第35話 カンムリワシの猛攻
「叔父さん、明くんが――」
試合前、控室に入るなり、秋奈は今にも泣き出しそうになりながら、話しかけて来た。
五十嵐は只事ではない雰囲気を感じ取り、急いで明の方に歩み寄る。
「どうした?明?」明は雪山で凍えるように震えている。
「五十嵐さん、俺、試合するのが怖くなった」
五十嵐はなるべく不安を拭い去れるように慎重に言葉を選びながら話す。
「敗戦のイメージが頭から離れないんだろう。落ち着いて、ゆっくりと呼吸を整えるんだ」それでもまだ震えは収まらない。
ロビンソンとの試合での『トラウマ』が、亡霊のように明を苦しめているのであろう。
「大丈夫、明くんなら古波蔵さんにだって勝てるよ。今までいっぱい練習して来たでしょ」そう言うと秋奈は子猫を抱くように明を抱き締めた。
暫くすると不思議と震えは収まり、明は呼吸を整えることができた。
「もう大丈夫みたいだ。ありがとよ、秋奈」
明は一つ溜め息をつくと、感謝の意を伝えた。
「五十嵐さん、俺、今からこんなんで大丈夫かな?あの古波蔵さんとやりあうってのに試合前にこんな状態で――」
「案ずるな、恐怖を知るということは強くなった証。その火のような存在は上手く使い熟せれば強い味方になってくれるものなのさ」
五十嵐は本当に頼もしい存在だ。明はつくづくそう思い知らされた。
その後、しばらく三人で雑談していると、ノックの音が3回聞こえ、大和(やまと)会長と古波蔵が控室に入って来た。
「五十嵐くん、僕は――」
古波蔵は思いつめたように、今にも涙を見せそうな雰囲気である。
「古波蔵。俺はボクサーだ。これまでいつ死んでも良いと思ってリングに立ち続けて来た。フェアプレーに対して、俺に文句を言わせる気か?」
五十嵐は珍しくムキになって、そう言い放った。
「五十嵐くん――ありがとう。これで心置きなく闘えるよ」
古波蔵は心底安堵したといった表情を見せると明に向かって一つ頷くと控室を出て行った。そして10分後、場内アナウンスを受け、明たちは颯爽とリングへと向かった。
「いいな、この試合はお前が世界チャンピオンになれるかどうかの試金石となる。落とすんじゃないぞ」
「分かってるよ、任せといてくれ」
「強くなった赤居 明を見せてやれ」
恐怖を乗り越えた明の表情には影は全く見られず、無言で頷くその顔には自信に満ちた笑みがあった。
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