第15話 ロマーリオの真実
試合は前半は得点に動きがなく、平行線を辿る一方であった。
「あーあ、ロマーリオが居いればなー」
「誰?ロマーリオって」美奈は耳慣れない人物に興味津々だ。
「めちゃくちゃ上手いフォワードの人だよ。ロマーリオのお陰で本戦に出られたようなもんなのに、あんなスターが出てないなんて勿体ないよなー」
「へ~、なんでロマーリオは試合に出てないの?」
「チームメイトと仲が悪くなっちゃったみたいでさ。特に監督のスコラーリと」
「ふ~ん。けど、それじゃ仕方ないんじゃない?チームなんだし」
「そうとも言い切れないよ。パスが来るのは点を取ろうとしてる選手だけ。仲良しこよしで勝てるチームなんてないんだ。海外クラブでは点が取れない選手はパスが来なくなって居づらくなって移籍するなんてことはよくある。コミュニケーションなんて取れて当たり前なんだけど勝つ為にやってんだから意見が違って当然だと思うんだ」
「う~ん、スターも大変なんだね」
80年準決勝ブラジル戦でハットトリックの活躍を見せた元イタリア代表のパオロ・ロッシ、86年メキシコ大会準決勝イングランド戦で神の手から僅か4分後に5人抜きまでやってのけた元アルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ、06年にキャプテン翼の日向小次郎が放つ雷獣シュートを練習していて右足を骨折して出場が危ぶまれたものの、その後の活躍でチームを優勝に導いたフランチェスコ・トッティなどWCには、常にスター選手の活躍があった。
そしてその陰で、93年にFIFA最優秀選手のバロンドールを受賞したロベルト・バッジョ、94年ワールドカップで活躍しMVPを獲得したロマーリオ、海外リーグで日本人初のMVPを獲得した中村俊輔氏など代表から漏れ涙を飲んだ選手も多い。
後半が始まった頃、瑞希が少々自信なさげに料理を運んできて皆の側に座った。
それを見て、不思議に感じた友助が気を遣って話し掛ける。
「どうしたんですか瑞希さん?なんかあんま喋んないですけど」
「えっ!?ああ、大丈夫、集中して見たてだけだから」
「瑞希、熱中する方だもんね」
「う、うん。そうだね」
試合は均衡を保ち、このまま延長に突入かと思われた後半22分、遂に試合に動きがあった。ブラジルのミッドフィルダー、リバウドの無回転ミドルシュートを、ドイツのキーパーであるカーンが防ぐも、ボールをキャッチしきれずに取り溢し、これを見逃さなかったロナウドがゴールに押し込み先制となった。
「「うおー!!!!」」
「すげえ、見たか?見たよな、今の!!」
「見ました!!やっぱ凄いや、ロナウド」
大きく叫び猛り狂う男子二人を尻目に、女子二人は至って冷静であった。
「入ったね」
「うん、決まったね」
温度差が凄いことになっていたのだが、こういう時の男は周りが見えていないことが多く、完全に頭に血が上っていた。そして後半34分、クレベルソンのパスを、ゴール正面で受けたロナウドが2点目として叩き込み、更に得点を加えた。
「「ロナウドーー!!」」
男子二人は熱くなり過ぎて、そのまま倒れるのではないかというほどの熱狂ぶりであった。そうこうしているうちに時間が経過し、試合も終盤へと差し掛かった。
「ああ、もうロスタイムかー。ずっと見てたいな~」
この頃はまだアディショナルタイムをロスタイムと言っていたり、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定なども行われておらず、FIFAランキングも強い国が不当に下位に位置していたりと、何かと過渡期であった。
暫くして試合が終わり、皆はそれぞれ感想を言い合った。
「いや~良かったですね~やっぱロナウドがエースですよ」
「ロナウジーニョも上手かったよ。やっぱ一番はロナウジーニョだな」
