第48話 またいつかと言えるように
冴え渡る剣技は、凶暴な魔獅子たちを事も無げに斬り伏せてゆく。
薄闇に
その真っ直ぐで迷いのない剣筋に、
「ヨハ……」
「お前ぇ!
涙目で声を荒げるジャンルカのもとへ、大股で歩み寄って来たのは、肩に
「馬鹿言え。俺だけ閉め出し食ってたの忘れんじゃねえよ」
一抹の寂しさを覚えるとともに、ほっとした自分もいる。人の生き死には不可逆だ。でなければ、ありえない願いまで求めてしまう。
(しっかりしなさい、
ぼんやりしている暇はない。牙を
「門はいつ通れるように?」
「五分も経っていないはずだ。気づいてすぐ駆けつけて来た。カミーユが残した
タイミングからして『扉』が開き切る前後だろう。その影響で遺跡に何らかの不具合が起こったのかもしれない。
「
「行こう。
献慈は向き直ることなく
開けた突破口。カミーユが先導し、澪が
*
遺跡の門前には、
「ここまで来ればさすがに大丈夫だよね」
〈
「やっぱこっちのんが可愛ええよね!」
「わたくしも左様に存じます」
悪乗りしたシルフィードまでもが、ラリッサと一緒になってカミーユを愛玩動物のように撫で回す。
「はぁ~……もう好きにしろぉ」
反発する体力も残ってはいないのか、カミーユはされるがままになっていた。
一方、地面にへたり込んだジャンルカは、弾む息の間から愚痴をこぼす。
「ったく、寿命が縮んだぜ。何だよ、あの復活大サービスはよぉ」
「ハハッ、
背後からの唐突な返事。ジャンルカはバネ仕掛けのように飛び起きた。
「イグナーツ! もう追いついて来たのかよ!?」
「安心しろ。一匹残らずブッ倒してきた」
頼もしさも度を過ぎれば嫌味ですらある。あからさまに渋面を作るジャンルカを、イグナーツは鼻を鳴らし見下ろしていた。
「『扉』はどうなりましたか?」
「綺麗さっぱり消え失せたよ。ただ、直前に妙なことがあってな」
魔獅子たちを全滅させるも、『扉』は依然として開いたままだった。増援が来るかと身構えたイグナーツは、境界の向こう側で悪魔たちが争う気配を感じたという。
ややあって『扉』は収束し、両世界は元どおり
(きっとカーヴェたちだ)
暮れなずむ夏空を見渡しながら、澪は
「持っておきなよ」
「……そうする」お守りを仕舞い、問いかける。「献慈は本当にいいの? 遺跡をもっと調べるなら今のうち――」
「いいんだ」
「実際訪れてみて確信したよ。遺跡を
「それって、前に献慈がお世話になったって人?」
うなずいた後、
そのマレビトは、遺跡の中心に故郷へ続く『扉』を開くつもりでいた。だが、その先が魔界へ
いずれ別の正しい方法を発見する時まで、遺跡を荒らされぬよう封印しようと考えたのだ――自分か、自分の意志を継ぐマレビトにしか解けない方法で。
「ついでにカプセル内の素体も確保していたんだと思う。寿命が尽きるまでに方法が見つからなかった場合、自分の魂を移して研究を続けられるように」
「でも、その人は結局……」
もう一度故郷へ帰りたいという未練。
「俺は何も迷ってなんかいないよ。未練も後悔も、ありのまま受け入れて生きていくって決めたから」
カミーユもラリッサもきっとそうだ。生き別れた姉に、亡き祖母に、それぞれ心残りを抱えたまま、それでも笑顔で前へ進んでいる。
(献慈だけじゃない。私だけじゃないんだ)
心がふっと軽くなった。
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