第2話 リスポーン地点 その2

「着いたわよ」


 アイナが晃示を連れて行った場所は、それは立派な屋敷であった。

 それは小高い丘の上に造られており、周囲を低いながらも壁で囲まれている。壁から覗くのは、アメリカの高級住宅を思わせる大きさの屋敷だ。

 豪華な意匠をしているが、どこか寂れた……よく言えば年季のある家だった。


「大きいな……こんな大きな屋敷なのに他の人間の気配がしない……一人暮らしか?」


 門をくぐり抜け本当に必要か怪しい大きさの玄関をくぐる。たくさんのメイドでも出迎えてくれそうな広間を後にし、長い廊下を歩んでいく。

 内装もやはり豪華であるが、埃を被っており手入れされている形跡はない。敷かれている絨毯も色あせてしまっていて、その暗い色が家の雰囲気をさらに落している。


「そこでちょっと待っててね」


 目的地である部屋に辿り着くと、晃示は机の上にとんと置かれ、置いた本人は奥の部屋へと消えていく。

 その場所は一言で表すならば研究室。

 資料と見られる本が散在し、晃示には使い方がまったくわからない機械や道具も転がっている。壁には黒板らしき黒い板が埋まっており、数式や文字や資料とおぼしき紙が張り付いている。

 そのどれもがやはり埃をかぶっている。最近使われた形跡はない。


「おまたせ! これ付けて。たぶんうまくいくハズ」


 しばらく物をひっくり返すような音が聞こえたのち、アイナが帰って来た。その手には小さな物体が握られており、それを晃示に差し出した。


 その物体に、晃示は驚愕した。


「これは……! お、おしゃぶり……!?」


 赤ちゃんが咥えるための、乳首の形をした柔らかい育児用品。

 そう、それはおしゃぶり。どこからどう見てもおしゃぶり。どう言い繕うともおしゃぶり。


「はい、あーん」


「こ、こいつ……おしゃぶりを持ってきて、あまつさえ日本男児であるこの俺に、あーんだとぉ……」


「あ、あれ? 固まっちゃった……?」


 アイナは、なぜ晃示が体を震わせて固まっているか理解出来ずに首をかしげる。

 皆さんはどうだろうか。晃示は生まれたてのスライムだと言っても精神はいい歳こいた大人。所帯を持っていてもおかしくない年齢だ。

 そんな自分に初対面の女性におしゃぶりを口に運ばれたらなにを思うだろう……?