「ねえ、なんでロナウジーニョが一番うまいのにエースじゃないの?」
「上手いだけじゃダメなんだよ。チームを勝たせるヤツがスターなんだ。エースってのはそういうもんだろ?」
「ふ~ん。そうなんだぁ」
「彼はまだ若いですからね。将来はきっとチームを背負う存在になりますよ」
「いいなあ、カッコイイなあブラジル。最高だよ」
「瑞希ちゃんはどうだった?」
「え、あ、うん。面白かったよ」
その後、各賞が発表となり、MVPも発表された。
「ヤシン賞はカーンか~まあMVPだから当然だなー」
「ねえ、ヤシン賞って何?」
「ああ、1963年にFIFA最優秀選手賞のバロンドールをゴールキーパーで唯一受賞したソ連のレフ・ヤシンって人に因んで名付けられたんだ。GKのMVPだね」
「ふ~ん。なんで2位なのにMVP取れてるの?負けたんじゃないの?」
「MVPのアディダスゴールデンボールは、96年までは1位のチームから選ばれてたんだけど、前回のロナウドだとか、今年のカーンとか2位のチームから選ばれることも多くなってるみたいなんだ。たぶん、負けた方にも輝いてる選手が居たことを忘れないようにするためなんだと思う」
「みんなが輝けるのがいい所ですよね。サッカーって」友助は小さく頷いた。
そして談義に花が咲く中、テレビでこれまでの大会の結果について振り返っていた。
「いやーそれにしても残念でしたねー、日本代表のプレーはー」
「急にボールが来たからって、ボールは急に来るものですからねー」
「あーうぜー」コメンテーターの暴言に昴は思わず顔を顰める。
「どうしたの?」美奈は少し心配そうに聞いた。
「外野はさ、口では何とでも言えるよ。けど、お前同じ所に立って同じパフォーマンスできんのかよって思うワケじゃん。そこに立つまでだって、全国大会やプロやアンダー世代の中で勝ちまくって、A代表まで上がったんだよな。体調や心調が悪い時だって、あるわけだよな。腹立つんだよな。こういうの」
「それすっごい分かる。居るよね、口だけの人」
「だろ?無責任なんだよな。こういう発言」
「自分もだよね」
「えっ!?」
「何でもない」
瑞希のこの発言から少しだけ気まずい空気が流れた。ここで嫌な空気を変えようと、昴が今日の本題を話し出す。
「あと、みんなに重大発表がありま~す」
「えっ、何なに~?」昴の発言に美奈は興味津々だ。
「なんと次節のスコアラーズ戦から友助くんがバランサーズに加入しちゃいまーす」
「おお~そうなの?凄いじゃん!!」これには瑞希も素直に驚いたようだ。
「そう。だから今日はその前祝いってことで」
「あの~僕、今日はやっぱり帰ります」
「え、なんで?遠慮することないよ」
「僕、実は若干人見知りなとこがあって、初対面の人多いから緊張しちゃって――」
「それなら私も帰ろっかな。実は、明日朝ちょっと早いんだよね」
「そ、そう。みんな帰っちゃうの?」
「今日はもういいんじゃない?みんなまた会えるんだし」
結局は瑞希の鶴の一声で、その場はお開きとなった。それから車で二人を駅まで送ってから昴と瑞希は車内で話をした。
「勝手に友達呼ばないでよ」
「いいじゃんかよ、ちょっとくらい」
「私の都合はどうなるの?あれ作ってこれ作ってって。私は家政婦じゃありません」
「これから同棲するんだし、夫婦みたいなもんだろ?」
「そんなの無責任すぎるよ!!まだ結婚してないんだし、それならちゃんと責任取ってよね!!」
「うっ――ごめん」
それから瑞希は同棲ブルーになってしまった。将来を考えると不安になり、9月が近づくにつれて憂鬱な気分になるのであった。
「まだ結婚したわけでもないのに何考えてんだろ。大丈夫なのかな、こんなんで」
仕方がないこととはいえ、人生にはその時々での悩みがあるものであった。
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