる姿は誰にも見られていないはずだ。


…部屋についた瞬間、どっと疲れが襲ってきた。


やはりあのビックベアとの戦いは一方的だったとはいえ、精神をかなり消耗したようだ。


…さっとシャワーを浴びて寝よう。


そう思った瞬間。


「…ねぇ」


突然、何者かに声をかけられた。


「!?」


声のした方を見ると…そこには、小柄な少女がいた。


「ミケ…なぜ私の部屋に」


ミケ…彼女も勇者の子、大賢者の子でありユニークスキル「賢者」を持つ勇者の後継者。


「力を手に入れたんでしょ?ニア」


私の問いを無視して彼女は言う。


…なぜ私のスキルの事をしているのか?


この子は…昔からこうだった、ぼんやりしているようで…突然、核心をついたことを言ってくる。


「だったら…なに?」


「落ちこぼれが、突然未知なる強大な力を得たら周りは…どんな感情を持つと思う?」


「…」


唐突な問い。


それは明らかに今の私の状況、確かに原子力というものはこの世界においては未知のものだが…どんな感情?


「…さあ?」


「…そう、じゃ、じゃあね」


私の返答を聞いてすぐに部屋を出ていくミケ。


「…どんな感情」


わからない、わからないから。


「…明日、確かめるわ」


もっとスキルの訓練をしてからの予定だった。だがミケの言葉を聞いて、居ても立っても居られなくなった。












翌日、今日は講義はない。


私は鍛錬場でひたすら剣を振るう


「…おい見ろよ」


「ふん…親の七光りでここに入った落ちこぼれが今日も鍛錬ねぇ」


「いい加減、諦めてさっさとダルクの嫁になればいいのにな」


「全くだ」


「ふっ、我らがニア様がダルクごときの嫁などありえん」


「…うお…なんだ、今の奴」


「…例の彼女のファンクラブの奴だよ。ほら、彼女落ちこぼれだけど…美人だからね」


「はぁ、なるほどなぁ」


周囲から聞こえてくる侮蔑の声、その雑音を無視する。


ひたすら…待つ。


そして。


「よう、ニア、朝から無駄な努力、ご苦労なこった」


来た、ダルクが。


「いい加減諦めて…」


「ねぇ、ダルク」


「…え」


今まで無視し続けた私が話しかけてきたことに驚きを見せるダルク。


それを無視して私は言う。


「決闘…しない?」


「…決闘?」


ダルクが困惑したように言う。


「私が勝ったら、私を大勇者の後継者として認める、私が負けたら…私はあなたと婚約する」


それを聞いたダルクはしばらく考え込む…そして


「なるほどな…諦めるための、けじめ…というわけだな」


「…」


「いいだろう、受けて立つ」


「決まりね…今から二時間後、ここで」


「決闘の手続きは俺がしておく、なに未来の妻のためだ、これくらいやるさ」


「…じゃあ」


私はそのまま、鍛錬場を後にする。


さあ、私の力を…証明する時だ。








「はぁ」


なぜ俺がこんな雑用をしなければならないのか、俺は大剣聖クルトだぞ。


だが机に積まれた書類は増えるばかり


「クソッ…俺もフリッツみたいに奔放すればよかったぜ」


あの野郎、これを読んででていったのか…しかし普通、自分の娘を置いていくか?


そんなことを考えていたら、扉が突然開く。


「大変だ!クルト!」


「…あ?なんだラルフ」


大賢者ラフルの突然の登場だ。


「お前の倅と、ニア嬢ちゃんが、決闘すると!しかも嬢ちゃんが負けたら婚約すると!」


「ああ!なんだって!?」


あのバカ息子、とうとう無理やり婚約に持ち込もうとしているのか!


まずいな!フリッツの野郎が帰ってきてバカ息子を殺しかねねぇ。


「今すぐひったぱいて…」


「待て、クルト…どうやら決闘はニア嬢ちゃんが吹っ掛けたらしい」


「…なに?」


ニアが…一体どういうことだ?


「…もう終わりにしたい…そういうことなのではないか」


「…」


あの親譲りの頑固なニアが…諦めた、のか?


わからねぇ、わからねぇが…


「…見届けねぇとな、あいつの代わりに」


「ああ、いこう、学園の鍛錬場だ」


きっとニアはなにか覚悟を決めたのだろう、無責任に出奔したフリッツの代わりに見届ける。








私は今、鍛錬場でダルクと向かい合っている。


「準備はいいか?ニア…なに、ケガはさせないから、安心しろよ」


「静粛に!神聖な決闘の場であるぞ!」


「へいへい」


とうとうこの時が来た、今までの私に決着をつけるとき。


鍛錬場に設けられた閲覧席はまさかの満員だ、立ち見している人までいる。


…というかクルトさんとラルフさんまでいるのは、なんでなのよ。


まあいいや、むしろ丁度いいわね。


「両者準備はいいか?」


「…はい」


「ああ」


決闘の審判が言う。


私たちはそれぞれの武器を構え、準備を整える


「では、始め!」


決闘が、始まった。

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