第13話 容疑者たち①

 みずほバイパスの終点はトンネルだ。

 トンネルを抜けると、なだらかな丘陵に囲まれたみずほ町が広がった。

 空が広く見渡せ、水田が青々と美しい。


 たまには、こういう道を走るのも悪くない。

 運転席の正語しょうごは、外の景色に目を和ませた。


「クラスメートだった岡本涼音おかもとすずねを覚えているか?」


 助手席の秀一しゅういちに声をかける。

 秀一は靴を脱ぎ、シートの上で体育座りをしていた。


(まだ具合が悪いのか……)


 不安になりつつ、正語は続ける。

「その子の父親が、娘の学費をお前の兄ちゃんに借りてたらしい。二人の間に何かトラブルはなかったか?」


 秀一が顔を上げる。

 青灰色の瞳はどこを見ているのかわからず、何を考えているのか読みにくい。


「涼音のお父さんと兄さんは仲が良かったし、トラブルなんてなかったと思う」


 正語は口端だけで笑った。

 他人から見て仲が良い者同士でも、金銭が絡めば事件に発展する例は枚挙にいとまがない。


 正語の父親、正思しょうじは一輝の周辺を独自に調べていた。


『正語くん、容疑者の調査ファイル、渡しとくね!』


 ニコニコ顔で手渡されたのは出発直前、玄関先だった。


『僕も用事を済ませたらすぐ行くから、それまでに犯人逮捕よろしく!』


(何が逮捕だ! そんなに気になるならお前が行けよ!)


 明るく手を振る正思を一睨みして、正語は家を出た。


 サービスエリアで秀一に朝食をとらせている間に、正語は父親から渡されたファイルに目を通す。


(神社で首を吊った女の呪いだとかふざけたこと言ってたくせに、よく調べてるじゃないか……)


 ファイルには、一輝が生前抱えていたトラブルについて記されていた。


 筆頭は岡本幸雄おかもとさちお

 岡本の娘、涼音は県立高校に落ちて私立に進学した。

 その学費を一輝から借りていたという。


 さらに、岡本が一輝の遺体が見つかった日の朝、一輝を殴っているところを目撃されたという情報もあった。


(金を貸した相手に殴られるなんて、たまらないな)


 正語は二人の間に金銭トラブルがあった可能性を考えた。

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