#04 彼女との距離 呼び込む男

 《前回までのあらすじ》

 後輩なんだし。

 

 別に昨日あんなことがあったからといって今の状況がどうにかなっているなんてことはあり得ないし、鉄板敷いて寝たりだとか、朝妹がやってきて湯豆腐づくりに二時間かけたなんてことは大したことでもなかった。

 日常は続く。

 

 そして登校して何で抜け出したのかとか問いつめられるわけだが、まぁ笑って誤魔化せばいいことに過ぎなかった。

 問題はなし。


 しかしやはりあのことは俺にとって重要な変化だったと思い知らされるのは、やはりお昼時のようだった。


 やはりいつもの友人たちと昼食を取っていたのだが、しかしまたしても廊下が騒がしくなっていた。

 「逃げる?」

 「あーいやぁ……うーん」

 仕方なく出てみたら、なんと今度は彼女一人であった。

 どこか張り付いたような笑みでこちらを見つめてくる。

 昨日も感じたように、別人としか思えない。

 「……どうしたんだ」

 「二人でお話ししたくて。放課後屋上まで来てくれますか?」

 「はぁ……いいけど」

 「ありがとうございます」

 そう頭を妙に深々と下げると、姿勢良く踵を返して上の階に戻っていった。 

 「……マジで?」

 「マジなんだよ」


 放課後、屋上に行くと鍵は開けられていた。

 本来生徒が開けてはいけないのだが……まぁ彼女のことだ、しっぽ振る教師が一人いてもおかしくない。

 屋上に上ってみると、塀に肘を乗せて気だるそうに彼女が待っていた。

 「よぉ」

 彼女が振り向いて見せた。

 制服のシャツの襟が緩い。おそらくスイッチが入っている、ということなのだろう。

 相変わらず、二人きりになるとそういう声で、そういうしゃべり方になるようだ。

 「……まず言いたいことがある」

 「なんだよ」

 「君の名前が知りたい」

 「……そういえばそうだな」

 「俺は長南。長南幸司だ」

 「私は村外。村外悠里だ」

 「じゃあ俺は村外と呼ぼう」

 「じゃあ私は長南と呼ぶ」

 「先輩だぞ」

 「るせぇ」

 「……で、なんなんだよ。なんで呼んだんだよ。できればかかわり合いになりたくないって言ったはずなんだけど」

 「じゃあなんでここにいるんだよ」

 「あれだけ注目されたらね」

 「ひゃひゃひゃ」

 「……で、用件は何なんだよ」

 「

 「ふーん、なるほど」

 「あんた、何も知らないんだろ?」

 「そんなこと言ったって君だって二人しか知らないだろ」

 「親切心なんだぞ」

 「ほんとだ」

 「謝れ」

 「ごめんなさい」

 なんか殺されかけた相手に情を押しつけられて例も強要された。

 なんだこの状況。

 「まず、この能力は骨が爪のような状態で拡張されて、それを操れるってのが共通点だ」

 「はい」

 「でもそれだけじゃねぇ、私の場合肉体がやたら強化されてる」

 「あー」

 たしかに、あのときの超スピード。

 あれは普通に出せるものではない。

 「お前の場合ってことは」

 「あのおっさん見てたらわかんだろ、あのおっさんは飛べるっていう能力もってっけど、でも肉体は普通そうだった」

 なるほど。

 ということはつまり……。

 「操る骨によって得る副次的能力は変わるってことか」

 「まぁそうなるな」

 「ということは俺も」

 「後々何かしらの能力に目覚めるってことだ」

 「ふーーーん……」

 少し期待した。

 「まぁ能力云々じゃないけどな、お前は」

 「仰るとおりです」

 「……明日も来いよ。教えてやる」

 一瞬身体が固まった。

 「いやぁ、ありがたい」

 「だろ?」

 なんでだろうか。

 あくまで俺も胡散臭い能力者の一人でしかないと思うのだが。

 そんなに信用してるのか。俺を。

 「……じゃあ私、そろそろ塾だから」

 「それじゃ」

 「また明日」

 なんか妙に軽い足取りだったが。

