第5話 プロテスト
それから一ヶ月後の9月30日。明はライセンスを取得するため、ジムの会長、米原と東京都文京区後楽(こうらく)にある後楽園ホールへと足を運んでいた。午前8時、珍しく時間通りに会場についた明は米原から開口一番こう言われた。
「昨日はよく眠れたか?」
「あぁ、よく眠れたよ。あと40時間は起きていられそうだ」
「嘘を吐け。その目の下の隈は何だ。昨日は2時か3時まで寝られなかっただろう」
「うるせぇ! 今日はせっかくの試合なんだ。景気良くブチかましてやるぜ」
語彙の少ない明は『図星』という言葉をまだ知らなかったが、この状況をそのように捉えていた。明はそう言うと、方向も分からないのに歩き出してしまった。
『プロテスト』は10問程度の問題がある『筆記試験』と2分30秒×2ラウンドで行われる『実技試験』に分かれる。だが、実際は筆記はそれほど難易度は高くなく、ほとんど実技試験の結果で決まると言っても過言ではない。落ち着いて筆記試験を済ませ、実技試験に移る。
「俺の使っていないシューズをやろう。昔、買ったもので少し型は古いが、新古品ってやつだ」
五十嵐にそう言われて貰ったシューズの裏に『マツヤニ』を付けて滑らなくする。
「今回対戦する、相模(さがみ) 腕(かいな)です、よろしく」
話し掛けて来たのは身長180cm程はあろうかというわりと大きめの男であった。
「赤居 明だ。よろしくな。っていうか、なんでマゲ結ってんだ?」
相模は侍のようにチョンマゲを結って参加していた。
「僕は、思うように体重が増加しなくて、本当は相撲取りになりたかったんだけど、ボクサーとして頑張ることにしたんだ。これは武士としてのプライドだね」
“こんな奴に負けたくねぇな“明は密かにそう思った。
「そうか。まぁお互い頑張ろうぜ」
「ああ、頑張ろうぜ!」
急に馴れ馴れしくなった相模に対して明は少し驚いたようだ。
「バッティングとローブローに気を付けて、お互いに正々堂々と闘うように」
審判にそう言われてタラバガニのように足を開いている相手と向き合って構えた。
『バッティング』とは勢い余って互いの額がぶつかってしまうことであり、『ローブロー』とはトランクスのベルト部分よりも下への攻撃を意味する。
赤居だから赤色がいい。そう言って買ってもらったトランクスの位置を気にしながら、試合開始のゴングを聞く。
その試合の最初のパンチを『オープニンングブロー』と言うが、プロテストはほんの10秒でノックアウトしてしまった。晴れてC級ボクサーとなった明は、それからトレーニングを積み、10月15日から行われる新人戦に参加することとなった。
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