第14話 容疑者たち②

「町長の冴島昴さえじますばるとは会ったこと、あるか?」


 正語しょうごがきくと、秀一しゅういちは、えっ?という顔をした。微かに首をかしげて眉を寄せる。

 秀一が考え込む時の癖だが、実にあざとい。

 正語はこの仕草を見るたびについイラッとしてしまう。秀一の首を絞めたくなる。


「みずほの町長は、ひでじぃだよ」

「……去年の秋、この町の町長が変わったみたいだ」

「秀じぃ、辞めちゃったんだ」

一輝かずきさんは冴島が町長になることを反対していたみたいなんだが、何かきいてないか?」

「冴島さんのことは知らないけど、秀じぃに会ったら聞いてみるよ。秀じぃはオレの名付け親なんだ」


 正思のファイルには、みずほ町の町長、冴島の名前もあった。

 風俗店の経営で荒稼ぎした冴島は、未成年への売春斡旋で一度捕まっている。

 そんな男がなぜこんな田舎町の町長に収まっているのか?

 一輝は冴島の過去が理由で、町長選出馬に反対したのか?


 それにしても、正思はよく調べている。

 正思も元は警察官だ。一輝の死に何か不審なものを感じているのか……。


(まあ俺は、誰が神社にスマホを置いたか調べるだけだけどな)


 一輝の死因にはあまり触れたくない。

 県警が事故死と処理した案件を、蒸し返すような面倒は起こしたくなかった。


 民家が増えてきた。

 町の中心が近いのか、商店も建っている。


「おまえは、誰が一輝さんのスマホを神社に置いたんだと思う?」

「真理子さんだよ」


 どうせ大した答えは返ってこないだろうと思っていたのに、秀一はキッパリ即答してきた。


「……真理子って、一輝さんが不倫してた女か?」


 秀一は、真っ赤になってうなずき、そのまま下を向く。


「本人は否定しているみたいだが、何か知ってるのか?」

「真理子さん、恥ずかしくって、言えないんだよ——と、思う」

「何が、恥ずかしいんだ」

「——好きな人の物を、持っていたかっただけなのに、こんなに大騒ぎになったから」

「一輝さんのスマホを持っていたのが、その真理子だとして、なんで今頃になって神社に置いたんだ?」

「お父さんがスマホのカバーを欲しがったからだと思う」


 確かに、一度見つかった一輝のスマホはまた失くなった。

 だが今度はスマホの本体のみ。

 カバーは残されている。一輝の父親、智和が保管している。


「……カバーがそんなに大事か?」

「だって、はぴりゅうだよ! オレが福井県行った時、お土産で買ったんだ」


 秀一はにっこり笑った。

 可愛すぎて、殴りたくなる。


「だから正語も、捜査とか真剣にやっちゃダメだよ。真理子さんが、かわいそうだから、そっとしておいてあげて」


 なるほど。

 真相とは案外そんなものかもしれない。





 

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