「赤ちゃんプレイだな! よしきた、任せろ! オギャらせたら俺の右に出るものはいないぞ!」


 喜ぶ人もいるだろうね。


「どう? スライムの思念を受け取って言語に変換できる機械なんだけど……言葉、話せる?」


 すんなりとおしゃぶりを咥えてくれてアイナはほっとした声をもらす。

 それに晃示はこう、答えた。


「ばぶー」


 ばぶー。


「え?」


「バブーーーーー!! オギャアアアアアアア!!!」


「なにこいつ!?」


「おっぱいが欲しいって言ってんだよ、ポロリしろよ」


「流暢にセクハラし始めた!?」


 流れるようなセクハラ。晃示はおしゃぶりを咥えたまま、赤子のように泣きじゃくる。

 ちなみに英語では「おしゃぶりを吐き出す」を「かんしゃくを起こす」という意味で使ったりする。


「あのさぁ……俺は生まれたてだよ? 赤ちゃんにおっぱい見せびらかすのは当たり前のことでしょ? 女性としてさ」


「あんたは授乳のことをショウミー・ザ・バストって言ってんの? 女の象徴はこれ見よがしに誇示するもんじゃないんだけど。あくまで栄養補給なんだけど」


「じゃーーー吸わせてくれよバブ! 赤ちゃんなんだからバブ!」


「なのそのとってつけたような語尾は。仮にあんたが赤ちゃんだとしても、それは幼児退行した変態でしょ」


 自分は赤ちゃんなんですと語尾で迫真のアピール。赤ちゃんと言えばバブーなのでとても効果的なのだ。

 が、アイナが晃示を見る目は冷たい。なぜバブ……


「なに? 君は俺と赤ちゃんプレイしたいんじゃないの? 俺の赤ちゃんプレイは厳しいよ? 俺赤ちゃんプレイガチ勢だからさ」


「いやそもそも赤ちゃんプレイってなんなのよ……」


 晃示はスライムの流体状の体を上手く変形させて矢印を作り、アイナに向ける。


「ママが」


 次に自分に。


「赤ちゃんを。あやして。オギャらせる」


「生粋の変態か? さもなくば脳の障害持ちか? 0歳児でオツムの成長が止まっちゃった系の人?」


「うわーお、初対面の人間に超辛辣ゥ!」


 そう言いつつも晃示はどこか嬉しそうである。


「私は赤ちゃんプレイとかそういうんじゃなくて、ただキミを話せるようにしてあげようと……!」


「じゃあなんでおしゃぶりなんだよ! こんなデザインしてたら誰だって勘違いしちゃうよ! ネクタイを贈るのが貴方に首ったけ♥️って意味があるように! 男におしゃぶり渡すのは貴方をあやしてあげたい♥️って意味なんだよ!」


「いや初耳だわ! そもそも男性におしゃぶりは贈らないし! どんなプレイよ!」


「赤ちゃんプレイだよ!!!」


「だからそうじゃないっつってんのに!!!」


 アイナ魂の叫び。悲鳴じみたツッコミが研究室に響き渡る。アイナは完全インドア派の研究者なので室内にこもりがちだ。いや、それは体力がないということではなく、大きな声を出すことは少ないということ。研究者は体力がないとやっていけない。

 つまり久々にツッコミの嵐を巻き起こしたアイナは喉を傷めた。変な嗚咽を繰り返しながら、喉の腫れに効く薬を服用しつつうがいを繰り返す。


「いや、すまん。すまんて。ちょっと興が乗っちゃってさ」


 そんな彼女の姿を見てさすがにやりすぎたと反省したのか、晃示は労るように肩を叩く。普段の凛とした彼女からは、想像もできない弱弱しい姿だ。知り合いが見たら嘆くだろう。


「真面目にやるから、元気だしてくれよ」


「信用できない……」


 涙声でアイナは言う。当然と言えば当然である。


「まああわよくば? 赤ちゃんプレイしてもらえるかも? なんて思っちゃった次第だけどさ」


「どうしてそこまで赤ちゃんプレイに強いこだわりと執着心を見せるのか理解出来ないんだけど」


「オトコはみんな、母親を求めているものさ……母性――ってやつをな」


「そんないい声で言われても。や、声帯は私が調整した音声で出せるようにしてあるんだけど」


 うんざりといった様子でアイナは肩を落とした。まるで徹夜明けの研究員のようにげっそりとしている。まんまなのであまり例えになっていないかもしれない。


「そうだな、自己紹介がまだだったから名乗っておこう。俺の名は郷間晃示。死んだと思ったら次の瞬間、スライムになっていた。君は確かアイナ、だったよな?」


 晃示は仕事帰りに黒塗りのトラックに追突されて死亡した。それは確かであり、その後、謎の声との会話を経てスライムへと転生を果たしていた。

 が、あえて謎の声のことは伏せた。話がややこしくなる可能性が高いからだ。


「え? 死んだの? キミ。ちゃんと名前があるってことは、もしかして人間だったってこと?」


「そうなるな」


「死んだら……スライムになる……? うーん……?」


 晃示がここにいる経緯を聞くと、アイナはうんうんと唸る。


「ここはどこの国だ? フランスか? それともイギリスか?」


「なにそれ? ここはマナ」


「……ここは地球か? この星の名前は?」


「アオだけど。うーんもしかしてキミ、違う世界から来た、とか?」


「どうやらそうらしいな……平行世界ってやつかな」


 そしてどうやら想像通り、ここは異世界ということになる。村の真ん中に放り出された際に魔法のようなもので攻撃されたり、スライムなどという未知の存在がいたりしている時点で、晃示の住んでいた地球とは違う世界なのはわかりきっていた。


