第3話 雷鳴軒

15分後、明は少々不満だったが、国道6号線を五十嵐と一緒に歩いていた。ラーメン屋は思ったよりも近くにあった。


“ここは行ったことないな”地元にずっと住んでいた明が、知ってはいたものの立ち寄らなかったラーメン屋。大きく『雷鳴軒』と書かれた大きな看板を掲げたその店は、とにかく豚骨の臭いが強く、店の前を通っただけで癖のある味だというのは容易に想像できた。


「おい!てめぇ。ここは臭いがキツいことで有名だろうが。俺はこんなもん食わねえぞ」

明が帰ろうとすると、五十嵐は意外なことを言われたといった表情で立ち止まる。

「俺はここのラーメンが大好きなんだ。俺の弟子になると言うのなら、このラーメンを食べられるようになってもらわないと困る」


五十嵐にそう言われても、明は全く食べる気がしない。五十嵐はそれを察したのか、明にこう提案した。

「チャーシュー5枚に煮卵も付けてやる。大サービスだぞ、どうだ?」

明は納得行かないといった態度だが、渋々五十嵐に着いて行った。もちろん五十嵐はそんなことはお構いなしだ。


「へい、らっしゃい」

大将が元気よく声を掛けると、五十嵐はチャーシューメン大盛り2つ、煮卵も追加と言いカウンターに座った。


「お前をここに連れて来たのは、1つお前に聞きたいことがあったからなんだ」

「っていうか、てめぇ名前くらい聞かねぇのかよ。俺も喧嘩馬鹿だが、てめぇもボクシングのことしか頭にねぇんじゃねぇのか?」


「お前に礼儀のことを言われるとはな。すまなかった。俺は五十嵐 敬造だ。お前の名は?」

「赤居 明だ。1966年9月30日生まれの16歳。身長168cm、血液型はO型」


 明の勝ち誇った表情を見て、少し可愛げのあるやつだと思いながらも五十嵐は話を続ける。

「そこまで詳しく言われるとはな。案外礼儀のある奴かもしれん。まぁいい。ここで本題だがお前欲しいものはあるか?」


「欲しいもの?」明は不思議そうに五十嵐が言った言葉を繰り返す。

「ねぇよ。俺は欲しいものは力ずくで手に入れて来た。それはこれからも変わらねぇ」


予想していたとはいえ、明の答えを聞くと五十嵐は少しばかり虚しさを感じずにはいられなかった。


「では、今のお前に手に入れたくても手に入れらないものを教えてやる。ボクシングで世界チャンピオンになると何が貰えるか知っているか?」

「知らねぇよそんなもん。メロンでもくれるってのか?」


「まぁ知らないのも無理はない。お前くらいの年頃の奴は、女のことしか頭にないもんだからな。教えてやるよ。ボクシングの世界では、チャンピオンになった者だけが腰にチャンピオンベルトを巻くことができるんだ。今日からそれが、お前の一番欲しいものになる」


五十嵐にそう言われても、明は一向に興味を示そうとしない。

「そんなの目指して何になるんだ?最強?伝説?勝手にやってくれ。そんなかったりぃことに付き合ってられるか」


五十嵐はこの時を待ち詫びていたかのようにこう切り出した。

「この俺が世界チャンピオンだとしてもか?」


明は啜っていたラーメンを思い切り咽た後、五十嵐の方を見る。

五十嵐は今まで見せた以上に不敵な笑みを見せている。


「てめぇフカシこいてんじゃねぇぞ。確かにてめぇの強さは本物だが、こんなところに世界チャンピオンが居るかよ」

「嘘だと思うならあれを見てみろ」


五十嵐に言われて振り向くと、店内にあったテレビからニュースが流れて来た。

「続いてのニュースです。28日に行われた、世界バンタム級タイトルマッチ、チャンピオンである五十嵐(いがらし) 敬造(けいぞう)と挑戦者である古波蔵(こばぐら) 政彦(まさひこ)との試合は、15ラウンド、チャンピオンの必殺技『スマッシュ』が炸裂し、見事、勝利を収めました。途中『テンプル』蟀谷(こめかみ)への打撃で勝ちを危ぶまれましたが、見事な逆転勝利と言えます」


 映像付きで決定的な証拠を突き付けられ、完全に反論の余地がない。

「マジかよ――」それだけ言うと明は固まってしまった。

「目標がないとやり難いだろう。まずはライセンスの取得、それから、10月に行われる新人戦に出場するぞ。それに向けてトレーニングするように」


「するようにって、トレーニングはちゃんとてめぇが見てくれるんだろうな?」

「俺も自分のトレーニングで忙しいんだ。たまには稽古をつけてやるが、お前にぴったりの指導役を用意しよう」


そう言うと五十嵐は、またしても不敵に笑って見せた。明は少し不審に思いながらも「よろしく頼む」とだけ言い家路に就いた。


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