第43話 二人の想い

一息ついた後、秋奈は何だか痺れを切らしたように話し始める。

「ねえ、泊って行かない?」

「えっ!?」少し遊びに来たつもりの明にとって、この発言は完全に予想外であった。


「いや、あの、その、マジで?」歴戦の勝者も、女性の前ではたじたじである。

「別に嫌ならいいんだけど」秋奈は口を尖らせて拗ねたように言った。

「嫌ってことはねえよ。けど、あまりにもいきなりだったもんで――」

 はっきりした態度の秋奈に対し、明の態度はどこか煮え切らないものであった。


「どうすんの?男ばっか倒してても、つまんないんじゃない?」

「それもそうだな。よし、分かった。俺も男だ、腹括るぜ」

 明はやっと決心がついたのか、自らを奮い立たせるように、大きな声で返答する。

「そう――じゃあ。これで決まりね」秋奈は落ち着いた感じでそう言い放った。


「では、さっそく」明はそう言って秋奈の肩に手を掛ける。

「待って、せっつかないでよ。お風呂に入って来るんだから。テレビでも見といて」

 秋奈は本気で少し怒りそうになりながら、明の背中を押して画面の前に座らせた。


 20分ほど待つと、フワっと良い香りをさせながら秋奈が風呂から出て来た。

“長い風呂だったな”そう言いたかったが、これを言ってはいけないことくらいは、勘の鈍い明にでも分かった。


「ちょっと借りるぞ」昭和の男は無骨で、愛想がない。

 そう言われても仕方がないと思えるような言い方であった。湯船に浸かって心を落ち着かせようとするが、平常心など保てる訳がない。期待と不安が半々。


 『こういう時』は誰でも、そんな思いなのであろう。明が風呂から上がると秋奈はバスタオルを巻いて、ベットに腰かけて待っていた。隣に座って髪を撫で、少し息を吐き出した後、軽くキスをした。頭の中を真っ白にさせながら、ゆっくりとバスタオルを取ってみる。


「おわっ、びっくりした。何だよ、その色」

 明は驚いて、だいぶ上ずった声を出す。


「え~。だって勝負下着は赤って聞いたんだもん」

 秋奈は膨れて小さな子供のように答えた。

「そういうもんなのか?それって誰に聞いたんだよ?」

 明は勢いづいて話し始める。


「タバコ屋のお姉さんに――」

 それに対して秋奈は自信なさげに最低限の返答だけする。

「タバコ屋のって、あのじゃりン子のチエミさんだろ?」


明はどことなく不満げに話す。

「でもあの人、花の女子大生だよ。凄くない?オシャレに関してはウチらじゃ逆立ちしたって勝てっこないよ」秋奈はここぞとばかりに反論する。


「まあいいや。今からは、ふざけないようにちゃんとするよ」

 明は急に改まって、紳士的に振る舞う。

「うん。優しくね」秋奈は乙女な感じで、一言だけ念を押すように言った。

「ああ、イタリアの種馬ばりにキメてやるぜ」明は自信満々に答えた。


「もう~何それ~。どこからそんな自信が湧いて来るんだか」

 秋奈は軽く揶揄うような、嬉しそうな調子で言った。

 それから、その夜は二人にとって『忘れられない夜』になった。


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