#07 絡みつく腕 柔き衝撃

 《前回までのあらすじ》

 そんな即戦力の人材はいないと思う。


 「どうしてくれんだお前ら!余計なことしやがって!」

 「ふっふっふ……これも作戦の内」

 絶対何も考えてないくせに……。

 「とにかく!俺は帰るぞ!」

 「ちょっと!組織はどうすんのよ!」

 ……仕方がない。

 ここはひとつ自分で動かないといけなさそうだ。

 「わかった、組織には入ってやる」

 「やったーーーー!」

 リーダーがきららみたいに飛んだ。

 後ろの三人も踊り狂っているように見える。

 「じゃあLINEに招待するわね」

 そうしてグループLINEに招待されることになった。

 なんか出迎えのスタンプがポンポン送られはじめた。

 「連絡はそこでするわね」

 「あぁわかったよ!」

 そういって例の部屋を飛び出す。

 

 しかし俺は村外の家なんて知りやしなかった。


 「だからまだ出会って三日なんだよ……」

 そう俺は誰かに問いかけるように呟くほかなかった。

 

 「兄さん、どうしたんですそんなお疲れで。三日ぶりですねそういうの」

 家に帰って横になっていると、咲子がいつも通りに訪ねてきた。

 相変わらず無表情。

 「三日ごとにこんな目に遭うのかよ」

 「大変ですね兄さん。どうしましょうか今日はあっさりした感じで」

 「いや」

 「はへ」

 「割と今大事に巻き込まれてんだ。なにかスタミナの付くもの食べないとまずい」

 「そうですか……ならにしますか」

 「あれ?」

 咲子はどこからか豚ロース肉を取り出した。

 「それは!!」

 「兄さんがそんな逼迫してるように話すのって初めてですから、こうするしか答えられないような気がするんですよ」

 そういってパン粉も取り出した。

 もうみなさんおわかりだと思う。

 

 とんかつである。


 俺は実のところ牛肉よりも豚肉が好きであり、気合いを入れるとなっても焼き肉よりもとんかつとなる人間である。

 そして俺が一番何が好きか、と言われるととんかつになる。

 結局のところ人間は大体肉と脂が好きなのだ。

 別に自分で揚げてもいいのだが、俺がするよりも咲子が揚げた方が肉が完全な状態で仕上がるのだ。自分の時はどうも揚げすぎなのか咲子のよりもぱさついてる気がする。

 咲子によって揚げられたのがやがて俺の元にやってくる。

 丁寧に等分されており、千切りキャベツとミニトマトまで添えられている。

 ソースがちゃんと脇に置かれているのもいい。最初からかけているのは愚行も愚行なのだ。

 自分のものよりも上であることの先入観なのかもしれないが、黄金に輝いているようにも見える。

 「見とれてる場合じゃないですよ兄さん、速く食べないと」

 「あ、ああ」

 口にするとまず小気味良い感触が身体全体に伝わり、その後まず赤身の部分の繊維の弾力とそこから染み出す旨みがやってきて、最後に脂身が全身に満足感を与えていく。

 たった一切れ食べただけで、ここまで幸福感を与えてくれる食べ物を、俺は他に知らない。

 後はただ、それを貪るほかなかった。

 「兄さん、がっつきすぎですよ……そんなに求められたら、私……」

 「何でそうなる」


 そして時間は無慈悲に流れていく。

 翌日咲子にお粥を作ってもらい、身体もしっかり整えた上で望む。

 それくらい神経を使うことは予想される。

 そして何事もないかのように登校し、俺はただ放課後を待つ。 

 やがてそのときは待たずともしてやってくる。


 屋上に上がると、誰もそこにはいなかった。

 しかし俺はそこにいなければならなかった。

 

 俺はかつて彼女がそうしていたように、屋上の柵に腕を乗せてただ空を眺めていた。

 別に風が出ているわけでもなかったので、俺がどうなろうが空はこのまんまなんだろうなとか思っていたら。


 背中から抱きつかれた。

 

 大体もうにおいでわかる。

 逆に言えばもう既にそれくらいの関係ではあるということであるということである。

 