 いいのか。これ。


 結局彼女がなんか優しくなった、としかわからなかった。

 そんな風に村外と別れた後考えながら一人で帰っていると。

 羽根が頭に落ちてきた。

 なんで羽根が落ちた、というだけでこんな風に描写するかというと、むろんその羽根は鳥類のものと言うには堅いし、白いし、すこし重みがあったのだ。

 ツルツルしたその羽根は骨のようだった。

 そう、骨と言えば……。

 と思うと、なぜだか身体が思ってもみない方向を向いて、そのまま全身し始めた。

 下校する方面とは全くの逆方向だ。

 ……まさかとは思うが、この羽根か?

 ……。

 まさか?まさかとは思うが?

 

 そしてそのまんま歩いていくと、気づけばそこはここら辺だと一番大きい病院だった。

 そしてそのまま受付まで身体が勝手に連れて行かれる。

 「すいません、韮沢実と面会を取りたいのですが」

 そんなこと考えてもないのに言わされる!

 それも知らないおっさんの名前を!

 「よかったですね!ギリギリで面会可能です!」

 「それはよかった」

 そのまんま教えてもらった番号に向かっていく。

 そして扉を開けた先に。


 「やぁ」

 

 包帯で全身がぐるぐる巻きになった中、かろうじて目と鼻と口だけ出している男が、ベッドの上にいた。


 「……生きてたんですね」

 「おいおい他人行儀じゃないか。僕らはファミリーだろ?」

 「まぁそうとも言える」

 「そう言っておこう」

 「じゃあなんでファミリーにこんなことさせるんです?」

 「妹は催眠にかけるものだろう?」

 「家族観が狭すぎる……」

 まぁそれはそうととにかく、会えたのならば聞きたいことはまぁまぁある。

 「……なんで村外にあんな風に近づいたんです?」

 「調査だね」

 「調査」

 「僕は生物学者でね。それで自分にこんな現象が起こってどうしようかと思った矢先、屋上を飛び跳ねて移動する少女を見かけて、そのまんま声をかけた、それだけにすぎない」

 「彼女怖がってましたよ」

 「それは済まなかった」

 「俺も殺されかけましたよ」

 「それは済んだな」

 「おい」

 やなタイプの大人だ。のらりくらりと、高校生くらいの子供をおちょくるのが大好きな、あのえっちなお姉さんじゃないとイライラしかしない類の。

 「調査って、何を調べるつもりだったんです?」

 「まぁ、例の副次的な能力だな」

 あの例の。

 空を飛んだり、驚異的に運動能力が増したり。

 「そこには部位との共通点がある」

 「……というと?」

 「僕は肩に翼が生えて飛べるようになった。これは肩、肩胛骨に繋がってるってわけ。」

 「そーかな……」

 どっちかというと背中とか腕の気がするのだが。

 「そしてあの子……肋骨の子は心臓が強化されてるんだろう。それにより血管等も強化されて、限界突破した運動が可能ってわけだ」

 「俺も出るんすか」

 「恐らくね。脊髄が主だから反n……やめておこう。ネタバレになる」

 「なんのだよ」

 「まぁそのうち扱えるようになるだろうよ」

 「……あいつに鍛えてやるって言われたんすけど」

 「夜の方を?」

 「アホ」

 「まぁ彼女は聞く限り君に随分気を許しているようだ」

 「いや本当になんでなんでしょうね」

 「まぁ稽古でも唾でも何でも付けてもらいなよ。他の能力者が何してくるかわからないんだからさ」 

 「はぁ……」

 「危ないからね」

 「……言いたいことってそれだけですか」

 「あぁ、そうだそうだ」

 韮沢さんは近くの台に置いてあったスマホを手に取った。

 「ラインを交換しようと思ってね」

 「……結局変な理由……」

 

 そういうことで。

 背中からトゲが生えてきた生活が本格的に始まったわけなのだ。  

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