第2話 秀一①

 秀一の父親がやって来たのは、期末テストが終わった最初の日曜日だった。


 その日、伯母の光子みつこは朝から浮かない顔をしていた。

 光子は秀一の母親の姉で、秀一が八歳のときに母親を亡くして以来、面倒を見てくれている。

 病弱で口数の少なかった母親とは対照的に、光子は朗らかで笑顔の絶えない人だ。


 そんな光子が考え込んでいる姿を見て、秀一も不安になった。


「……お父さん、兄さんのスマホのことで来るだけだよね?」


 そう尋ねると、光子は少し迷うように答えた。


「そうなの。地元の警察に届ける前に、私たちに相談したいみたい」


 警察という言葉に、秀一は驚いた。


「神社の賽銭箱の上に置かれていたらしいんだけど、液晶がめちゃくちゃに壊れているんですって。

 誰がそんなことをしたのか、調べたいみたいなのよ……。

 それに、一輝かずきさんが亡くなってから、そのスマホを持っていたのが誰だったのかも分からないそうよ……」


 父親は、人口二千人にも満たない過疎の町からほとんど出たことがない。

 普段は家政婦に身の回りの世話を任せ、家を離れることも少ない。

 そんな父親が電車とバスを乗り継ぎ、東京まで来るなんて滅多にないことだ。


 いったい何が起こったのか。


 光子の息子は警察庁に勤めており、夫も元警察官だ。

 父は彼らを頼りにするつもりなのだろう。


 光子の息子……。

 彼の顔が頭に浮かび、秀一は心の中でため息をついた。


 自分の家のゴタゴタに巻き込みたくなかった。

 どうせ面倒くさそうな顔で、眉間にしわを寄せるに違いない。


「部活を早退して、なるべく早く帰ってくるよ」と、秀一は光子に約束し、家を出た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る