「うわあ本当にあるんだそういうの! キミの生きていた世界の話、もっと聞いていい?」


 違う世界の住人だったと知ると、アイナは子供のように目を輝かせた。この世界にもパラレルワールドの概念はあるらしい。

 未知の体験に心が躍る気持ちはわかるが、晃示は制した。


「それより先にこの世界のことを教えてくれ。地球の話はあとでしてあげるからさ」


「あっそうね。まずはこの世界のこと知る方が先よね。えっと……どこからどう説明したらいいのか」


「歴史や成り立ちは今は必要ない。スライムがどういった存在なのか聞きたいな」


 まずそこだった。どういう世界かなのかは一旦後回しでいいと考えた。晃示とて異世界というファンタジーワードにときめかないわけではないが、今一番重要かつ気になるのはスライム……つまり自分自身のことだ。


 ファンタジー小説やゲームではしばしば敵モンスターとして描かれるスライム。村人の反応をみるに、その類だと推測できるが、あの本物の恐怖はそれ以上のものだ。

 だから真っ先にそれを知りたがった。アイナは頷く。


「オーケー。スライムは、簡単に言えば人類の天敵ね。長らく存在しないと思われた、神にも等しい絶対的な存在」


「そこまでか」


 神にも等しいという表現が使われた。この神が晃示の知る神と同じならば、スライムとは本当の意味で神なのだろう。この世界の住人にとっては。


 ならば晃示の姿に絶望を見せていた村人たちの反応も納得いく。

 部屋の中に恐竜どころ騒ぎではない。部屋の中にブラックホールでも出現したかのような恐怖だったのだろう。


「そう。スライムが現れたのは突然だったの。なんの兆候もなく突然出現した。今までそんな存在は一切観測されていなかったにも関わらず。

 そして現れてすぐスライムは人間を襲いだした。スライムは人間しか殺さないの。動物や虫、花や木々なんかには目もくれない。人間だけを狙い撃ちにして殺す機械みたいなものよ」


 しかもお約束のように人間しか害さないときた。地球に存在していたら一瞬でSCP扱いだろう。あれはジョークだが、こちらのスライムは冗談では済まない。


「何より厄介なのは、そう。やつらにはこっちの干渉が一切意味をなさないこと」


「なるほど、やっぱりそうか」


「こっちの武器も兵器も魔法もまったく効き目がない。傷一つ付けられないんだから、そりゃあこっちに勝ち目なんかないわ」


 おそらく魔法であろう、火の玉や水の刃で攻撃された際、痛みどころかほとんど感触すらしなかったのはそれが原因なのだ。

 なるほど確かに人類の英知のことごとくを無効化してくるモノなど、神と表現するしかない。もしくは、悪魔か。


「やつらはたった一匹で町一つを壊滅させることなんて訳はない……防御力だけじゃなくて攻撃力もずば抜けているの。私たちに勝ち目なんてない……そう思うくらいに」


「具体的にどんな感じか、聞いてもいいか?」


「スライムにもよるけど……一番弱いポーン・スライム……たぶんキミ。その単純な体当たりでこの村くらいなら吹っ飛ぶわ。絶対にしないでね」


「……了解」


 これは体動かすのも注意した方がいいな……と晃示は考えた。下手に力を籠めようものならアイナの屋敷も簡単に吹っ飛びそうだ。


「話し合いなんて当然できなかったから……私たちは200年間、ただスライムたちの攻勢に耐え続けたの。圧倒的に戦力差があるのに生き残れたのは……そう、あいつらこっちをいたぶるみたいに少しずつ蹂躙を繰り返してきたからなの……どうせこっちはまともな反撃なんかできないって高を括って!」


