第47話 さよならは似合わない
両断された獅子の殻を脱ぎ捨て、胸像が
それは
『扉』は開かれていた。それは彼の者の命が捧げられたことの証明。
別離の時が訪れたのだ。
「……カーヴェ?」
澪の内側で声が聞こえた。行かなくてはならない――と。
「待ってるんだね。むこうで」
半ば混じり合ったカーヴェの霊体が『扉』に引き寄せられ分離してゆく。その最後の瞬間、
「……よかったね」
さよならは言わない。共に過ごした時間も、結ばれた縁も、消えて無くなったりはしないのだから。
霊障で白化していた
横たわる
救いなき
「放っときなよ。ソイツがしでかしてきたこと、知らないわけじゃないでしょ?」
カミーユの言い分ももっともだ。
「そうだとしても、誰にも看取られない最期なんて寂しすぎるだろ」
力なく突き返される、悪態。
「敵に情けをかけるか……見下されたものだ」
「そう思うか?」ジャンルカが口を挟んだ。「
ゆっくりと見開かれた百慶の瞳は、彼を真っ直ぐに見下ろす献慈の
「よう見んさい、献慈くんの手元」
ラリッサに促されるまま、百慶の視線が横へ動いた。
献慈が手にしていたのは、香木をくり抜いて作られた数珠――
「この世の全部を恨み抜いたまま死んでいくなんて、許さないから」
百慶の目元には、敗者らしからぬ穏やかな微笑みが浮かんでいた。
「揃いも揃って……お節介な、奴ら……だ……――」
事切れて後、黒く変色した
死闘は静かに終わりを告げた。
――気をつけて。
(……カーヴェ……?)
内側からの声。わずかに残った
間もなくして、ジャンルカが警告の声を上げる。
「おい、見ろ! 『扉』が……向こう側からこじ開けられてるぞ!」
見ろとは言われたが、それは肉眼では捉えられない。澪に察知できたのは、いくつものただならぬ気配が、異界からこちら側へと侵入したことだけだった。
「みんな、
続くカミーユの呼びかけに、
壁際に並んだ容器内の素体が、膨張しながら不気味な
「悪魔憑き……!」
「総員、
「四人とも、ここはオレに任せな」
「何……言ってるの……?」
「オレが食い止めるから、先に行けって言ってるんだよ」
自信
「で、でも……」
「大丈夫だ。パワーアップした今のオレが、生まれたての一匹や二匹に
「違うってば! ジャンルカ、後ろ!」
「後ろ?」
振り向いたジャンルカは、十体を超す魔獅子――
「や、やっぱ今のくだり全部ナシで!!」
「よいよ……ジャンパイはすぐ調子乗るけぇじゃ」
ラリッサに守られながら、ジャンルカはなおも慌てふためく。
「つか、どーなってんだよぉ、この状況ォ!?」
「おそらくですけど」
「イムガイで似たような妖怪と戦ったっけなー……強さは段違いっぽいけど」
カミーユも臨戦態勢に入るが、激闘を経た消耗は隠しきれていない。
疲弊の度合いは、
旗色は極めて絶望的。希望があるとすれば、
(見た目はともかく、本物ほど――)
所詮は偽物。であればよかったのだが。
(――強い……!)
襲いかかる獣爪。受け流しそこねた一撃は、本物の威力に劣らない。緩みかけた手の内を即座に締め直し、
「新月流――」
「――〈
敵群の後方で、二体の魔獅子が瞬時に細切れとなり散った。
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