第2話 異界の知識と新たな力

『進化成功…コモンスキル「発電」は―




ユニークスキル「原子力発電」に進化しました』




原子力…発電???


そう、私が疑問を持った瞬間、私の頭に情報が…異世界の人類のものと思われる知識が「映像」として流れこんできた。








場所は、砂漠だろうか、そこにポツンと鉄でできた塔があり、そこに何かを大きなものが吊り下げられている。


映像は切り替わる、それらを遠くから人がかたずをもって見守っている。


…なにか起きるのだろうか?そう思った瞬間。


太陽が…地上に太陽が出現する。


強烈な閃光、そして発生する巨大で恐ろしいキノコ型の雲。


遅れてくる強烈な爆音、振動。


これは、なに?


それは爆発であった、しかしその威力は…世界すら滅ぼしそうなもの、小さいころ、お父様から聞いた魔王の魔法よりはるかに…強大な。


「成功…したな」


「はは、これで俺たちはクソッたれだ」


そう呟く男たち。


マンハッタン計画、それはそう呼ばれていた。


映像は切り替わる。


巨大な鉄でできた竜のようなものが、何かを投下する。その下には都市があった。


しばらく後、先ほどと同じように巨大な爆発が起き、都市が一瞬で炎に包まれた。


巻き起こる炎の竜巻が生き残った人々を焼き尽くす。


映像は切り替わる。


それは巨大な建造物。


「臨界に達しました」


「送電開始」


その建造物から、私の世界では帝国で利用されているという「電気」が供給され、町に明かりがともる。


映像は切り替わる。


「試験は継続する」


「原子炉の蓋が跳ね上がっている!!」


前の映像に出てきたと思われる施設と似た機能を持つと思われる施設。


それが暴走し、最後には爆発した。


映像は切り替わる。


さきほどと同じような施設、そこに巨大な波が襲来し、施設を破壊する。


「何が起きた!」


「全電源喪失、SBOです!」


映像は切り替わる。


そこには故郷を追われる人々。


そして映像は終わる。


その直後、私の頭に今度は知識が流れ込んでくる。


核分裂、原子爆弾、原子力発電所、スリーマイル、チェルノブイリ、リクビダートル、1F事故、軽水炉、BWR、PWR…
















「…は!」


私は意識を覚醒させベッドから起き上がる。


「ぐっ…」


と、同時に強烈な頭痛に襲われる。


そうだ、スキルが進化してそれで…。


突如私の頭に流れ込んできた映像と情報。


しばらくそれを整理する。


異世界の知識は複雑でわけがわからない。


「…だめね」


理解しようと努力したが、あまりうまくいかない。


…しかし、一つ解ることがある。


「手順は…確か」


頭のなかでイメージする、あの巨大な機械、原子炉を


まず制御棒を引き抜き…。


臨界にいたる、そして発生した蒸気でタービンを回し、電磁誘導により「発電」を開始する。


「発電」


そう…いつもと同じようにスキルを発動した瞬間。


…体が…恐ろしいまでに軽くなった。




―バチッ




私の体が放電する、しかし痺れはない。


力が湧いてくる、気分が高揚する。


体が震えてくる、歓喜か恐怖か。


私はいてもたってもいられなくなり、窓を勢いよく開ける。


窓の外はすでに暗闇に包まれていた。


遠くの方に黒い森がかすかに見える。


通称「黒き森」、王都の比較的近くにありながら強力な魔物の出現する「禁域」


窓枠に足をかけ、そのまま外に飛び出す、体は弾丸のごとく加速し、私は宙を掛ける


ふと気が付くと私の背中に翼のような鉄の機械が生えていた。それは映像で見た竜、「航空機」の翼のようで、小さなプロペラが4つ付いている。


それに電気を送ると、プロペラは回転を初め私は安定して空を飛び始める。


「私…飛んでいるの?」


一握りの実力者にしか使えない飛行魔法、私はそれをスキルで実現していた。


…どうやら…私はスキルの進化に成功して…力を手に入れたようだ。












「…よいしょっと」


しばらく飛行して「黒き森」の少し開けた場所に着陸する。


あたりは暗く、恐ろしい雰囲気が漂う。


勢いで飛び出してきたが段々冷静になってくる。


進化した能力の効果に酔いしれて、ここまで来てしまった。


「…ちょっと早まったかな?」


…先ほどの自分は明らかに冷静ではなかった。


どうしよう、許可も得ずに勝手に飛び出してきてしまった、あの「黒き森」に。


…でも、今の自分にはそれほどまでの力があるような気がする。


それに…「黒き森」程度を恐れていては、いくら力があろうと勇者の後継者とは言えない。


今は自分の力を試したくて仕方がない…だからここに来た。


「ファイトよ、私」


気合を入れる。その時。




―ドン、ドン




大きな音がした…これは何かの足音?


そして、その大きな足音はどんどん大きくなり。


「グォオオ…」


姿を現したのは巨大な熊。


「ビックベア…」


ビックベア…人間の3倍はある体高、巨大な爪。


冒険者協会ではBランクに分類される、なかなかに強力な魔物だ。


ランクの区分がSからEまで、つまり上から3番目の危険度。


ユニークスキル「剣聖」を持つ今のダルクですら勝てるか怪しい魔物。


黒き森でも最強クラスの魔物。


それが私の前に現れた。


緊張が走る、初めてこんな強大な魔物に出会ったのだから。


今までの自分なら全く歯が立たず殺さされてしまうだろう。


しかし、今の私には異世界の知識とユニークスキルがある!


だから…恐怖に支配されてしまう前に。


「たああああああっ!」


携えていた直剣でビックベアに切りかかる。


「グォオオ!」


それを巨大な爪で向かい撃つビックベア。




―ドバンッ!




衝突した直剣と爪は…両方とも砕け散った。


「…へ?」


「グオオオオオッ!?」


疑問の声を上げる私と驚愕したような叫びを上げるビックベア。


…ど、どどどうしよう、武器が!


焦る私に向けて。


「グオオオオオ!」


爪を片方破壊され怒り狂ったビックベアがもう片方の爪で殴り掛かった来る。


「やばっ…!」


焦る私、しかし武器がない!


そしてビックベアの爪が私に直撃し…。


ビックベアの爪が再び砕け散った。


「…」


「グオオオオオッ!?」


再び驚愕の叫びを上げるビックベア、それに対して無傷な私。


…そうだ、異世界の知識によると原子炉は何層ものコンクリート?と鉄に覆われた多重防護が施されている、のだった。


…つまり、今、ビックベアは私の防御を破れず、一方私の攻撃が通用する…というわけね。


地面にある石ころを拾う。そして…




―シュッ!




ビックベアに向けて投擲する。


弾丸のごとき速度で飛翔した石ころはビックベアの頭部に直撃し、粉砕する。


巨体が音をたてて地面にひれ伏す。


それをしばらく…じっと見る。


段々と現実感が湧いてくる。



…そうだ。


…私は…とうとう念願の力を手に入れたんだ。


これで…これで…私は…大勇者の後継者になれる!

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