 アイナは苦虫を嚙み潰したような表情で歯噛みする。この村も一見平和そうに見えたが、スライムの脅威に晒されているのは間違いないのだろう。


 そんな彼女だったが、一転明るい表情で晃示に詰め寄った。


「でもここに希望が現れた! キミよ! 同じスライムであるならばきっと他のスライムとも互角に戦える! お願い! 世界の平和のために……私たちのために戦って!」


 人間の作り出した武器は効かない。魔法も無意味、となると、スライムにはスライムをぶつけるのが最善……という理屈は晃示も理解できる。普通はそう考えるだろう。

 今まで話し合いにもならなかった……というかスライムは普通会話できない。晃示だってアイナのおしゃぶりがないと意思疎通はとれないのだ。


 明確に会話ができるスライムは晃示が初らしい。だから晃示に頼るのもまた、理解ができる。


 だが。


「……俺一人でなんとかなるもんかね? スライムがどれほどの数いるかは知らないが」


「私たちも全力であなたを援護する! それにこの戦いはスライムの女王を倒せば終わるの」


「! 女王だと……!?」


 晃示は驚愕で声がうわずった。女王……つまりスライムの大将。


「そう。すべての元凶。スライムを操り人を殺し、それをなんとも思っていない最低最悪の魔王……スライムの女王。クィーンとも言われているわ。誰も会ったことはないから本当に女なのかはわかってはいないけど」


「ならなぜ女王だと?」


「敵方がそう呼んでいるのよ」


「スライムは話せないのでは?」


「……話せるスライムもいるのよ。四天王――その名もデア・プレシディオ。とその女王。彼女たちは」


 女王に引き続き四天王の存在。よくある昔のRPGゲームの敵陣のような配置だと晃示は思った。


「でも女王を倒しさえすれば、すべては終わる。勝てるのよ! 人類は!」


 アイナはさらに晃示に詰め寄り語気を強めた。


「それに聖剣使いもじきに招集されるし」


「聖剣?」


「そうよ。この世界には伝説の創世に使われた剣というものがあるの。神話より伝わる古の聖剣。それは使用者を選ぶ。だから使える人間を世界中から探すのよ。スライムに唯一効く最強の武器なの、聖剣は」


 なるほど200年も一応は生き残れたのは、聖剣とそれを扱う勇者のおかげのようだ。


「聖剣は一本しかないから勇者一人しかいなかった……正直今までは決定打にはならなかった……だけど、キミという人類の味方になってくれるスライムと、勇者。この二つが揃えばクィーン打倒も夢じゃないわ!」