 「まさか来てくれるとはな」

 「……」

 「どうした」

 「ただ、聞きに来たんだ。お前があいつらに付いたのか、それがやっぱり、その、信じられなくて」

 声は震えていた。おまけに背中もとても熱い。振り返るのはこの場合してはいけないことなのだろう。

 申し訳ない。

 「付くフリだよ」


 「そっ、かぁぁぁ〜」


 そういうと彼女は俺から離れて、脱力したように膝からへたれ込んだ。

 

 「お前が本気とは、どうしても信じられなかったんだよ」 

 「そりゃそうだ、何であんな連中に付かなきゃいけないんだ」

 「だよなー……」

 「まぁグループには入ったけどね」

 

 「……は?」


 一瞬彼女の顔から生気が消失した。


 「あいつらの同行を知るにはそれが一番いい。お前が他の能力者になるべく会いたくないだろうしな」

 「全部、わかってたんだ」

 「まぁ話してたらわかるさ」

 「ははは……」

 そうどこか悲しげに笑う。

 なんでだろうか。

 「……なんで、だろうな、私、お前のこと、全然信用できてなかった」

 「そりゃ四日の仲ならそうだろうよ」

 「でも、お前を、あんな奴らと同じにしてしまった、私が、私が……」

 韮沢さん、思った以上に少女の心に傷を残している。

 問題は彼に罪悪感なんてものがないことだ。

 「別に良いさ。そんな俺が信頼に値する人間かと言われたらそんなことはないよ。俺もあいつらも同じ、能力自体は深く考えてないんだ」

 「…………怖く、なかったんだ」

 「あいつらは喜んでそうだけど、俺の場合めんどくさいことになったって感じだからな。別に出てこようが出てこまいがって話」

 「そう、なんだ……」

 「でもお前と知り合えて悪いとは思わないよ」

 「えっ」

 「お前のおかげで能力の制御ができた。安眠できんのはお前がいてくれたおかげだ」

 「でも、それ私のわがまま……」

 「そんなことないさ。俺が、いいって、言ってるんだ」

 「……」

 うつむき始めた。

 地雷を踏んだか?

 

 すると、途端に抱きつかれた。

 やはり彼女の胸の部分に違和感を感じる。

 そんな場合ではないが。


 「…………守ってくれ」

 「何からさ」

 「……不安」

 「俺ごときにできることなら何でもするよ」

 「……ふふふ……あはは……」

 

 彼女が顔を上げた。

 目元が少し潤んでいるが、それ以外は綺麗な笑顔だ。普段通りに、ギザギザの歯をむき出しにして笑っている。

 自分がいるだけで幸せな人がいるなら、その人のそばにいるべきなんだろう。

 人間とはそういうものだ。


 「私らしくねーよな、こんなの」

 しばらく経ってそう言うと、彼女は俺から申し訳なさそうに離れた。

 そろそろ平常運転に戻るべきだろう。

 そうだ。

 ずっとある疑問を聞いてみよう。

 「なぁ、村外」

 「何だよ、長南」


 「お前の胸、何かあるだろ」


 「へぇっ!!」

 そうすると彼女は途端に焦り始めた。顔が赤くなり、汗が滝のように流れる。

 「何かあるんだな」

 「そ、そんなこと、ないよ……」

 俺は彼女の肩をつかんだ。

 「何も隠すな!お前の全てを俺は知っておかないといけないんだよ!」

 「お、長南……」

 

 「わ、わかったよ……」

 しばらく悩んだ後、彼女は胸の方に手をやった。

 

 彼女は制服の内に片手を差し入れ、胸の部分の何かをまさぐり始めた。

 もう片方の手で胸を押さえている。それだけ肉体が変化してしまっているのだろうか。

 そして中から包帯のようなものが出てきた。だんだんと地面にそれは山を作っていく。かなりきついサラシだったようだ。


 そしてやがて、完全に包帯は出尽くし。


 彼女の胸から手が離される。


 すると、その瞬間。


 どたぷん、という効果音をはらむように……。


 巨大な果実が、そこにはあった。


 「……へ?」

 「……Iカップあるんだ。普通に生活するには面倒だから、こうやって……あんまり目立ちたくも、ないし」

 彼女はさっきよりももじもじしている。

 それと同時に、その双丘も大きく弾む。

 「……お前だから、見せたんだぞ」

 何かすごい恥ずかしそうな目で睨まれた。

 「何かごめんね」

 申し訳ない。

 謝ってばっかりだ、今日。

 

 

 


 

 

 

 

 

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