第38話 決着!AFC

前半終了間際、金は得意のエラシコでボールを撫でるように転がして、フィクソのラファエロを抜き去りシュートまで持って行った。これは惜しくもバーに阻まれたが、跳ね返って来たボールを再び金が押し込んで得点とした。


 あまりの鮮やかさに両チームの選手たちは驚嘆したものであったが、当の金は最初のシュートを外してしまったことに対して納得が行っていなかったようだ。そして、アザールのラボーナエラシコと比較して、自分の技にどこまで磨きがかかっているかを競いたがっているようでもあった。白熱の展開に両チームのベンチがソワソワしだした頃、猿渡監督が昴に声を掛けてきた。


「室井、後半出すからアップしとけ」

「ウス、ありがとうございます!!」

ここからは正に総力戦といった感じで、使えるプレーヤーは全て使うといった方針であった。予想外の出場ではあったが、自分を認めてくれていると思うと嬉しかった。


後半が開始されても、イラン代表の快進撃は衰えることを知らず、正に破竹の勢いであった。体力的にキツいにも関わらずポニョのウルエリを投入してフィールダーのポジションを埋めるだけで、控えの選手との交代はそれしかなかった。


全員が20分の試合に全力で挑めるほどにタフであり、それぞれの鮮やかに煌めくスパイクが、狂おしいほどに魅力的であった。カラーのスパイクを履いている人はだいたい上手いと言われるが、イラン代表の選手たちも御多分に漏れずそのようで、アザールが赤、ガブロッタが緑、ラファエロが青、ミカエラが黄、ウルエリが桃色、ルーシェルが紫のスパイクを履いており、監督のメタトラもこれが気に入っていた。


昴、綴、綻、嵐山、馳川という布陣で開始された後半であるが、イラン代表は味方の方へボールを受け取りに行く『アタカール・エル・バロン』を積極的に行うことで流動的なオフェンスが作れていた。隙ができた所、ウルエリの放った緩いシュートを馳川が器用に片手でキャッチし、防ぎきることができた。


 次に日本代表のオフェンスに切り替わると、イラン代表はルーシェル、アザール、ガブロッタが透かさず距離を詰めると、ボールホルダーの嵐山は一気に不利な状況に追い込まれた。だが嵐山は冷静に俯瞰し、危なげなくボールをキープして見せた。


“やっぱ一流のディフェンスはプレッシャーにも強いんだな。あれだけオフェンスに詰め寄られても落ち着いてキープできるだなんて”

昴がそんなことを考えていると、嵐山がここぞとばかりにフェイクを見せつける。嵐山のこの『ステップオーバー』は足を大股に振り抜き、シュートをすると見せかけることによって相手を惑わせる技である。


 このフェイクによってアラの二人を抜き去った嵐山は、数的有利の状況を活かして昴へとパスを通した。最前線でパスを受けた昴は、絶好のチャンスを得たわけだが、国際試合特有の精神的なプレッシャーからか、シュートが浮き球になってしまった。


 シュートは惜しくもバーの上を通過し、守勢に転じた日本代表は一気に攻め込んで来るイラン代表に対してチェックが追い付いていなかった。そこでラファエロが出したフィードに対して、ガブロッタがスルーパスのような形でノータッチで受け流したものを即座に近寄ったアザールが受けた。アザールはこれを豪快なシュートに変え、当然の如く得点に変えてしまった。昴は俄かに自信をなくしかけていたのだが、林がそれに気づき励ましの声を掛けてくれた。


「ドンマイ、今のは仕方ない」

「すません、イージーミスでした」

「気にすんな。取り返しゃいい」

「はい、気合い入れて行きます!!」


 そこから共に1点ずつを加えて4対5として迎えた後半10分、嵐山と交代で出場した港が、ルーシェルのスライディングに足を取られてかなり派手に転んでしまった。これに日本代表の選手たちは猛烈に抗議する。審判に見られている中で、笑顔で指を指し合いながら怒る様は、真剣なのだがどこか滑稽でもあった。


日本代表はここで獲得したPKを無駄にせず、金がきっちりと決め、5対5の同点とした。だが試合終了2分前、アザールが一瞬の隙を突いてラボーナエラシコを繰り出して昴を躱し、フォローに入った袴田、嵐山ともども抜き去って5対6とした。


パフォーマンスとして、人差し指をゴールに向かって振っている様は、日本代表にとっては悪魔のようであった。結局はそこから得点を覆すことができず、相当に健闘したと言える状況ではあったが、日本代表は惜しくも敗れてしまった。


試合後に昴は、そのあまりのショックに茫然と立ち尽くしてしまった。

その『姿』を見たアザールは、何を思ったのか昴に近づいて来た。

「ハブ ファン!」


楽しめよ。去り際に彼は、たった一言そう言った。その言葉とは裏腹に、昴は頬を冷たく濡らしていた。“1点も取れなかった。チームも自分も、まだまだ全然ダメなんだ”そう考えると、落胆の色を隠すことはできなかった。

強さだけではダメだった。人は弱いものだった。折れた心は、そう簡単に元には戻らないものだった。募る焦りと悔しさだけが、じりじりと心を蝕んで行くのであった。


この大会の結果、ゴールデンボールが日本代表の金、シルバーボールがイラン代表のアザール、ブロンズボールが韓国代表のチュルチュル、ゴールデンブーツがウズベキスタン代表ゴレイロのウルマス、得点王が21点でタイ代表のモンクットとなった。


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