 興奮した様子でガッツポーズを作るアイナ。その聖剣一本でスライムと戦えてきたのならば、確かに勝てる見込みも出てくるかもしれない。

 しかしよくもまあ聖剣一本だけで200年もスライムと戦えたものだ。よほど聖剣の力が凄まじいのか、それともアイナの言う通り、スライムに遊ばれているだけなのか。


 晃示は少し思案する。晃示は考えるとき、親指で下唇を抑えて歯で噛むのが癖だった。人の身体ならば間違いなくそうしていた。


 もちろん一度死んだこの身が他の人の役に立つのならば、戦うのもやぶさかではない。だが、単純に彼女らだけに肩入れするのもどうかと、今の晃示は考えていた。

 確かにアイナたちはいわゆる人という生命体なのだろう。異世界においても変わらない。だが今の晃示はスライムだ。


 人には辿るべき運命というものがある。晃示がこの異世界アオに転生し、そこで人間ではなくスライムになったのにはなにか訳があると考えたのだ。

 それはスライムとしてではなく、人の心を持ったスライムとして、スライムと戦うためなのか、はたまた別の理由なのか……


「やはり一度女王とやらに会って、確かめてみたいところだな」


「え?」


「そのクィーンがいる場所は把握できているのか?」


 アイナは一瞬なにを言われたのかわからなかったらしく、ポカーンと口を開けて固まっていたが、


「いえ、奴らの本拠地はどこにあるのかいまだにわかっていないけど……それより……今、なんて言ったの? 会う? クィーンに?」


「物事の一面だけ見て判断はよくないとおじさんは思うワケよ。もしかしたら、君らとんでもない極悪人で、スライムはそれを浄化しようとしている地球意志とかだったり……」


 そこまで言って晃示は口をつぐんだ。アイナが憤怒の表情を浮かべていたからだ。


「……冗談が過ぎた。悪かったよ。だが俺は大人として、そして異世界の人間として、片方の情報だけを鵜呑みにはしたくない。君に恩はあるが、また別の話だ。

 それとも君は逆の立場だったら、姿が生前の自分と同じというだけで、そいつの言うことを全部間に受けるのか? そりゃ、ずいぶんと人がいいね」


 アイナは押し黙る。当然協力してくれるものだと思っていたからだ。そして晃示の豹変に困惑していたからだ。

 おしゃぶりの一件で、少し変態性はあるが普通の人間だと判断していた。普通の人間なら、追い詰められていると聞かれた同族を放ってはおかないだろう。

 仮に戦いが嫌だと拒否するようなことがあっても、まさかクィーンと話がしたい、などとあり得ないことを言い出すとは思わなかったからだ。


「君らはスライムがどれほど恐ろしい存在か身をもって知っているはずだ。なら俺の言いたいこともわかるだろう。力は、ただ力でしかない。それを扱う者の心によって善にも悪にもなる。その力が強大であればあるほど、運用は慎重でなくてはな。俺にはその責任ってヤツがある」


 晃示の思い描く力とは銃や核のことだった。使い方を誤ればいくらでも人を殺せる凶器にしかならないが、使い方次第で人を救える神器になる。

 この場合はそもそも何を尊重するか。そこから悩んでいるので難しい問題である。


「ひとつ気になるのは、勇者の存在だな。なぜ聖剣はスライムに攻撃が通るんだ?」


「それは……」


 アイナは口ごもる。


「解明できてはいないの。原子構造が未知のものだし……そもそも本当に原子でできてるのかすらよくわからないの。振動スペクトルの解析ができなかったから一度、加速機を使って電子をブチ当ててみる実験をしたんだけど、反応しなかったし

……あり得ないでしょ? そんなことあるの? って。スライムも同じようなものだって研究結果もあって、それも興味深いんだけど、私には聖剣とスライムに類似性は見られないから違うと思うの。液体のようにしなやかに変化するスライムと、ほぼ固体のような状態を見せる聖剣とじゃあ……ねぇ? 当然化学薬品も高温、低温、真空下における化学反応の変化もなくて……強力な地属性魔法でのコーティングの可能性も当然考えたわよ! でもそもそも赤外、紫外光を使ったスペクトル分析においても電磁波の観測すらできなかった点で明らかにおかしいし――」


「あー、いい、すまん。科学の話は全くわからんからやめてくれ……」


 アイナの専門用語を羅列した早口を、晃示は慌てて止めた。それこそ一瞬で眠くなる魔法の呪文だ。


「簡単に、結論だけ頼む」


 そう言われたアイナは少し考えたあと、


「形を持ったエネルギーみたいなもので、それもとてつもない熱量だから、それでスライムに有効になっているらしい……ってことだけね、わかっているのは」


 そうまとめた。


「しかもなぜか使い手を選ぶ……か。ふむ」


「私も出所は知らないわ。この世界の神話にそれらしい聖剣の記述があるから、それではないか……くらいしかわかってないの」


「そうか。200年聖剣に守られてきた君らがそう言うなら、そうなんだろうな」


 晃示は頷いた。納得はできなかったが、理解はできた。


 アイナが不安そうな眼差しを向けてくる。晃示が次にどう切り出すか、なにをしたいと言い出すか不安なのだろう。


「わかった。その勇者について確認したい。もういるのか?」


 クィーンへの接触が難しいとなると、次の手がかりは勇者だ。というより聖剣か。晃示は聖剣がどのようなものなのか、すこぶる気になっていた。


「いえ、今回はやつらの攻撃が早かったから……そのうち発表されるとは思うけど……」


「ならそれまで待たせてもらおうかな。君らに協力するのも、その勇者を見て判断する」


「コージ……!」


 アイナの声が弾む。


「変な期待はしないでくれよ? 軽々しく人間を見捨てたくないという気持ちはあるが、それも事情次第だ。俺の世界の価値観が、こっちの世界の価値観と一致してるとは思ってない。だからといって、こっちの世界の価値観をないがしろにはしたくない。なにが言いたいかというと……あー……」


 晃示は目を泳がせる。スライムに目があるかどうかは、ご想像にお任せしよう。少なくとも晃示は目のような器官でモノを見てはいる。


「情報が足りない。もっといろいろ欲しい。だから勇者が決まるまで、いろいろ教えてくれ」

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