第35話 もう一つの準決勝

準決勝2試合目であるイラン代表VSタイ代表の試合を見るため、日本代表は試合後もスタジアムに残っていた。タイ代表はアップの際にガムを噛みながらリラックスして調整を行っており、大きな目と尖った鼻は相手を威圧するような鋭さがある。


マネージャーたちは綺麗に日に焼けて健康的で、東南アジア特有の美しさがあった。日本代表の選手たちは敵情視察とばかりに目を光らせる。夕方19時とあり、辺りは暗くなり始めていたが、タイ代表は暗い中でもよく目が見えているようであった。


両チーム入念に熟したアップが終わり、5分経って試合開始。

試合はタイ代表ボールで始まり、アラの10番と11番の選手が、着実にボールを回していた。林、焔、港は一人の選手が気になったようだ。


「あの6番、オフボールの時の動きがいいな。ディフェンスを上手く引き付けてる」

「ボール持ってない時にでも、オフェンスはできるもんだからね」

「いい選手ってのは、どうしても目立ってしまうもんなんだよな」


「高円宮杯の時の港みたいだな。ああいう選手は安定していて頼りになる存在だよ」

「港はホントにサッカー小僧だったもんな。学校から家までボールを蹴って帰って、塀の外から家の庭にあるゴールに蹴り込んでたくらいだからね」


「ここに居る奴らはそれくらいのことはやってるだろ。代表になるくらいなんだ」

「焔はひたすらシュート撃ってたよね」

「そう言えばボール蹴る力強いから、すぐに空気が抜けて大変だったんだよな?」

「そうそう。パンク修理材はよく使ったな」


「新しいの買わないの?どうせ壊れるんだから、次のに行っちゃえばいいじゃん」

「まあ、物を大切にするタイプだからね。そういうのはプレーにも現れると思うし」

「ふ~ん。そんなもんなのかな」


 懐古話というのは知らない人間にとっては入りにくいもので、昴はこういう時には蚊帳の外と言った感じで少しの疎外感があり“監督ってなんでちょっと太ってる人が多いいんだろう“などと考えていた。

 6番の選手は『ウンディル』と呼ばれる敵陣奥でボールを受けるプレーでチャンスを演出しており、その場で4回ほど足踏みした。そこから一気にボールを蹴り込んで決めに掛かったシュートは、ゴレイロの股下を通過し得点となった。


また、タイ代表は堅守のチームであるようで、ボールをすぐに押し返そうとしたり、危なくなるとラインを割るようにクリアするのであった。『フラッシュ』と呼ばれる、瞬時に詰め寄るプレーも得意で、これによってイラン代表はスペースを広く取らざるを得なくなっていた。これには袴田、綴、綻も感心したようだ。


「いいディフェンスするな。これはかなり崩しにくいぞ」

「危機察知能力が高いですよね。危ない場面を意図的に避けることができてます」

「個々の理解度の高さがチームの共通理解を高めてる感じですね。これは手ごわいな」


対するイラン代表は猛攻のチームであるようで、カウンターを喰らいそうな危うい場面でも構わず攻め込んで行くことを選択するようであった。ディフェンスでもそのアグレッシブさは発揮されており、タイ代表はその執拗なプレスを発達した肩甲骨を盾にして押し返していた。


タイ代表は、イラン代表の執拗なプレスにも耐え忍んでいたのだが、前半17分、ついにフィクソの位置から陣形が崩れ、フィクソの2番からピヴォの9番へのパスが通り、ヘディングで押し込まれてしまった。金と昴は感心している。


「相当にイケイケなチームだな。1点取られたら2点取り返せばいいみたいな」

「それになんだか生き生きしてますよね。みんな伸び伸びプレーしてるっていうか」

 タイの11番が切り返しから出したセンタリングを、ディフェンダーが中途半端にカットしてしまい、それをピヴォの選手が押し込む形となった。だが、イラン代表のゴレイロが辛うじて止め、それをクリアした選手とハイタッチを交わす。


そのラインを割ったものを5番の選手がライナーのパスで通すと、ピヴォの9番がそれを強引に押し込んでしまった。タイ代表ゴレイロは落胆の色を隠しきれない。

 ここで馳川は思うところがあったのか、気になる質問を躾にぶつけてみる。


「躾さんはどっちと当たるのが嫌ですか?」

「俺か?う~ん。どっちもかな」

「なんすかソレ。男らしく決めて下さいよ」

「おう言うね~」

「当然でしょ。結果が出てから答えを決めても遅いんですよ」

 そしてこの2対1の状況のまま、ハーフタイムを挟んで後半へと移行した。



 後半に入ると、タイは基本的に守備的な陣形であり『オーバーラップ』と呼ばれる戦術を得意とし、ディフェンスが前の選手を追い越してオフェンスに加わることで、チャンスを演出していた。その直後、タイ代表6番がイラン代表4番の行く手を遮り、タイ代表11番がフリーでボールを受けてシュートを放つ。これが綺麗に決まり得点は2対2となる。昴、金、硯は先程のタイ代表6番が気になったようだ。


「あの6番いい仕事してますね。準決だからって足痛めてでも出てますし」

「多分アイツがエースなんだろうな。怪我で力が発揮できないのは悔しいわな」

「本来どんな選手だか気になりますね。万全の時に対戦してみたいなーー」

「本調子の時に試合することもあるんじゃないか?世界って広いようで狭いからな」

「うほっ、いいシュート!!」


 6番の選手はこの試合までに19点もの得点を上げていたが、準々決勝の中国戦で酷使しすぎたことで足にトラブルを抱え、左ひざにサポーターを付けて出場しており、果敢に挑んではいるのだが、度々こけてしまっては係員がモップで拭いたりしていた。


イラン代表は、振り出しに戻ったことで危機感を覚えたタイ代表9番の焦りを読み、ファウルを誘ってPKを獲得した。これを2番の選手が蹴って、アラの5番に当て、それをさらにピヴォの9番へ当てるという高等技術で回し、見事に得点とした。



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