#03 今朝の女 暗雲の道
《前回までのあらすじ》
許さんぞお前ら。
仕方がないのでその場を離れることにした。
そしたら時計を見るとまずかった。
本来ここを離れる時間から大幅にオーバーしている。
このまんまでは遅刻してしまう。
俺は単位だけは落とさないように生きてきたのだ。
とにかく全力疾走するほかなかった。
教室に何とか着くことができたものの、しかしその途端クラスメートに囲まれることを俺は全く考慮していなかった。
「どうなってんのこれ」
「真っ赤だけど、マニキュア?」
「食える?」
「全部わかんねぇ」
一体これは何なのか?
まぁすぐにわかるようなものでもなさそうだ。
その後も教師に毎回質問されて毎時間授業が半分吹っ飛んだりした。
が、なんだかんだ無事に昼休みまで到達した。
問題はここからである。
俺は友人数人と昼飯を食っていた。
シナモンクロワッサンを袋から取り出しかじる。
サクサクした外側ともっちりした内側の取り合わせが心地よい。
「一層くれよ」
「なんだその気持ち悪い要求」
それで一口やったりしたのだが。
やたら教室の外が騒がしくなってきた。
「なんだなんだ」
友人の一人が窓から身体を乗り出す。
固まって動かなくなった。
「めんこいおなごだぁ……」
「方言!」
そんなびっくりするくらいの美人?
ん?
いや気のせいだろう。
試しに教室の外に出る。
確かに制服を着込み。
有象無象の取り巻きを連れ。
顔つきは少し柔和だったが。
それはまさしくあの今朝の、ジャージの少女だった。
だとしたら、なんだ?
目的は、なんだ?
「悠里、あの人じゃない?」
「あ、ほんとだ」
そう友人に答えている顔は普通の少女のようである。
また、制服のリボンから彼女が年下であることもわかった。
しかし美しさはその親しみやすさのせいで引き立てられ、ますます彼女は魅力的に写ってしまっていた。
美しさがコントロールされている。
事実廊下の人間は、彼女の美しさの虜になったかのように、そこで思考と行動を停止する他なかった。
てかそんなこと考えている暇はないような気がしてきた。
踵を返して駆けだした。
それしかないじゃない、だって。
学校の裏口から抜け出した。
あの中にいること事態が自殺行為だ。
まさか同じ高校の生徒だとは思いもしなかった。
これはとてもまずい状況だと思う。
彼女は人をたどって俺のことを簡単に知ることができる。
というか現に今そうなっている。思った以上に追いつめられるスピードが速い。
何度も言うが発現して半日くらいしか経っていない。そろそろ神に馬鹿野郎と言っていいと思う。
どうしよう。もう高校に行けない。
それどころか義妹や家族にも会えない。
どこに逃亡する?ロシア?死ぬ。
途方に暮れるとはこのことだ。
なんか外にいると悲しくなるのでマクドナルドでコーヒーを頼んで居着くことにした。
整理しよう。
骨を身体から生やす『能力者』は今のところ俺を含めて三人。
多分脊椎である俺。
胸からかなりの数生えていたからあの女は肋骨。
そんで刺されたおっさんは肩から生えてたので肩胛骨ってところだろうか。
残るは頭、腕、足、腰くらいか。
まぁ同種がいる可能性も否定できない。
助けが欲しいところだが、あのおっさんくらいしか知らないし、しかも正直生きているかどうか怪しい。
考えてもどうしようもない。
冷めきったコーヒーを飲み干して店を後にした。
なんかその瞬間ラリアットを食らった。
別にそれなら吹っ飛ばされるだけで済むのだが、しかし仕掛けている相手のスピードが速すぎるのか、相手の腕にずっと首が引っかかって離れないようになっている。
そのまま俺はどこかに運ばれていく。
何者か確認しようにも首が固定されているので全くわからない。ただその匂いから、女であることしかわかりはしなかった。
なんか確実によからぬことが起きてそうな路地裏で、ようやく解いてもらう……まぁそのまんま少し吹っ飛ばされてはいるのだが。
そして面を上げてみると。
そこにはあのときと同じ格好の、彼女がいた。
「よぉ」
随分とドスの利いた声だった。
見ると目つきもかなりキマっているというか、どこかは虫類じみた感じがあった。
全然違う人みたいだ。
俺は手を地面に八の字に置いて頭を下げた。
「お願いします……許してください……」
誠心誠意を示したつもりだったのだが。
頭を強引に持ち上げられて、立たなければならなくなる。
しかも腹部につつかれたような感覚。
下を見たら、彼女の肋骨が俺の腹に届こうとしていた。
「な〜に甘えたこと言ってんだこの野郎」
「死にたくないし……」
「能力者は全員私が殺すんだよ」
「……じゃあ何で朝見逃した」
「遅刻しそうだったから」
「そうか」
「……考えればわかることだろ」
「そうかもしれない。じゃあ何であの人と戦った」
「……」
「死ぬのはいい。ただ理由が知りたい」
「……あのおっさんが検査させろって言うから。何度も何度も、無視したりしても、ずっと」
「そりゃしゃーない」
あのおっさんそんな変態だったのか。
「……お前は、どうなんだよ」
「正直関わりたくないな」
「へ」
「床に穴が空くわ、君に追っかけられるわとろくなことがない」
「……そう……」
そうすると、彼女は肋骨を解いた。
「……じゃあな」
「それじゃあね」
彼女は去っていった。
しかし時間と単位は帰ってこない。
……てか何で俺の居場所がわかったんだ?
死にかけたような様子で家に帰ると、なぜだか床の穴はふさがっていた。
そしてすぐに鍵が開けられた。
「兄さん、どうしたんです?そんなのびちゃって」
「……ろくな目に遭わなかったんだ」
「……いつもじゃないですか?」
「そうだけども。てか床。まさかお前」
「えぇ。今日中に業者に直してもらいました。勿論私の懐からです」
「やーりやがったコイツ」
ほんとにしてしまうとは思いもしなかった。
いや考えが甘かっただけかもしれないが。
……にしても気がかりなのはあの彼女である。
美しく、そして苛烈な少女。
いやなんか俺なんかの説得で納得したっぽかったけど、いやあれで納得していいのだろうか。
てかそもそも納得要素どこにあった。
まぁとにかく。
彼女とはまた会うのだろう。
同じ高校なんだし。
後輩なんだし。
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